魔術師見習いの魔法邂放

水定ユウ

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第1章 英雄の帰還

■8 この世界の変わりよう

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 ティーネの話に耳を傾ける。
 今回はそんなノリだ。

「まずですがフォルトナ様が天界に赴いている間、フォルトナ様は死人という扱いになっています」
「だろうね。勝手に殺されちゃ困るけど、あの感じはそうだ。完全に過去の人にされてる」
「はい。ですが実際は行方不明と言う形で収まっています。しかし百年の月日を人間の寿命に当てはめた結果、死人という結論で凍結されているのです」
「なるほどね。それが今の私ってわけか」

 とりあえず自分のことについては少しわかった。
 それから話は続く。

「魔神を討伐した後この世界は平和になりました。フォルトナ様のご活躍により多数の死者は出ましたが、一般人にまではあまり被害は出ていません。ですので世界を救った一番新しい英雄。そう認知されているのです」
「一般人にはって……それは最悪を回避しただけで結果的に死んだ人間はいる。それを忘れたつもり?」
「いえ。そのことについては慰霊碑いれいひなども建設されています。ですがフォルトナ様は命を賭してまで人々を救い、その過程や結果で如何なる困難や不利益、それから危険をかえりみない行動。その他全てを人々が認知した上での英雄なんです。ですので、フォルトナ様がこれまでの戦いで傷つけてきた人達やこれからのこと。その他全てに誹謗中傷を浴びせる気はないとのことです」
「急に保身の話か。まあそれも大事だね」

 もっとも私が多くの人間を助けたのは事実らしい。だけどそれは結果論に過ぎないのもまた事実なのだ。
 一部ではそんな英雄意識に対して後ろめたい気持ちや不満を抱くものもいるとティーネは教えてくれた。そしてだからと言って誹謗中傷を口にすることを制限している節もないらしい。それは自由の尊厳として安心した。まあ私として、他人が如何思おうと気にはしないが。

「それで私が死んだことになって世界が平和になった。だと言うのにここまでの衰退はなに?」
「衰退ではなく停滞では」
「まあそっちのほうが近いか。魔力の質が変わっていない。むしろ少し落ちている気がする」
「それは世界が平和になったからですよ」
「どういうこと?って、聞くまでもないか」
「はい」

 つまりは魔神という強大な悪が消えたことにより人々から徐々に防衛本能が薄れていったことになる。
 だがそれだけではないはずだ。別に兵器を用いたような跡はない。なら何故。

「騎士の数からして魔術師の人口低下?」
「それも一例です。ですが問題は魔物にあります」
「魔物?」

 確かに魔物は強い。だけど弱い部類のものもいるはずだ。
 魔物とは無尽蔵に溢れ出るこの世界に棲まう生物の一つだ。だけどそれらは確執的な知能を持つ私達にあだなす存在。要は敵対するとして冒険者や騎士などを始めとした職種達が倒して来たはずだ。その中には魔術師もいる。

「魔物が強くなったの?」
「それも一つですが。問題は魔王にあります」
「はい?」

 魔王?聞き慣れない言葉だ。
 いや魔族の王ならいても不思議ではない。

「正式名称は暗黒魔王。魔物や魔獣の長にして、魔神に代わる絶対悪」
「また絶対悪?いい加減にしてくれ」

 私は溜息を吐いた。
 しかしティーネの話はまだ終わらない。
 如何やら暗黒魔王と呼ばれる存在は私が魔神を倒してから現れた存在ではあるが、未だに姿を見せないらしい。しかしその力は脈々と続いており、暗黒魔王を慕う団体まで現れているとのことで面倒なことになっていた。
 それらのこともあって自然と魔力が鈍り、魔力の才が出にくくなったらしい。全くもって嘆かわしい。

「で、国はその暗黒魔王に対してなにか対策を?」
「今のところはなにも」
「だろうね。姿も見せない相手だ。もしかしたらその形すらままならない魔神みたいな存在かもしれない。そんな輩にこちらから手を出すのは分が悪いね」
「そのようです」

 なるほど。とりあえず聞きたいことは聞けた。
 で後はそうだな。

「他に変わったことってある?ティーネの身の回りや歴史が相当動くような事態」
「そうですね。幾つかありますが、主にフォルトナ様にですかね」
「私?」

 あれ?それは計算外だ。思いもよらない反応に私はポカンとした顔になる。

「おほん。実はですねフォルトナ様がこの世を去った後」
「うん、死んでないけどね」
「はい。ですから死んだとされた後です。この国では特に根強くですが“英雄思想”なるものが広まっているんですよ」
「はい?」

 なんとなく嫌な予感がした。
 それはアレだ。私が広場で見つけてしまったあの銅像だ。そうだよ。そのことで私は幾つか聞きたいことがある。
 如何やら次はその“英雄思想”なることについてのお話になるみたいだった。
 
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