魔術師見習いの魔法邂放

水定ユウ

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第1章 英雄の帰還

■5 家路への帰路

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 とりあえずわかった。
 この世界は私が魔神を倒してから百年後の世界。簡潔に言えば百年の月日が経っていたことになる。
 何かの昔話で同じような話があったが、如何やらこれもその手のたぐいらしい。

 もしかしたら私だけが別の時間軸に飛ばされたと言う可能性も残されているが、流石にそんな魔法は使っていない。
 となると完全に元の時間軸から百年が経過したことになる。でも如何してこうなった。おそらくと言うか結論は当に出ている。

「天界……」

 ポツリと呟いた言葉。
 私がリアさん達に修行を積んでもらっていた場所はもちろん天界だ。
 天界とはいわゆる神達の住う世界。私はそこで血反吐を吐くような思いをしていた。その時間は私の体感では一年程。
 お父さんから授かった祝印の力で死を超越してしまった今、私にとってそこまでではない。が、それでも長くは感じられなかった。
 それが天界の持つ魔力だとするなら向こうでの一年は下界での百年に相当することになる。全くもってズレが酷い。

「はぁー。まあ仕方ないか」

 だからとあって私は絶望などしなかった。と言うかする価値もない。起きてしまったことをクヨクヨしても仕方のないこと。過去に戻ったりする力がもしあったとしても戻る気はない。何故ならあれは止められないことなのだから。
 そして冷静になって考えてみるとどうせ今後同じようなことが続くのだ。刹那的に生きて行く。そんな今まで通りの都合が働くとも思えない。だけど私は今まで通りのスタンスを貫く気ではいる。だからこそとりあえず……

「まずは家に帰るか」

 そう結論づけていた。
 兎にも角にも情報が欲しい。この百年で起きていたことの裏付けだ。
 そうするにはまず拠点となる場所。そしてこの格好を如何にかする必要があった。
 幸いにも私には頼りになる人がいる。心強い味方だ。

「ディア達は死んでるとしてもエイラは生きているか。後は龍華さん。それから……」

 とりあえず頼りになりような人間をピックアップする。
 長寿の種族がいてくれてよかった。その中には私の友人で共に数々の修羅場を乗り越えてきたエイラの姿もある。
 だけどエイラが今何処にいるのか私にはわからない。よってここは身近な人間に限定した。
 その人物こそ、私の家でメイドをやってくれている女性。ティーネだ。

「ティーネなら多分まだ生きてるはず。と言うか彼女が死ぬはずないからな」

 独り言を軽くぶつぶつと唱えていた。
 彼女の肉体構造は魔術によってちょっぴり異なっている。そこに目をつけたのだ。

 可能性の範疇はんちゅうでは未だあるが、それしか手段がない。
 私はかなーり確率の高い望みにかけてみる。
 そのためにまずは家に行きたいのだが、如何言うわけかさっきから家に近づくたびにガチガチの格好をした騎士の数が増えている。

「なにかあったのかな?」

 警備が厳重すぎる。
 この街は元々魔術師が多い。だからあんまり騎士団の所要人数は多くないはず。もしその常識が未だに変わっていないのだとすると、最大人数を投与している可能性は十分にあり得る。

(冒険者を雇わないのはなんでだ)

 荒仕事は冒険者に任せる場合もある。
 過去にも騎士団がまともに機能しなかった時はあった。
 その時も街の自警団である冒険者が表立っていたのもある。それを踏まえるとこの状況は異質でしかなかった。

「まあいいか」

 とりあえず気にしない方向にシフトする。
 意識を切り替え、私は足早に帰路を目指すがその過程で私は思いもよらない事態に遭遇した。

「こ、これは一体……」

 目指す我が家はもう少し。
 なのに私の家へと続く道に騎士が二人立っていた。これはなに?なにが起きているの。私は困惑するしかなかった。

「まさか私の家の近くでなにかあったのかな?」

 やっぱり気になる。
 私は家路に着くため騎士の守る道を通ろうとした。しかし私は騎士の持つ槍によって通ることが出来なかった。

「すみません。この先は通すことができないんです。お引き取りをお願いします」
「えっ、なんでですか?」
「この道の先にはとある一軒家があるのですがその家の住人でなければこの先に入ってはならないと魔術学園の学園長様に申しつけられているのです」
「学園長?(そう言えば今の学園長って誰なんだろ)」
「そうだ。だからこの道を通ることは許可できない。さあ、早く帰れ」
「えっとー(ソレ私の家なんだけど)」

 困った。
 多分百年も経ってるんだ。まともに本当のことを話したところで信じてはもらえないだろう。

「ちなみにこの先にある家ってなんで騎士が付いているんですか?」
「ん?それはこの先にある家の持ち主がかつての英雄だからだそうだ」
「英雄ですか」
「ああ。よくいるんだ。英雄の家は何処にあるのかと尋ねてくるやからが」
「えっ!?(そんなしょうもないことする人達がいるんだ。一体どれだけの英雄思想なんだ)」

 そんなしょうもない宗教的な行為に私は飽き飽きした。
 溜息さえ吐きそうになる。
 そんな中でそそくさと私も邪険にされ始めていた頃だ。もういっそ知り合いとか言って無理矢理押し入ろうかとも思う頃である。誰かがこちらに近づいてくる音が聞こえて来た。しかもこの魔力反応、私は知っている。

「あっ、ティーネさん」
「ティーネ?」

 私は騎士の口にした名前を聞いてビクッとした。
 背後から感じるこの魔力反応。やっぱりそうだ。

「お二方ともおつかれ様です。あら?そちらの方は」
「久しぶり。相変わらずだね、ティーネ」
「ん?知り合いかい」

 騎士達が首を傾げる。
 しかしティーネは違った。
 私が振り返るとそこにいたのは依然となんら変わらない姿のままでいるティーネ。かつての主人からあてがわれたメイド服に身を包む彼女は目を丸くしている。

「フォルトナ様?」
「うん。ただいま」

 私はそう告げる。
 するとティーネは私に思いっきり抱きついて来た。持っていた紙袋を道端に捨て、中身がゴロッと音を立てる。

「ティーネ?」
「よかった。もう、二度と会えないのかと思いました」

 ティーネは泣き出した。
 思いっきり涙を零す。私はそんな彼女が泣き止むまで抱きつかれっぱなしだった。だけど別に嫌な感じは何一つ感じないのでした。
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