18 / 22
17話
しおりを挟むあれから私は、理由を作っては領地へ足を運び、ルミナの家庭教師の付き添いなど、忙しない日々を過ごしていた。
気づけば、ルミナが来てから二年が経とうとしていた。
「ルミナ様、もう少しで誕生日ですね」
ルミナはもう十二の年になる。
私は彼女の髪を丁寧に梳かしながら、鏡に映るその顔を見て、ずいぶん大人びいたと感じていた。
「そうね。今年こそはネメシアにも参加してもらうんだから」
ルミナは気合に満ちた顔をしていた。
昨年の誕生日には、私は公爵に仕事を命じられ、席を外さざるを得なかった。
「誕生日なんて、正直どうでもいいの」
ルミナは鏡越しに私を見た。
「でも、ネメシアがいないなら、意味がない」
凛とした瞳に、私は胸の奥が少しくすぐったくなった。
「…それでも、公爵様がお許しになるかわかりませんよ?」
私の言葉に、ルミナは勝ち誇ったような顔をする。
「そこは問題ないわ」
「…?」
ルミナは、くるりとこちらを振り向いた。
「だって、ネメシアが参加しないなら誕生日会しないって言ったもの」
あまりにもあっさりと、当然のことのように。
私は一瞬、言葉を失った。
「…それは」
「脅しじゃないわよ?」
ルミナは肩をすくめる。
「ただ、事実を伝えただけ。私そういう気分じゃないって」
その言い方が、あまりにも冷静だった。
「公爵様は、さぞお困りになったでしょうね
「ええ!それはもう、ひどい顔をしていたわ!」
ルミナはその時の公爵の顔を思い出したのか、眉を寄せ、指でしかめっ面を作ってみせる。
「…そしたら、ルミナ様へプレゼントを用意しなくてはいけませんね」
そう言うと、ルミナはぱっと目を輝かせ、こちらを見た。
「お姉様からプレゼント貰えるの!?」
思わず、部屋に響き渡るほどの大きな声になる。
「…コホン」
今この部屋には、私たち以外にも侍女がいる。
それに気づいたのだろう、ルミナは小さく咳払いをして、表情を整えた。
「ネメシアからいただけるなんて、とても嬉しいわ」
その一連に、私は思わず小さく笑ってしまった。
「当日まで楽しみにしててくださいね」
――――――
夜、部屋に戻ってからルミナへのプレゼントを考えていた。
私は椅子にこしを下ろし、机の上に手を置く。公爵令嬢への贈り物。形だけなら、いくらでも選択肢はある。高価な布、宝石、装飾品。
どれも正解だ。
けれど、私は"妹"として贈りたい。
だから、彼女が本当に欲しいのはきっとそういうものじゃない。
そう思うからこそ、余計に迷ってしまう。
「…何にしようかしら」
小さく呟いて、私は視線を落とした。
生まれてこの方、誰かに贈り物を選ぶなんて、考えたことがなかった。
その時、机の端に置かれた一枚の布が目に入る。
以前、ルミナの教育の一貫で行った刺繍の授業。その時に使った、刺繍入りのハンカチだった。
―――あの時。
「私はネメシアに贈りたいから、ネメシアも私に作って!」
セシリア様の前で、迷いなくそう言ったルミナの声が、ふと蘇る。
あれは、その時に作ったものだ。
ルミナの分がまだ完成してないから、という理由で渡さずにいた。
私はそっと、その布に指先を触れた。
「……」
―――決めた。
私は一枚の紙とペンを用意し、ある方へ宛てて手紙を書き始める。
ルミナの誕生日まで時間はある。
私は、彼女への贈り物を作ることにした。
0
あなたにおすすめの小説
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ここは少女マンガの世界みたいだけど、そんなこと知ったこっちゃない
ゆーぞー
ファンタジー
気がつけば昔読んだ少女マンガの世界だった。マンガの通りなら決して幸せにはなれない。そんなわけにはいかない。自分が幸せになるためにやれることをやっていこう。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について
えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。
しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。
その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。
死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。
戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
聖女の力は使いたくありません!
三谷朱花
恋愛
目の前に並ぶ、婚約者と、気弱そうに隣に立つ義理の姉の姿に、私はめまいを覚えた。
ここは、私がヒロインの舞台じゃなかったの?
昨日までは、これまでの人生を逆転させて、ヒロインになりあがった自分を自分で褒めていたのに!
どうしてこうなったのか、誰か教えて!
※アルファポリスのみの公開です。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる