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序章(プロローグ)

第五話  『ライバル』

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「(こいつ…………強い!)」

 俺の腕を弾いた男は一見俺と体格の差はそれ程ないように見える。

 しかし男はかなり鍛えている様で――――その佇まいからしても並大抵の
 奴ではないことが判る。

「ッ!」

 それを理解した瞬間、俺は拳を握りパンチを繰り出す。
 対し相手もまたそれに合わせ拳を握り打ち合う形となる。

『それではここで新入生の情報を公開しましょう。
 黒髪の生徒は桐生寿人選手、そして金髪の彼は虎崎研護選手です!』

『桐生選手は荒らし三人をノシ、対する虎崎選手は約半数の参加者を倒して
 います。まさかまさかの大番狂わせ。通年最初に潰されるはずの新入生が
 ここにきて100ポイントを取り得る最有力候補へと成り上がった!』

 アナウンスの煽り文句で会場の熱気は更に高まる。
 ポイントや出場者に比例して、観戦客自体も少ないながらもその熱は異様な
 雰囲気を醸し会場を包む。

「はぁはぁ」
「ふーふー」

 そんな中、激しい殴り合いを終えた俺たちは互いに息を荒げ、
 両肩を呼吸のリズムで上下に揺らす。

「(コイツ、喧嘩慣れしてるな。それに体格の良さも相まって力が強いッ)」

 僅か数秒程の攻防だったにも拘わらず思ったよりも身体には奴から受けた
 ダメージが残る。それは相手としても同じだろうが、なんせ一撃一撃が
 向こうの方が重い。

 こちらの長所が動体視力と反射神経なのを踏まえると、
 手数差を考えても実力は五分。

 ――――つまり先によりいい攻撃を決めた方が勝つ。

「ぬぅ!」
「うぉぉ!」

 再び互いの拳が重なり合う。
 が、僅かに先に奴の拳が俺の頬を叩く。

「ぐっ……」

 瞬間、奴が勝利を確信したような表情を浮かべる。
 だがまだ試合は終わっていない。

「ぐおッ!」

 直後、俺の拳が鳩尾にめり込み奴が大きく呻き声を上げる。

 ほぼ同時の相打ち。
 しかしながら須臾の間、意識を緩めてしまった奴にとってそれは
 自信の腹筋を貫く致命的な一撃となっていた。

「……がっ」

 そして奴が先に膝をついたことで、俺は100ポイントと書かれた
 オブジェクトを奪取。それを高らかに天へと掲げて見せた。

『おーと本試合、最初に100ポイントを取ったのは新人、
 桐生寿人選手だーーー』

 その演出とアナウンスにより会場は最高潮の歓声に包まれる。

 そうしてオブジェクトを奪い終えるとルールに乗っ取り、
 他の選手の邪魔にならないようにしてステージからすぐに降りる。

 するとそのすぐ後から先程の男、虎崎が50ポイントオブジェクトを
 持ってやってくる。

 一瞬こちらに視線を向けたことから何か文句でも言われるのではないかと
 思い身構えるも、結果としてその心配は杞憂に終わる。

 虎崎は特段こちらに対し何か話しかけたりするようなことはせず、
 ただ静かに目の前を素通りするとそのままステージ横の連絡通路へと
 消えていった。

「ふー」

 その様子を見て思わず深めの吐息が口から漏れる。

「(強かった…………)」

 最終的に試合に勝利できたからよかったものの、
 最後の攻防で奴が油断しなかったらと思うと内心ゾッとする。

 虎崎研護――――大会の規模が大きくなるにつれて奴以上の実力者が
 この先も現れると考えると中々どうして。エスぺラルドという競技は
 そう簡単に勝ち残れるほど甘いものではないらしい。

「(…………せめて奴の実力が同年代の中でも恐らくトップクラスであることを
 願うばかりだな)」

 そう思いつつも、俺もまた獲得したオブジェクトを手にステージを後に
 するのであった。
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