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アンニュイなオレの葛藤 4
しおりを挟むリザドがゴブリンを助けてる頃。
悠々と走る馬車に、男女の人影があった。
「くそっ。なんで召喚出来ねえんだよ・・・」
両腕と両足を縛られた状態で馬車に乗せられたミシェリアだったが、そんな状態でも何十回と召喚を試みていたのだが、何の反応もなく焦りと怒りを呟いていた。
「あなたも諦めの悪い人ですね。なんどやっても無駄ですよ。そもそもミシェルお嬢さんが強制契約執行で自分の召喚奴隷を殺したんじゃないですか。それを今になって自分を助けさせようとか、都合が良すぎると思いませんか?」
「うるせえクソ野郎!!」
「しかしかわいそうな召喚奴隷たちでしたね。ミシェルお嬢さんの復讐の道具として散々こき使われ、最後は強制契約執行で無理やり特攻させられて死んでしまうなんて」
「黙れ!! 黙れ黙れ!!」
「おや、こう言われるとさすがに良心が痛みましたか?」
「それ以上言うとその舌を切り刻むぞ!!」
「ははは。満足に動けないその状態で何が出来るんですか? とはいえ、仮にミシェルお嬢さんの召喚奴隷が生きていたとしても、どのみち無駄ですけどね。ミシェルお嬢さんの召喚契約は僕が破棄しておきましたから」
「はぁ!? ど、どういうことだ!? なんでてめえにそんなことが出来んだよ!?」
「あまり知られていない、というか、ほとんど知る人はいないでしょうが、召喚術者が意識を失ってる間に、その召喚奴隷を奪う術があるんですよ。それを応用して、ミシェルお嬢さんの契約を破棄させて頂いたんです」
「・・・くそっ。召喚契約が切れたような気がしてたが、そういうことかよ。どうりであいつらが生きてんのか死んでんのかもわからなかったはずだ。まさかそんなことが出来るなんて・・・」
「まあ召喚契約を破棄せずとも、あの時点で既に数匹は死んでいて、他の召喚奴隷も瀕死状態。今頃はもうみんな死んでるでしょうけどね」
「くっ・・・。相手のものを奪うことしか出来ねえてめえにはお似合いの術だな!」
男はぐいっとミシェリアの髪の毛を引っ張ると、自分に引き寄せた。
「痛え!! なにすん――」
「・・・今度の戦いが1段落ついたら、あなたが一体どういう立場で、誰の物なのか、思い知らせる必要がありそうですね」
「ペッ!!」
ミシェリアは男の顔に唾を吐きかけた。
「さっさと殺せ!! てめえに生かされるくらいなら死んだ方がマシだ!!」
「・・・やれやれ。本当に下品になってしまいましたね。しかしそんなミシェルお嬢さんが僕に従順になることを想像すると、それだけで興奮してきますよ」
「変態野郎が!!」
「今すぐにでもそうしたいところですが、あいにくお仕事がありましてね。この先にある拠点を潰さないといけないんですよ。ミシェルお嬢さんがいた拠点のようにね」
男はミシェリアから視線を外し、進行方向に目を向けた。
「前の拠点には良い素材がなかったから、今度の場所には良い素材があればいいなぁ・・・」
「・・・てめえ、まさかその為だけに戦争に加担してやがんのか?」
「ははは。趣味と実益を兼ねて、一石二鳥というやつですよ」
「・・・お父様が言ってた「合成モンスターに心を奪われる」って、つまりてめえみたくなるってことだったんだな・・・」
「いずれミシェルお嬢さんにも分かりますよ。合成モンスターを作り出すことは、こんなにも面白いことなんだってね」
「・・・・・・・・・」
・・・数時間後・・・
「道は間違ってねえだろうけど、一体いつ追いつけるのやら」
目印となるモンスターの死体を横目に、人種や他のモンスターの縄張りに入らないように注意しながら北に向かうオレだったが、時間が経つにつれて不安が大きくなってきた。
仲間の仇を討つ為に追いかけてるが、合成モンスター1体倒すのにも、仲間と連携してやっとの思いで倒したのに、オレだけで一体何が出来るのか。
しかも右腕がなくなってて、さして強くもねえニンゲン相手に手間取ったくらいだ。
こんな状態で追いついたところで、結局何も出来ねえんじゃないかと思い始めてた。
「・・・・・・・・・」
意識せず足も止まり、空を見上げる。
もうすっかり日も落ちたが、辺りがどうなってるのかわかるくらい、空には満天の明るい星が輝いてた。
「・・・そういや、前にこんな星空の下で、あいつらとさして意味もないことを無駄に話したっけな」
いつもなら、戦いが終わるとすぐにオレらを帰還させるミシェリアだったが、その時はよほど疲れてたのか、戦いが終わったってのに、オレらを帰還させる前に寝ちまったことがある。
寝首を掻いてやろうかとも思ったが、オレらも疲れてたし、なによりレオンがミシェリアにベッタリだったからそれは出来なかった。
そんなわけで、ミシェリアが起きるまで、オレらはなんてことない雑談に興じることになった。
お互いの身の上話や、普段はどうしてるのか、鬱憤が溜まってるミシェリアへの不満とか。
なんてことない話だったが、久しぶりに楽しいと感じる時間だった。
不幸中の幸いと言うか、もしミシェリアの召喚奴隷にになってなければ、こんな風に楽しいと思うこともなかっただろう。
「・・・良い奴らだったよな・・・」
フォーテルは賢くていつも冷静。
けど冷たいわけじゃなく、オレの下らない冗談にも付き合ってくれる奴だった。
レオンは一番の古株で、いつも落ち着いてて、頭に血が上りそうな時なんかはいつも抑えてくれた。いつもオレらを優しくまとめるくれる奴だった。
ニャン吉は、いつも明るい、オレらのムードメーカー。
荒んだ心を、どんだけこいつの明るさに助けられたことか。
ミノは仲間になってからの時間が一番短く、最初こそ取っ付きにくい奴だったが、それでもちゃんと話せば意外に気のいい奴だった。
見た目通り豪快っつか、ちょっとアホっぽいところもあったけど、そこもまたミノの良いところだった。
・・・みんな良い奴だった。
色んな奴の召喚奴隷になって、色んな連中と仲間になってきたが、これだけ距離が近くに感じたのは初めてだった。
・・・だが、全員死んだ。殺された。
「・・・そうだ。仮に何も出来なかったとしても、ここで諦めるわけにゃいかねえんだ。オレがやらずに一体誰がやるってんだ」
奴だけじゃねえ、ミシェリアもぶん殴ってやらなきゃならねえんだ。
そうだ。
オレが考えるべきなのは、出来るか出来ねえかの不安じゃねえ。
どうやったら奴と、もし生きてたらミシェリアにも思い知らせてやれるかだ。
「オレとしたことが、つい弱気になっちまってたな」
オレは自分の顔を何発か殴り、気合を入れ直す。
「おし!! 行くかっ!!」
迷いや不安を吹き飛ばすように、オレは大股で前へと歩き出す。
そして数日後。
オレはついに奴に追いついた。
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