竜騎士七夜の異世界録

水定ユウ

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第一章:異世界と旅路

■6 半年後

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 ステラさんとの修行から早半年。
 大体六ヶ月経ったことになるので、この世界の常識にも慣れて来た。
 文字の読み書きもまともに出来なかったので、半年間苦労したが、どうやら日本語でも喋っている限りでは通用するらしい。しかしながら文字の読み書きに苦労したのは仕方ないことだが、そちらもまた大丈夫。難しい言葉じゃなければステラさんからあらかた教わった。

 文字の読み書きだけじゃない。
 金銭感覚なんかも教わった。
 この世界の通貨単位は国ごとの名前とその後に続く銅貨、銀貨、金貨の文字。
 国ごとにその価値も違い、基本的には二つのパターンが存在するらしい。豊穣を司る星神を信仰する大国で重宝される硬貨。確か、アクエリ硬貨。何処となく既視感を感じる名前だった。
 それからもう一つ。秩序を司る星神を信仰する大国で厳粛に取り扱われる硬貨。こちらはライブラ硬貨だったはずだ。基本的にこの二つの硬貨が幅広く流通しており、世界の共通通貨として価値もほぼ同じものになっているらしい。

 それからこの国のこと。
 この国の名前は冥府を司り、死者を重んじる大国カプリコ。
 大きな街が三つあるらしく、ここから一番近い街はビーダと呼ばれているらしい。まあ近いと言っても、ここからはそこそこ離れているっぽい。近隣の村にすらちょっと遠いのだ。

 それから一番辛いのは今もそうなのだが基礎体力の向上やそれらを駆使した体術の修行だった。
 ステラさんの繰り出す体術はどれも予測できない。出来たとしても間に合わない。まさにそんな印象が見受けられていた。
 そんな彼女の指示のもと、私は今と尚一人森の中を走っている。

「はぁはぁはぁはぁ」

 息を荒げながらの全力疾走。
 これを毎日だ。
 腹筋や背筋、スクワットなど。様々な基礎体力の素量を引き上げる修行を毎日毎日している。その理由はこの森の中が危険だと言うこともあるが、私としても死にたくないので全力で頑張っていた。もちろん魔法もその内の一つで、一時は苦戦していたけど今ではそれ割り切っている。

「ぜぇぜぇぜぇぜぇ。ヤバい。余計なこと考えすぎた。脳に酸素が……」

 今にも立ち止まって休みそうになる。
 しかしこの森の中にいる以上、こんなところで立ち止まってもいられない。何故なら何処からステラさんが見ているかわからないし、それに立ち止まっていればまた魔物に襲われかねない。
 魔物とはこの間私を襲って来た奴だ。
 この際、モンスターと呼んだ方がわかりやすいかもしれない。魔物の中にはより狡猾な魔獣や魔物としての区別をつけることの出来ない種もいるそうだ。特にその中でも竜種は貴重らしい。街では地竜が重宝されているらしいが、飛竜種は珍しく神聖視されるケースもあるらしいのだ。
 私も一度会ってみたいとは思っている。

「とか言ってる場合じゃなかった。こうしている間にも……」

 私は気配を巡らせた。
 何か近づいて来ている。もの凄い速さだ。

「来るっ!」

 私が振り返るや否やそこに姿を現したのは小型のモンスター。虎のような姿をしているスモールタイガーだった。
 スモールタイガーは動かない獲物を狙うべく白い牙を剥き出しにするが、私はそれを避けてすぐさまホルスターからアストラシオンを引き抜く。
 そして迷うことなく背中に一発の弾丸を発射した。

 バン!

 短いテンポで鳴り響いた低音。
 魔力で構成された弾丸がスモールタイガーの背中を撃ち抜いたのだ。
 そう。私はこの半年でこの子のことを大分わかって来ていた。
 アストラシオン。『空間の星』。織姫の言っていたことは間違いないようで、やっぱりこの子はそう言った意味らしい。
 これはステラさんからの受け売りなのだが、彼女の言葉は信頼できた。何故なら私が異世界から召喚されたことやここまでの身の回りのこと。それから、私がこの世界に来てから一切身体的な成長をしていないことをピタリぶち当てたからだ。

「ホント、どうなってるんだろ」

 私は自分の掌を見ながら呟く。
 色々と訳がわからない。
 だけど今更立ち止まっていても仕方ない。放たれて弾丸は銃声共に既に止められないのだ。あとは選択肢を選んで飛ぶ方向を切り替えるだけ。
 それしか手段はなかった。

「さてと、そんなことより今日の晩ご飯は結構良さそうだぞー!」

 貴重なタンパク源。
 私は舌なめずりをする。今から涎が出て来てしまった。生憎と師匠であるはずのステラさんは家事が苦手なので、私が代わりに料理を担当しているけど焼き料理はステラさんの方が上手かった。

 楽しみをまた一つ抱えながら私はスモールタイガーを魔力で強化した体で背負いながら修行を続けるのだった。
 まあ途中で限界が来て早々に降ろしてしまったけどね。
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