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第272章『小休止』
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第272章『小休止』
行動の開始から数時間が経過し、敦賀はその間ずっとタカコの背中を見続けていた。
「とにかく、私の一挙手一投足を見て頭と身体に刻み込め、全部覚えろ」
そう言って歩き出したタカコ、非正規兵側、しかもまだ訓練の準備段階で攻撃を仕掛けられる事も無い筈なのに、彼女の歩みはひどく遅く安全を確かめ確かめ歩いていて、全方位に神経を張り巡らせているのが後ろから見ていてもよく分かる。現在は前回設置した仕掛けで発動しなかったものの状態の確認、たった一人でどれだけの量を仕掛けたのかと思いつつ、敦賀はタカコに言われた通りに地図に仕掛けの位置と状態を書き込んでいる。
「少し休憩するか」
その歩みが止まったのは昼近くになってから、腰から拳銃を抜いたタカコが上空へと向けて数発撃ち、
「し」
と、敦賀を振り返って唇に人差し指を当てながら耳を澄ます。暫くして遠くから返って来た小さな銃声、カタギリかキムだろう、その彼等の応答を確認したタカコは拳銃を腰へと戻し、背嚢と小銃を地面に置きその横へと腰を下ろした。
「他も今のところ滞り無く進んでるみたいだな」
非正規兵役に選ばれた人間を三つに分け、第一班はタカコと敦賀、第二班はカタギリと島津と藤田と薮内と織田、第三班はキムと荒川と泉と大河原と毛利、その構成で先ずは前回の仕掛けの確認作業に当たっている。
「で?どうよ?」
「どうって……まだ訓練の本番でもねぇのにこんなに気を張らないといけねぇってのもな」
背嚢から取り出した飴を口に放り込みつつ敦賀へと話し掛けるタカコ、それに敦賀が思ったままを口にすれば、タカコは笑って言葉を続ける。
「既に監視されてるよ、私達は。お前だって分かってるだろ?前回の訓練の直後から巷で不穏な動きが起き始めただろう、軍の動きは外部に筒抜けになってると思った方が良いな。抗体の有無で一定数は捕縛出来たが、それを見越して抗体の投与無しで潜入させたのもいたんだろう、予想はしてたがな。民間の方はそれ以上に察知の仕様が無かったし、民間への抗体の投与も進んじまった今じゃ見極める方法は無いよ。あちこちに目と耳が有るってのを前提として事を進めるしか無い。この鳥栖も柵や堀が有るわけじゃなし、入り込もうと思えば簡単に出来る。見られている、いつ仕掛けて来られるか分からない、そう思って動かないと……死ぬぞ?」
「……俺等大和の情勢は良くはねぇのは分かってたが、そこ迄か」
「ああ、これはお前もあの二人から聞きはしただろうが真吾とタツさんにはもう言って有る、内部だけなら草を使った監視活動も多少は出来るからな。ただ、今そちらに力を割くよりは、この訓練に全力を注いでモノにした方が良い。恐らくは、探してる間に時間切れになるから」
口腔内で飴を転がしながら空を仰ぐタカコ、淡々とした言葉とは裏腹に内容は重く、敦賀はそれを聞きながら背嚢から水筒を取り出して口を付ける。相手がどれだけの規模で静かな侵攻を開始したのか、現状でも概況だけは把握したものの詳細は不明なまま。これに関してはタカコも相手の規模を掴みかねている様子で、今し方言った様に『出来る事に全力を』という事は何度も聞いているし、高根や黒川だけではなく敦賀もそれに同意している。
市街地を丸ごと演習場にした為、鳥栖市街地演習場はその広大さ故に外部と内部を隔てる柵や堀を持たない。周辺から通じている道路に関しては大きな障害を設けたり監視所の設置等はしているものの、それも全ての不審者や侵入者を遮断出来るものではなく、タカコの言う様に敵勢が攻撃を仕掛けて来ても何の不思議も無い。
ここは、鳥栖は、まるで今の大和の様だ、と、ふとそんな事を思った。侵入を受けている事は明白なのにその深さと広さ故に直接的な対処は出来ず、それに気を配りつつも別の事に注力するしか無い。胃が痛くなる様な日々がいつ終焉を迎えるのか見当も付かず、どうしたものか、と、水筒の蓋を締めつつ敦賀もまた空を仰いだ。
「そろそろ行こうか、前回の仕掛けの点検をさっさと終わらせないとな」
「……お前……前回どれだけ仕掛けやがった……あん時は一人だったろうが」
「タカコさん有能ですし。うふふ」
「『うふふ』じゃねぇよ……」
地図に付けられた印は既に五十を超え、中には重機を使わなければ作れない様なものも有った。一人でこれだけの事をやるとはやはりこういう方面は人外の域だな、そう小さく嘆息して立ち上がり背嚢を背負い直し小銃を抱える敦賀、タカコは彼のそんな様子を見て笑うと
「行こうか。あ、さっき教えた手信号お浚いな。これは?」
「人質」
「正解。これは?」
「敵」
「お、正解。これは?」
「止まれ」
「おー、良いね良いね。これは?」
「急げ」
「すげー、敦賀ってば出来る子じゃーん」
「……えらく虚仮にされてる気がするんだが気の所為か」
「してないしてない、真吾みたいな事言いなさんなよ」
「……あいつに何したんだ、お前」
「どっちかって言うと私がされた方かな、あれは」
「……何が有った」
「……さ、次行こう次」
「待て、何が有ったか吐け」
「知らなーい」
「おい、待ちやがれ!」
気持ち良く晴れ渡った空の下、荒れ果てた廃墟には似つかわしくない明るいタカコの声音、敦賀はそれにいつもの様に言葉を返しつつ進み、タカコがそれを聞いて笑顔を浮かべる。作戦行動下に有るにしては随分と和やかな雰囲気の中、二人は無人の街並みへと消えて行った。
行動の開始から数時間が経過し、敦賀はその間ずっとタカコの背中を見続けていた。
「とにかく、私の一挙手一投足を見て頭と身体に刻み込め、全部覚えろ」
そう言って歩き出したタカコ、非正規兵側、しかもまだ訓練の準備段階で攻撃を仕掛けられる事も無い筈なのに、彼女の歩みはひどく遅く安全を確かめ確かめ歩いていて、全方位に神経を張り巡らせているのが後ろから見ていてもよく分かる。現在は前回設置した仕掛けで発動しなかったものの状態の確認、たった一人でどれだけの量を仕掛けたのかと思いつつ、敦賀はタカコに言われた通りに地図に仕掛けの位置と状態を書き込んでいる。
「少し休憩するか」
その歩みが止まったのは昼近くになってから、腰から拳銃を抜いたタカコが上空へと向けて数発撃ち、
「し」
と、敦賀を振り返って唇に人差し指を当てながら耳を澄ます。暫くして遠くから返って来た小さな銃声、カタギリかキムだろう、その彼等の応答を確認したタカコは拳銃を腰へと戻し、背嚢と小銃を地面に置きその横へと腰を下ろした。
「他も今のところ滞り無く進んでるみたいだな」
非正規兵役に選ばれた人間を三つに分け、第一班はタカコと敦賀、第二班はカタギリと島津と藤田と薮内と織田、第三班はキムと荒川と泉と大河原と毛利、その構成で先ずは前回の仕掛けの確認作業に当たっている。
「で?どうよ?」
「どうって……まだ訓練の本番でもねぇのにこんなに気を張らないといけねぇってのもな」
背嚢から取り出した飴を口に放り込みつつ敦賀へと話し掛けるタカコ、それに敦賀が思ったままを口にすれば、タカコは笑って言葉を続ける。
「既に監視されてるよ、私達は。お前だって分かってるだろ?前回の訓練の直後から巷で不穏な動きが起き始めただろう、軍の動きは外部に筒抜けになってると思った方が良いな。抗体の有無で一定数は捕縛出来たが、それを見越して抗体の投与無しで潜入させたのもいたんだろう、予想はしてたがな。民間の方はそれ以上に察知の仕様が無かったし、民間への抗体の投与も進んじまった今じゃ見極める方法は無いよ。あちこちに目と耳が有るってのを前提として事を進めるしか無い。この鳥栖も柵や堀が有るわけじゃなし、入り込もうと思えば簡単に出来る。見られている、いつ仕掛けて来られるか分からない、そう思って動かないと……死ぬぞ?」
「……俺等大和の情勢は良くはねぇのは分かってたが、そこ迄か」
「ああ、これはお前もあの二人から聞きはしただろうが真吾とタツさんにはもう言って有る、内部だけなら草を使った監視活動も多少は出来るからな。ただ、今そちらに力を割くよりは、この訓練に全力を注いでモノにした方が良い。恐らくは、探してる間に時間切れになるから」
口腔内で飴を転がしながら空を仰ぐタカコ、淡々とした言葉とは裏腹に内容は重く、敦賀はそれを聞きながら背嚢から水筒を取り出して口を付ける。相手がどれだけの規模で静かな侵攻を開始したのか、現状でも概況だけは把握したものの詳細は不明なまま。これに関してはタカコも相手の規模を掴みかねている様子で、今し方言った様に『出来る事に全力を』という事は何度も聞いているし、高根や黒川だけではなく敦賀もそれに同意している。
市街地を丸ごと演習場にした為、鳥栖市街地演習場はその広大さ故に外部と内部を隔てる柵や堀を持たない。周辺から通じている道路に関しては大きな障害を設けたり監視所の設置等はしているものの、それも全ての不審者や侵入者を遮断出来るものではなく、タカコの言う様に敵勢が攻撃を仕掛けて来ても何の不思議も無い。
ここは、鳥栖は、まるで今の大和の様だ、と、ふとそんな事を思った。侵入を受けている事は明白なのにその深さと広さ故に直接的な対処は出来ず、それに気を配りつつも別の事に注力するしか無い。胃が痛くなる様な日々がいつ終焉を迎えるのか見当も付かず、どうしたものか、と、水筒の蓋を締めつつ敦賀もまた空を仰いだ。
「そろそろ行こうか、前回の仕掛けの点検をさっさと終わらせないとな」
「……お前……前回どれだけ仕掛けやがった……あん時は一人だったろうが」
「タカコさん有能ですし。うふふ」
「『うふふ』じゃねぇよ……」
地図に付けられた印は既に五十を超え、中には重機を使わなければ作れない様なものも有った。一人でこれだけの事をやるとはやはりこういう方面は人外の域だな、そう小さく嘆息して立ち上がり背嚢を背負い直し小銃を抱える敦賀、タカコは彼のそんな様子を見て笑うと
「行こうか。あ、さっき教えた手信号お浚いな。これは?」
「人質」
「正解。これは?」
「敵」
「お、正解。これは?」
「止まれ」
「おー、良いね良いね。これは?」
「急げ」
「すげー、敦賀ってば出来る子じゃーん」
「……えらく虚仮にされてる気がするんだが気の所為か」
「してないしてない、真吾みたいな事言いなさんなよ」
「……あいつに何したんだ、お前」
「どっちかって言うと私がされた方かな、あれは」
「……何が有った」
「……さ、次行こう次」
「待て、何が有ったか吐け」
「知らなーい」
「おい、待ちやがれ!」
気持ち良く晴れ渡った空の下、荒れ果てた廃墟には似つかわしくない明るいタカコの声音、敦賀はそれにいつもの様に言葉を返しつつ進み、タカコがそれを聞いて笑顔を浮かべる。作戦行動下に有るにしては随分と和やかな雰囲気の中、二人は無人の街並みへと消えて行った。
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