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第200章『告白』
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第200章『告白』
低く、けれど張り詰めて怒りに塗れたタカコの声音、怒りが迸るその背中を見つめながら、大和勢三人は話が全く見えずに内心混乱状態に在った。彼等の、そしてタカコの言う『奴』とは誰なのか、どう控えめに見積もっても穏やかで友好的な関係を築いている相手ではない様だが、それにしてもタカコの怒りが凄まじ過ぎる。彼女が好戦的な人間である事に関して異論は無いが、それでもこうもあからさまに憤怒や憎しみの感情を表に出し、剰え相手に安全装置を解除した銃口を向ける様な人間ではない筈だ。何か余程許す事の出来ない因縁を持った相手の様だ、放っておけばこのまま殺しかねないだろう。
大和としては突然現れた彼等三人が死んでも構わないがそれでも今ここで騒ぎを起こすのは拙い、そう判断した高根がタカコを制止しようとした時、床に転がったウォーレンが顎と腹を摩りつつゆっくりと立ち上がり再びタカコの前に立つ。
「……マスター、貴方が奴との因縁に拘る様に我々は貴方の御身の安全が第一です、貴方のその思いよりもです。我々はそんな其々が目指すものが違う人間の集まりの筈です、我々を集めた貴方がそれを認めないと仰るのなら、今この場で殺して下さって結構です……狭量な主に仕えた事は我が不明として諦めましょう」
何とも痛烈な一撃、無関係の高根や黒川や敦賀ですらキツイ事を言うと思ったそれはタカコには尚の事響いたのか、暫しの沈黙の後に彼女は大きく舌を打ち、拳銃の安全装置を元に戻して腰に刺した。
「……降ったと言ったが……まさか本心じゃあるまいな?」
「御安心を……上陸する直前にそれなりの損害を与えて離脱しました、もう用済みです」
上陸、損害、その言葉に少し前に対馬区の海域で発見された漂着船の事を思い出す大和勢三人、あれは彼等の手に因るものだったのかと顔を見合わせれば、タカコも同じ事に思い至ったのだろう、
「そうか……あの漂着船はお前等の仕業か……ったく、派手にやりやがって……怪我は無かったか?」
と、何とも愉快そうに肩を揺らせて笑い、然り気無く部下の身体を気遣って見せる。そして、
「……ならもう良い、分隊にも満たない人数だが……『P』、ここに復活だ、ケインとヴィンスも無事だ、後で顔見せに行って来い」
そう言ってもう一度肩を揺らせて笑い、手出しも口出しも出来ずにいた敦賀達へと向き直る。
「ちょっと色々と込み入った事情も有るが、この三人が大和に害を為す存在でない事は私が保証する、私の命令が無い限りはな。無論、私にも現時点で大和への害意は無い、安心してくれ。それで、真吾とタツさんに頼みたいんだが、外国系の大和人に対して証明書を発行するようになってるよな?大和政府発行のアレ。アレをこのマリオとジェフに発行してもらえるように話を通して欲しいんだ。それさえ有れば陸軍でも海兵隊でも入隊出来るし、そうなれば真吾もタツさんもこの三人を私と同じ様に好きに扱える、悪い話じゃないだろ?アリサは見た目が大和系だから証明書は要らないけど、入隊出来るだけの身分を整えて欲しい」
大和国内にも大和人種だけではなく外国の流れを汲む大和人は少数ながら存在し、外国からの攻撃を受ける可能性が有るとの報告を統幕から受けた大和政府は、外国系の大和人の保護の為、彼等に対して大和人である事の証明書の発行を最近始めた。戸籍の管理が隅々迄行き渡っていない現状では発行迄の過程に多くの穴が有り、軍か政府に伝手が有れば証明書申請の為の書類の偽造はそう難しくはない。そこに食い込んで彼等二人の身分を保証して欲しい、代わりに戦力として協力しよう、そういう事かと高根は思い至り、海兵隊総司令と陸軍西方旅団総監にそんな犯罪行為に手を貸せとさらりと言ってのけるとは大した度胸だと笑い出す。
「まぁ、偽造なら既にお前でやってるしなぁ?分かったよ、きっちり協力してくれるなら安いもんだ、早急に準備しよう」
「また悪事に手を染めるわけね、俺達」
「お願いしますよ、総司令様と総監様」
タカコの身分の偽造は軍内部だけの話だったからまだ簡単だったが、証明書の発行手続きともなれば政府の管轄、多少ややこしい事にはなるがそれでも充分可能だと高根は請け負い、
「鳥栖市民はほぼ全滅の様子だ、三人共この鳥栖の出という事にしておけば話も簡単に手早く進められるだろう、タカコと敦賀が保護した民間人って事にして取り敢えずは軍の保護下に置いておくとするか。それなら話は早い方が良い、誰かに面倒見る様に話付けて来るよ、マリオとジェフとアリサね……よし、お前等俺について来い」
大勢で動くのも不審がられるだろうからお前等はここで待っていろ、そう言って高根だけが三人を連れて天幕を出て行き、後に残されたのはタカコと敦賀と黒川の三人。
「……ああ、そうだった、二人に話しておきたい事が有ったんだ」
奇妙な沈黙の中、最初に口を開いたのはタカコ、天幕の中に散らばっていた椅子を集め三つ並べその真ん中へと腰を下ろすと、
「二人に聞いて欲しいんだ、良いかな?」
と、少しだけ悲しそうに微笑み両側の椅子をぽんぽんと叩き、座れ、と言外に促して見せる。敦賀は凡その見当は付きつつ、黒川は何の事だと疑問に思いつつ、それでも双方何も言う事は無くタカコの両脇へと腰を下ろした。
「……私とね、旦那と、仲間の話。ううん、旦那と仲間の、その最期の話。二人に話しておきたいんだ」
低く、けれど張り詰めて怒りに塗れたタカコの声音、怒りが迸るその背中を見つめながら、大和勢三人は話が全く見えずに内心混乱状態に在った。彼等の、そしてタカコの言う『奴』とは誰なのか、どう控えめに見積もっても穏やかで友好的な関係を築いている相手ではない様だが、それにしてもタカコの怒りが凄まじ過ぎる。彼女が好戦的な人間である事に関して異論は無いが、それでもこうもあからさまに憤怒や憎しみの感情を表に出し、剰え相手に安全装置を解除した銃口を向ける様な人間ではない筈だ。何か余程許す事の出来ない因縁を持った相手の様だ、放っておけばこのまま殺しかねないだろう。
大和としては突然現れた彼等三人が死んでも構わないがそれでも今ここで騒ぎを起こすのは拙い、そう判断した高根がタカコを制止しようとした時、床に転がったウォーレンが顎と腹を摩りつつゆっくりと立ち上がり再びタカコの前に立つ。
「……マスター、貴方が奴との因縁に拘る様に我々は貴方の御身の安全が第一です、貴方のその思いよりもです。我々はそんな其々が目指すものが違う人間の集まりの筈です、我々を集めた貴方がそれを認めないと仰るのなら、今この場で殺して下さって結構です……狭量な主に仕えた事は我が不明として諦めましょう」
何とも痛烈な一撃、無関係の高根や黒川や敦賀ですらキツイ事を言うと思ったそれはタカコには尚の事響いたのか、暫しの沈黙の後に彼女は大きく舌を打ち、拳銃の安全装置を元に戻して腰に刺した。
「……降ったと言ったが……まさか本心じゃあるまいな?」
「御安心を……上陸する直前にそれなりの損害を与えて離脱しました、もう用済みです」
上陸、損害、その言葉に少し前に対馬区の海域で発見された漂着船の事を思い出す大和勢三人、あれは彼等の手に因るものだったのかと顔を見合わせれば、タカコも同じ事に思い至ったのだろう、
「そうか……あの漂着船はお前等の仕業か……ったく、派手にやりやがって……怪我は無かったか?」
と、何とも愉快そうに肩を揺らせて笑い、然り気無く部下の身体を気遣って見せる。そして、
「……ならもう良い、分隊にも満たない人数だが……『P』、ここに復活だ、ケインとヴィンスも無事だ、後で顔見せに行って来い」
そう言ってもう一度肩を揺らせて笑い、手出しも口出しも出来ずにいた敦賀達へと向き直る。
「ちょっと色々と込み入った事情も有るが、この三人が大和に害を為す存在でない事は私が保証する、私の命令が無い限りはな。無論、私にも現時点で大和への害意は無い、安心してくれ。それで、真吾とタツさんに頼みたいんだが、外国系の大和人に対して証明書を発行するようになってるよな?大和政府発行のアレ。アレをこのマリオとジェフに発行してもらえるように話を通して欲しいんだ。それさえ有れば陸軍でも海兵隊でも入隊出来るし、そうなれば真吾もタツさんもこの三人を私と同じ様に好きに扱える、悪い話じゃないだろ?アリサは見た目が大和系だから証明書は要らないけど、入隊出来るだけの身分を整えて欲しい」
大和国内にも大和人種だけではなく外国の流れを汲む大和人は少数ながら存在し、外国からの攻撃を受ける可能性が有るとの報告を統幕から受けた大和政府は、外国系の大和人の保護の為、彼等に対して大和人である事の証明書の発行を最近始めた。戸籍の管理が隅々迄行き渡っていない現状では発行迄の過程に多くの穴が有り、軍か政府に伝手が有れば証明書申請の為の書類の偽造はそう難しくはない。そこに食い込んで彼等二人の身分を保証して欲しい、代わりに戦力として協力しよう、そういう事かと高根は思い至り、海兵隊総司令と陸軍西方旅団総監にそんな犯罪行為に手を貸せとさらりと言ってのけるとは大した度胸だと笑い出す。
「まぁ、偽造なら既にお前でやってるしなぁ?分かったよ、きっちり協力してくれるなら安いもんだ、早急に準備しよう」
「また悪事に手を染めるわけね、俺達」
「お願いしますよ、総司令様と総監様」
タカコの身分の偽造は軍内部だけの話だったからまだ簡単だったが、証明書の発行手続きともなれば政府の管轄、多少ややこしい事にはなるがそれでも充分可能だと高根は請け負い、
「鳥栖市民はほぼ全滅の様子だ、三人共この鳥栖の出という事にしておけば話も簡単に手早く進められるだろう、タカコと敦賀が保護した民間人って事にして取り敢えずは軍の保護下に置いておくとするか。それなら話は早い方が良い、誰かに面倒見る様に話付けて来るよ、マリオとジェフとアリサね……よし、お前等俺について来い」
大勢で動くのも不審がられるだろうからお前等はここで待っていろ、そう言って高根だけが三人を連れて天幕を出て行き、後に残されたのはタカコと敦賀と黒川の三人。
「……ああ、そうだった、二人に話しておきたい事が有ったんだ」
奇妙な沈黙の中、最初に口を開いたのはタカコ、天幕の中に散らばっていた椅子を集め三つ並べその真ん中へと腰を下ろすと、
「二人に聞いて欲しいんだ、良いかな?」
と、少しだけ悲しそうに微笑み両側の椅子をぽんぽんと叩き、座れ、と言外に促して見せる。敦賀は凡その見当は付きつつ、黒川は何の事だと疑問に思いつつ、それでも双方何も言う事は無くタカコの両脇へと腰を下ろした。
「……私とね、旦那と、仲間の話。ううん、旦那と仲間の、その最期の話。二人に話しておきたいんだ」
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