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38.命を奪う金庫
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「それで、その、どうするんですか?」
「どうとは?」
「開けないとダメなんですよね、この金庫」
アダバナは金庫を開けるのか訊ねた。
触ったら死んでしまうような危険な金庫だ。
触りたくもない上、開ける手段も限られていた。
「はい。恐らく中身は無事だと思いますが、確認しないとマズいです」
「そうですね。ですが、どう開けましょうか?」
「開ける方法は無いんですか?」
「もちろんありますよ。所有者に直接開けて貰う方法です」
「所有者にって、無理ですよね!?」
「はい、無理です。サティウスさんは現在、病院のベッドの上で要安静です」
金庫を安全に開ける手段。それは所有者本人に、直接金庫を開けて貰うのだ。
とは言え、それが出来れば苦労はしない。
所有者であるサティウスは今、病院のベッドの上で、ここまで来ることは出来ない。
「それじゃあどうするんですか?」
「こじ開けます」
「……ん?」
アダバナは理解したくなかった。頭の中が宇宙空間になる。
投げ出された思考が冷静さを取り戻すには時間が掛かった。
「こじ開けます」
「だ、だ、だ、ダメですよ、それは!? 金庫をこじ開けるって、そんな強硬手段に出たら、後でサティウス准教授に怒られちゃいますよ!?」
「怒られるでは済まないでしょうね。ですが緊急事態です。寛容に受け入れてくれる筈ですよ」
「サティウス先輩は、いつもそうですよね」
「はい。ですので心配ご無用です」
「全然ご無用じゃないですよ」
冗談では済まされない会話劇を繰り広げた。
幾ら触れることが出来ない金庫だとしても、無理やりこじ開けるなんて真似してはいけない。何よりサティウスの性格に甘えるなど言語道断で、それでまかり通っては済まされない。
「そもそも、無理やりこじ開けたら、中に入っている物も無事じゃ済みませんよね?」
「ですね。魔術で金庫を破壊したとして、ソレでは中身が破損するかもしれないです」
「それに加えてこの金庫の厄介な所は、魔術に対しても抵抗がありますからね」
「はい。本当に厄介です」
流石に強硬手段に出るには早い。
シャウワもカモミールも落ち着いた口調で弁える。
それにしてもどれだけ丈夫な金庫なのだろうか? 魔術にも抵抗があるなら、魔術師相手には絶大な防御力を誇る。
「そもそも、この金庫はどうして障ったら死んじゃうんですか?」
ここに来ての真っ当な質問だった。
アダバナはずっと頭の片隅に置いていたものを、ここで取り出した。
「この魔力反応指定型指紋認証式金庫は、特殊な素材と魔術が施されているんですよ」
「素材と魔術ですか?」
「はい。言わずもがな、金庫の安全性を高めるために最高峰の強度を誇るので、武器による破壊は困難に近いですが、それだけではなく、二つの要素が組み合わさっています」
カモミールは教授らしく、アダバナのために講義を開いた。
魔力反応指定型指紋認証式金庫の特徴。
それは大きく分けて三つもある。
「組み合わさっている?」
「はい。一つは先程も説明した強度。加えて特殊な素材……主に毒性の強い物質を練り合わせているので、触れることにより皮膚感染を引き起こし、毒素が血管を通りやがて心臓に到達する。毒の成分は凶悪で、人が簡単に死に至る程です。もちろん、手袋を装着していたとしても貫通してしまいます。これが、触ってはいけない理由ですね」
一つ目は圧倒的な本体強度だ。これにより、腕っ節の強い非魔術師でも、金庫を破壊することは不可能に近い。
もう一つは特殊な素材が原因だ。なんと強力な毒素を持つ物質で出来ているらしく、触れることにより皮膚感染で血管を通り、やがて心臓を含めた細胞を破壊する。ニンゲンナド簡単に死に至らしめることの出来る強力な猛毒成分だった。
「ええっ、それが触っちゃダメな理由ですか!?」
「はい。さらに加えてもう一つ。この金庫には魔術防御が掛けられているので……」
「私達魔術師の魔術を反射してしまうんです。これがとても厄介で、魔術が通用しないとなると、魔術師はお手上げですからね」
最後の理由は切実だった。魔術師は魔術が使えなければたいていが無力だ。
騎士警察や体術に心得があれば別なのだが、そこまで魔術師の幅を広げようとは思わない。
基本的には一つの分野に特化することが多い魔術の世界で、寄り道などしている暇は無い。そのせいか、魔術師を相手に強力な魔術防御はあまりにも相性が悪かった。
「それじゃあ、空けられないんですか?」
「そうですね。……とは言え、中身を確認しない訳にはいきません」
「ですね。もし、金庫の中に入っている物が、なにかの間違いで盗み出されているとスレバ大事です」
それは大事では済まない気がする。
とは言え、触ることも出来ない、壊すことも出来ない。
あまりにも頑丈で凶悪な金庫を開けられるのだろうか?」
「ちなみにどうやって開けるんですか?」
「ここは《アンロック》の魔術を使うしかありませんね」
「《アンロック》ですか!? でもそれって」
「かなり精神を消耗しますが、やってみるしかないですよ。シャウワ」
「はい!」
金庫を無断で開けるのは忍びない。
それでも事件早期解決のためには致し方が無い。
後で如何にでも言い訳が出来ると、カモミールは踏んでいた。
だからこそ、《アンロック》の魔術を使ってみせる。
この魔術はかなりベタな魔術で、開錠や解錠が出来る。
家の扉もそれこそ金庫でさえ、頑張れば開けることが出来た。
(うーん、触ったら死んじゃう毒と魔術……か)
カモミールの頼みに、シャウワは応える。
そんな二人の姿を横目に、アダバナは考えていた。
もしかすると、開けられるかもしれない。
「どうとは?」
「開けないとダメなんですよね、この金庫」
アダバナは金庫を開けるのか訊ねた。
触ったら死んでしまうような危険な金庫だ。
触りたくもない上、開ける手段も限られていた。
「はい。恐らく中身は無事だと思いますが、確認しないとマズいです」
「そうですね。ですが、どう開けましょうか?」
「開ける方法は無いんですか?」
「もちろんありますよ。所有者に直接開けて貰う方法です」
「所有者にって、無理ですよね!?」
「はい、無理です。サティウスさんは現在、病院のベッドの上で要安静です」
金庫を安全に開ける手段。それは所有者本人に、直接金庫を開けて貰うのだ。
とは言え、それが出来れば苦労はしない。
所有者であるサティウスは今、病院のベッドの上で、ここまで来ることは出来ない。
「それじゃあどうするんですか?」
「こじ開けます」
「……ん?」
アダバナは理解したくなかった。頭の中が宇宙空間になる。
投げ出された思考が冷静さを取り戻すには時間が掛かった。
「こじ開けます」
「だ、だ、だ、ダメですよ、それは!? 金庫をこじ開けるって、そんな強硬手段に出たら、後でサティウス准教授に怒られちゃいますよ!?」
「怒られるでは済まないでしょうね。ですが緊急事態です。寛容に受け入れてくれる筈ですよ」
「サティウス先輩は、いつもそうですよね」
「はい。ですので心配ご無用です」
「全然ご無用じゃないですよ」
冗談では済まされない会話劇を繰り広げた。
幾ら触れることが出来ない金庫だとしても、無理やりこじ開けるなんて真似してはいけない。何よりサティウスの性格に甘えるなど言語道断で、それでまかり通っては済まされない。
「そもそも、無理やりこじ開けたら、中に入っている物も無事じゃ済みませんよね?」
「ですね。魔術で金庫を破壊したとして、ソレでは中身が破損するかもしれないです」
「それに加えてこの金庫の厄介な所は、魔術に対しても抵抗がありますからね」
「はい。本当に厄介です」
流石に強硬手段に出るには早い。
シャウワもカモミールも落ち着いた口調で弁える。
それにしてもどれだけ丈夫な金庫なのだろうか? 魔術にも抵抗があるなら、魔術師相手には絶大な防御力を誇る。
「そもそも、この金庫はどうして障ったら死んじゃうんですか?」
ここに来ての真っ当な質問だった。
アダバナはずっと頭の片隅に置いていたものを、ここで取り出した。
「この魔力反応指定型指紋認証式金庫は、特殊な素材と魔術が施されているんですよ」
「素材と魔術ですか?」
「はい。言わずもがな、金庫の安全性を高めるために最高峰の強度を誇るので、武器による破壊は困難に近いですが、それだけではなく、二つの要素が組み合わさっています」
カモミールは教授らしく、アダバナのために講義を開いた。
魔力反応指定型指紋認証式金庫の特徴。
それは大きく分けて三つもある。
「組み合わさっている?」
「はい。一つは先程も説明した強度。加えて特殊な素材……主に毒性の強い物質を練り合わせているので、触れることにより皮膚感染を引き起こし、毒素が血管を通りやがて心臓に到達する。毒の成分は凶悪で、人が簡単に死に至る程です。もちろん、手袋を装着していたとしても貫通してしまいます。これが、触ってはいけない理由ですね」
一つ目は圧倒的な本体強度だ。これにより、腕っ節の強い非魔術師でも、金庫を破壊することは不可能に近い。
もう一つは特殊な素材が原因だ。なんと強力な毒素を持つ物質で出来ているらしく、触れることにより皮膚感染で血管を通り、やがて心臓を含めた細胞を破壊する。ニンゲンナド簡単に死に至らしめることの出来る強力な猛毒成分だった。
「ええっ、それが触っちゃダメな理由ですか!?」
「はい。さらに加えてもう一つ。この金庫には魔術防御が掛けられているので……」
「私達魔術師の魔術を反射してしまうんです。これがとても厄介で、魔術が通用しないとなると、魔術師はお手上げですからね」
最後の理由は切実だった。魔術師は魔術が使えなければたいていが無力だ。
騎士警察や体術に心得があれば別なのだが、そこまで魔術師の幅を広げようとは思わない。
基本的には一つの分野に特化することが多い魔術の世界で、寄り道などしている暇は無い。そのせいか、魔術師を相手に強力な魔術防御はあまりにも相性が悪かった。
「それじゃあ、空けられないんですか?」
「そうですね。……とは言え、中身を確認しない訳にはいきません」
「ですね。もし、金庫の中に入っている物が、なにかの間違いで盗み出されているとスレバ大事です」
それは大事では済まない気がする。
とは言え、触ることも出来ない、壊すことも出来ない。
あまりにも頑丈で凶悪な金庫を開けられるのだろうか?」
「ちなみにどうやって開けるんですか?」
「ここは《アンロック》の魔術を使うしかありませんね」
「《アンロック》ですか!? でもそれって」
「かなり精神を消耗しますが、やってみるしかないですよ。シャウワ」
「はい!」
金庫を無断で開けるのは忍びない。
それでも事件早期解決のためには致し方が無い。
後で如何にでも言い訳が出来ると、カモミールは踏んでいた。
だからこそ、《アンロック》の魔術を使ってみせる。
この魔術はかなりベタな魔術で、開錠や解錠が出来る。
家の扉もそれこそ金庫でさえ、頑張れば開けることが出来た。
(うーん、触ったら死んじゃう毒と魔術……か)
カモミールの頼みに、シャウワは応える。
そんな二人の姿を横目に、アダバナは考えていた。
もしかすると、開けられるかもしれない。
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