アイデンティティ

大皮おはぎ

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 僕は、特別な「なにか」になりたい。と小さな頃からずっと考えていた。
いや、リボンを隙間なく巻いている完璧に包装された箱のように、ずっと僕の心は特別感と書かれたテープに巻かれている。それは、頑丈できっと切れないだろう。

 
小さな頃から、周りの子とちょっと違う雰囲気がある、変わり者と表現されるほうが多いであろう、そんな人間が好きだった。勉強が得意な子、スポーツが得意な子、絵が描ける子…僕は何か周りの子にはないような「なにか」が欲しかった。頑張って真似をした。クラスの子、一人一人が違うそれぞれの「なにか」を持っていた。僕は真似をした。
 
 成長するにつれ、イジメられる子が目立っていった。僕はイジメられないよう、考え、ユニークのある少し変わり者になればいいのだと思い、行動や言動を変えていった。結果的にはイジメられることは無かった。「変わってるよね」「おもしろい」と、よく言われるようになっていった。僕はようやく「なにか」を手に入れることが出来たのだと心から喜んだ。僕にはユニークがある、少し変わっているけれど、ユニークさは負けないのだと思っていた。 
 しかし、この「なにか」はイジメられないように自分という存在を意識的に変形させて出来たものだと気が付いたとき、僕は絶望した。
「あ、そうか、これは成長でなく自分を守るために造られた偽りの成長なのか」と 

 僕が本当に欲しかった特別感は手に入れるものではなく、身につくものであるのだとこの時感じた。無理矢理に造った自分というものが憎い。純粋に生きていれば「なにか」を身につけていたのかもしれない。 
こんなこと、今になって言うのはもう遅いけれど、一度開封した箱はもう前みたいに完璧に直すことは出来ないのだろう。僕の心のテープを貼り替えてほしい。 
 何になりたいとかじゃなく、自分を信じてみればきっと「なにか」が自分のものとなるのだろうか。

 






僕には好きな人ができた。その人から放たれる言葉全てがマシュマロのようにすぐに自分の中で溶けてしまう。魔法のようだ。きっと僕は僕であるのだと思う。彼女と出逢って僕は変わったと思う、色鮮やかな世界となった。心は自由になった。彼女が僕という存在を知らなかったように、僕にもわからない僕がいる。だから、今日はケーキが食べたい。 

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