灰魔女さんといっしょ

水定ゆう

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学校は妖怪でいっぱい

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「ううっ、まだ気持ち悪い」

 真心は背中が丸まっていた。
 項垂うなだれてしまい、元気が無い。

 それもこれも、母親に食べさせられた、謎の液体のせいだ。
 もはやあれは、ジャムとかじゃない。
 色合いも、赤黒くて、鼻とのどの奥を、ツンとさせた。

「グレイスちゃん、あれなんだったのかな?」
妙薬みょうやくとは言っていたが、具体的になにかとまでは分からない)
「そうだよね。でも、食べられたね」
珍味ちんみだったのかもしれないな。それにしても、あれを食べてから調子ちょうしがいい。お前との同調どうちょう馴染なじむんだ)

 グレイスは真心が絶対に分からないことを言う。
 顔色にはてなが浮かび上がった。
 けれど真心はあとも薄っすら気付いていた。体がポカポカして、とっても調子が良かった。

「もしかして、お母さんが食べさせてくれた液体って、凄いものだったのかな?」
(そう思ってもいいんじゃないか?)
「へー、でもさ、それってお母さん、気が付いてるってことだよね?」
(その可能性も無くはないが、気にしても仕方ない。学生の本分ほんぶんは勉強だからな。お前が気にしても仕方無いだろ、真心)

 グレイスに当たり前のことを言われてしまう。
 真心はギクリとするが、ぐうの音も出なかった。

「はい」

 肩を落として、グレイスに返事をする。
 その足で中学校に向かうと、校門が見えて来た。
 都会のど真ん中みたいな、大勢の生徒がいるわけではないけれど、まばらに生徒がチラホラ見えた。

(ここがお前の通う学校か?)
「うん。この町に唯一の中学校で、龍睡中学校って言うんだよ」
(龍睡。龍が眠る町なだけはあるな)
「えー、どういう意味?」

 突然意味深いみしんなことを、グレイスが言い始める。
 真心は笑いながら訊ねると、グレイスは怖いことを言う。

(この学校、出るな)
「出るって?」
(それはお前……分かるだろ?)

 あまりにも意味深だった。
 真心は、タジタジになってしまうも、もうすぐ校門が見えた。

「はぁ、昨日は色々ありすぎて、疲れたよ」
(そんな顔をするな。まあ、学校は退屈だろうが)
「そう言えばグレイスちゃんは、学校には行かないの?」
(私か? 私は……)

 一瞬グレイスが言葉を詰まらせる。
 なにか事情があるのかもしれない。
 そう感じた真心は、校門のところで珍しく立っていた、ジャージ姿の男性教師に、軽く会釈えしゃくをすると、そのまま話を流そうとした。

(ほらな)
「ほら? ほらってなにが? 私、なにか踏んじゃった?」

 急にグレイスが話を変えた。
 真心はプチ反応すると、足下を見る。

 靴の裏にはなにも付いていない。
 首を傾げると、グレイスは怖いことを言った。

「グレイスちゃん?」
(今、お前が会釈をした教師、幽霊だぞ)
「ええっ!?」

 真心はつい振り返ってしまった。
 すると男性教師は、一人で挨拶あいさつをしている。
 大声で、聞こえているのなら、絶対に気が付くはずだ。

 しかし登校する生徒達は、誰も気が付かない。
 完全に無視していて、可哀かわいそうに見える。

「あの人、ずっとあそこに立ってたのかな?」
(だろうな)
「誰も気が付かなかったのかな?」
(気付いていた奴もいるかもしれないが、少なくとも、ほとんどの人間は聞こえないはずだ)
「なんだろう、可哀そうだね」
(そう言ってやるな。ほら、行くぞ)
「うん」

 真心は、グレイスに促され、校舎に向かう。
 校門でいつまでもいつまでも挨拶をしてくれる幽霊が居る。
 そんな事実じじつに気が付いてしまうと、学校に行きたくないなんて、思えなくなりそうだった。
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