甲子園を目指した男装美少女のひと夏の経験

牧村燈

文字の大きさ
21 / 34
第3章

6回表②/取り調べ

しおりを挟む
<6回表>

 この回のあけぼのの攻撃は、キイチのセンター前ヒットを皮切りに、2番の送りバント、3番のマモルが遂に意地のライト前にタイムリーヒットを飛ばして3点目をもぎ取った。決して花畑弟の調子が急変したわけではない。ストレートは走っていたし、変化球もキレている。あけぼの打線が、それを上回る気迫と集中力を見せていたのだ。

 アクシデントから立ち直ったうのが、5回のわかたかの主力を3人で締めた投球内容はほぼ完璧だった。一方のわかたか学園は、頼みの花畑兄がどこか集中力を欠き、今大会ではここまで一度も三振のなかった選手が、二打席連続三振という不甲斐ない現状。花畑弟もこのまさかの追加点に再びフラストレーションを膨らませていた。調子は悪くないのに、コツコツと点を取られていくのは、普段点を取られることない好投手にはキツい。

 盛り上がるあけぼの応援団に対して、消沈するわかたか応援団の対比も鮮明だった。相対的に音量の上がったあけぼのの声援に後押しされて、続く4番の佐藤キャプテンもレフト線を襲う痛打を放ち、再びワンナウト1.3塁とチャンスを広げる。花畑弟がグラブをマウンドに叩きつけたところで、わかたか学園ベンチが動いた。花畑弟を擁してまさか3点も失うとは考えていなかっただけに、かなり慌ただしい動きだ。

 花畑兄がベンチに呼ばれて監督と話をした結果をマウンドで弟に告げた。

「ピッチャー交代」

 不貞腐れた顔でマウンドを降りる花畑弟に、わかたかの応援団からの拍手はなかった。

 2番手投手は、左腕の技巧派で、花畑弟の先発しなかった2回戦で先発し完投勝ちを収めている。好投手であることは間違いない。しかし、速球は140キロ台前半がMAXで、花畑弟に比べれば大きく劣るのは火を見るより明らかだった。そもそも花畑弟の出来が悪くて打たれたのか、あけぼの打線の実力だったのかについて、ベンチの分析が足らなかったことが、この後の試合展開に大きな影響を与えることになった。

<救護室>

 うのを送り出した山本先生は、一人になって何故さっき不安を感じたのかを反芻してみた。花畑のお兄ちゃんも、あの3人組も、現時点ではうののことを可愛い男の子と見ている。BLの気がありそうなお兄ちゃんとうのが顔を合わせるのはグランドの中だけなので、そこで何かあるとは考え辛い。なのにこの胸騒ぎ。

<あけぼの高校ベンチ裏女子トイレ>

「なんなんだよ、お前たち、やめろ、やめろよ」

 救護室からベンチに戻ろうとしていたうのは、突然タオルで顔を覆われて、小部屋に押し込まれた。押し込まれた先が、この女子トイレである。

 男子校のあけぼの高校には女子はいない。よってマネージャーもいないので女子トイレを使用する者はいなかった。この格好の監禁場所を思いついたのは、例のわかたか一年3人組のうちの1人である。

 山本先生にのされて這々ホウホウの体で救護室を逃げ出し、ベンチに戻った3人は、そこであけぼの高校に押されている戦況を知った。

「お兄ちゃん先輩も、これじゃ気が立ってるだろうな」

「ああ、先輩の見立て通りでした、だけの報告じゃまた何を言われるかわからねえぞ」

「確かにな」

「うーーーん、困ったな」

 仕入れてきた情報をただ報告するだけでは、今の花畑兄の機嫌をとりなすのは難しそうだ。それに。さっきのみすず先生の豹変ぶりは、どう考えても変だった。まだ何か謎があるんじゃないんだろうか。真実の鍵は、君島選手にある。やはりもう一度実験台に上ってもらわなければならない。3人の結論はそこに達した。そもそもみすず先生からこんな仕打ちを受けたのも、元を正せば君島うのせいなんだ。

「君島うのの、取り調べだ!」

 調という言葉の響きに、3人が3人とも一種の恍惚状態になった。

 そして、あけぼの高校のベンチ裏でうのが戻って来るのを待ち伏せ、この女子トイレで君島うのの確保に成功したのだった。狙いは『ピンクのふんどし』だ。あれを召し上げてお兄ちゃん先輩に捧げれば、自分たちの株は急上昇間違いなしだ。

 3人組は捕獲したうのの顔を覆ったタオルで目隠しにして、別のタオルで猿ぐつわをした。

「んんん、んんん、ん」

 視界と声を失いながら抵抗するうのは、3人がかりで抑えつけようとするわかたかの一年生たちともみ合う中で、その一人に右腕のテーピングをむんずと掴まれた。

「んーーーっ」

 刺すような苦痛にくぐもるうめき声をあげて、うのの抵抗が消えた。荒い息遣い。今はタオルで大半が隠れているものの、デッドボール時に覗き見たあの何故かエロチックな顔がそこにあるに違いない。もはや性別を超越した興奮に、3人のボルテージは上限を振り切っていた。

 とはいえ時間は迫っている。この仕事はあけぼの高校の攻撃が終わるまでに終わらせなければならなかった。のんびりしている暇はない。目的を達する為に、3人はうのの腰のベルトをガシャガシャと忙しなく外した。息をすることも忘れたかのように、ユニフォームのパンツのボタンを外すとジッパーを一気に引き下げる。

「んん」

 もはやうのの抵抗など、3人にとってはものの数ではなかった。そのままパンツを膝までずり降ろされてしまう。白いふとももがはっきりと見えた。だが、肝心の部分は、まだ長めのシャツが邪魔をして見えていない。あと一息。うの以上に息の荒い3人組が、最後の仕上げとばかりにシャツの裾をグイとおヘソの上までたくし上げた。遂に、うのの下半身が露わになる。

 3人はそこで思いもかけないものに遭遇する。うのの下半身を覆ってたものは目的としていた『ピンクのふんどし』ではなかった。

「これって」

「まさか」

「まじか」

 そこにあったものは、本当に申し訳程度に布の付いたピンクの紐パンだった。そして何よりも驚いたのは、その股間に、本来なくてはならないものがないことを、3人はハッキリと見てしまったのだ。

「ないよな」

「ない」

「なんでだ?」

 視覚を奪われながらもうのは、3人組が混乱している様子が伝わってくる。どうしよう。バレちゃった。しかも相手チームに。必死に守ってきたものがガラガラと崩れ落ちた。圧倒的な絶望感に包まれたうのは、気持ちで支えて来た身体の力が抜け落ちていくのを感じていた。

(続く)
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

処理中です...