星降る夜の夜想曲

諸星影

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ROUTE1(プロローグ)

1-05  来襲

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 その日の夜。
 俺は初任務の緊張からかあまり眠れず、ベットの上にある天井を
 静かに眺めていた。

「…………」

 気持ちを静め、昔の米軍式睡眠法である筋弛緩法を試しつつ目を瞑る。
 全身の筋肉に力を入れ抜くを繰り返し、徐々に意識が遠のくような
 リラックス状態へと近づける。

 この屋敷は現状、最先端の警備システムとトクサにより守られており、
 ミサの近くには藤咲もいる。
 警戒心を解くことはできないが、少しは気を緩めても問題はないだろう。

 そう思い仰向けになった状態で眠りにつく。
 と、その時――――ガコンッととても小さな音が耳に届く。

 一瞬聞き間違いかとも思ったが、薄目を開けたその先。
 部屋の天井部分にあった天板が微かに外れているのに気が付いた。

「――――!?」

 夢でも見間違いでもなく、天板は少しずつ横へと移動し始める。そして。

「ッ!!」

 直後、ドスンと天井裏から何者かの影が現れベットの上へと落下。
 瞬きほどの刹那、ほんのわずかに回避行動が間に合い、
 俺はベットから転げ落ちる。

 急ぎベットの方へと視線を向けると、そこには男女の区別もつかない
 人影が一人。手にはナイフを持ち、その切っ先が先程まで俺が眠っていた
 場所の胸部辺りに深く突き刺さっていたのを確認する。

 トクサからの連絡はなく、警備システムにも異常はない――――。
 だが俺の目の前には明らかな殺意を持った暗殺者の姿があることから思わず
 いやな汗が噴き出る。

「(こいつ一体どこから入った? いや、それよりもミサたちは無事なのか?)」

 目の前の影は月明かりに照らされた室内でゆらりと身体を揺らすと
 ベットから降りこちらへと向き直る。狭い室内での戦闘を考慮し、
 銃ではなくナイフを選んでいるあたり相当なやり手だと伺える。

 とはいえこの襲撃には違和感が残る。
 なぜこいつは今日ここへやってきた俺の居場所を正確に把握していたのか、と。

 加えて、トクサからの連絡がないということを加味し、ミサがまだ無事あると
 仮定した場合こいつは護衛である俺を真っ先に狙いに来たことになる。

「(つまりこいつは今日、俺がここにミサの護衛として来るのが判っていた人物
 ということになる…………)」

 何処からか情報が漏れたか、はたまた久世グループ内の内通者によるもの
 なのかは判らないが…………今は只ミサたちの無事を祈る。

「――――何者だ貴様?」

 ありきたりな言葉で質問を投げかけてみるが、やはり反応はなく。
 代わりに刃渡り十五センチ以上は優にあろうかというナイフの切っ先が
 こちらを見据える。

 どうやら答えるつもりはないということらしい。

「(まぁそれも当然でのことではあるが…………)」

 そのやり取りに会話は不可能だと判断し、俺は相手の構えに呼応するようにして
 こちらも近接戦闘の構えを取る。

 するとほんのわずかに襲撃犯の視線が動いたのに気が付いた。
 恐らくは俺の背後にあるテーブルに置かれたナイフを確認したのであろう。
 そしてその行為は何故俺がナイフを手にしないのかという純粋な疑問なのだと、
 すぐに察しがついた。

「安心しろ、手を抜いてるわけじゃない。俺は素手の方が得意なんだ」

 すると俺の答えに納得がいったのか、奴の視線は俺へと戻りその間合いを
 ジリジリと詰め始める。

 シュ――――!

 刹那、奴の右手から一呼吸にも満たないスピードでナイフが振るわれる。
 狙うは胸から上にある急所。

 一切の無駄なく的確に放たれたその狂刃に俺は歯を食いしばる。

「――――ッッ!」

 そして得意の体術を用いて刃を逸らし、そのまま奴に向かいカウンターを
 決める。しかし向こうも一流。
 完璧なタイミングでのカウンターに寸でのところで対応し直撃を免れる。

「くっ」

 一撃で仕留め損なうどころか予想外の反撃に奴が小さく呟く。
 お互いに距離が開き、再び牽制状態へ。

 とはいえこちらとしても悠長にしている時間はなく、一刻も早くミサの安否を
 確認しなければならないず、いつまでも手間取ってはいられない。

 故に今度はこちらから仕掛ける。

「(無影流、一線ッ!)」

「チッ!!」

 踏み込んだ右足に体重を移動させ、一気に右腕を加速。
 先程のナイフの振りに負けずとも劣らない速度で襲撃犯の顔を掠める。

 しかしながらそれでも奴は怯むことはなく、俺の腕の外側から体勢を崩しつつも
 ナイフを突き立てる。

 が、当然それも予想の範囲内であり、一線を避けられるのを想定し
 リーチ射程のギリギリ手前で止めていた腕を使いそれを払い落とす。
 そして払い落とした腕を掴むと同時に奴の足を払い背後へと回る。

 ドサッ――――

 その一連の動作に相手は完全にバランス感覚を失い、前方へと倒れこむ。

 俺はそれを機に乗じ、ナイフを持つ奴の右腕に関節を決め、
 左膝で奴の首根っこを上から押さえつけた。
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