五十嵐青年と山羊

獅子倉 八鹿

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「アヤカに告白されて、付き合った。最初は楽しかったけど、彼女は小さなことで俺に怒りを向けてきた」
 そこまで言うと、原本は顔を強張らせる。

「付き合いだした当初、五十嵐のことをけなしていたことがあった。五十嵐より俺の方がいいって。でも段々、俺にも文句を言ってきて――」
「分かった」
 五十嵐青年は、原本から目を背けながら話を止めた。

 見覚えのある陰を孕んだ瞳から逃げるように目線を動かし、続きの言葉を探す。
 頭はうまく働かず、続きの言葉を紡げないまま時が流れた。

「えっと」

 しびれを切らした山本が口を開くのと同時に五十嵐青年が言葉を発する。
 山本は即座に口を閉じ、五十嵐青年へ柔らかな目線を向けた。

「俺は、正直、まだ許せない。俺と同じ立場に立っただけで、俺を傷つけたことは変わらない、から」
 自分の意思を確認しながら、五十嵐青年はゆっくりと言葉を紡いでいく。
 原本は、口を一文字に結び、五十嵐青年の言葉を刻みつける。

「でも、過ちに気づいたら、きっと、直せるから。次は決めつけないように、出来るから」
 山本の顔に、僅かな笑みが浮かぶ。

「次は決めつけないで。ちゃんと俺の話も聞いて欲しい」

 向かい合う二人の頬に、静かに涙が伝った。



「晴汰くん」
 その声が響く室内に灯るのは、テーブルの上に置かれたアロマキャンドルの光だった。
 五十嵐青年と山本は、横に並んで揺れる火を見つめていた。

「蝋燭って……一本でも明るいね」
 これは蝋燭じゃないよ。
 五十嵐青年はぼんやりとしながら、心の中で訂正をした。
 山本の瞳には、小さく暖かな光が灯っている。

「普通の明かりより好き。でも臭い」
 まるで小学生のように、興味津々で見つめていた山本の目が険しくなる。
「なんだろ、キツイ柔軟剤みたいな」
 険しい目をしながらも、依然として小さな光を見つめ続ける。

「臭いなら消す?」
 五十嵐青年は、自分から発された言葉に含まれた嫉妬に気づくと、山本から目を背けた。

「いや、君を傷つけた人からのプレゼントは綺麗さっぱり処分しよう」
 山本は、五十嵐青年の身体に腕を伸ばし、力強く抱きしめた。
「どうせなら、僕らの仲良し具合、これに見せつけよっか?」

 アロマキャンドルから香るムスクの香り。
 それに負けない何かに惹かれるよう、五十嵐青年は山本に顔を近づける。
 唇を重ねると、山本に身体を預け、瞳を閉じた。

 小さな光は、瞼の奥に映ったままだ。
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