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8.魔物を狩るのはつまらない

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 俺は冒険者になってしばらく経った。
 あれからかなり頑張った。そして解ったことがある。
 単刀直入に言おう、あまりにもつまらない。

 俺のランクが低いのもある。それはもちろんだ。
 しかしこの三週間で、FからDランクになった。
 だが何にも変わらなかった。面白い依頼を引き受けるにはBランク以上が必須。つまり、

「なんでお前がBランクなんだよ、アクアス」

「そんなこと言われも知りませんよ。それに私だってBになるのに一年かかったんですよ。そんなに簡単になられても困りますって」

「お前は困らないだろ」

「それはまぁ……はい」

 コイツ、完全に俺を舐めきっているな。
 しかしながらこの三週間で解ったこともある。
 まずはアクアスについてだ。こいつは間違いなく強い。しかも努力上がり。貴族だとか、公爵令嬢だとかでは簡単に表せないような努力をしている。
 それだけはひしひしと伝わる。
 特にスピードと繊細な動きを嚙み合わせた可憐な技の数々を見たときは流石の俺でも、真似できない。目に見張るものがある。

 しかしそれだけだ。

 結局致命傷になるような重たい一撃に欠ける。
 その理由は単純に体重の重さが原因だった。
 アクアスは華奢な体つきをしている。しかも胸も大きい。
 脂肪の塊はあっても、単純に体格と体幹を加味しても、体重が足りなすぎる。

 だから俺からいえることは、まずー-

「ほらもっと食え」

「もう食べられないよ」

「いいか。お前に足りないのは何を言っても体重だ。そのスピードを維持するために最低限必要な筋肉量を脂肪と体幹でごまかしている。少なくとも、後5キロは増やせ」

「そんなー! 私太りたくないよ」

「お前はがりがりなんだよ。軽すぎだろ」

 前にコイツを持ち上げたことがあった。
 しかしあまりに軽すぎて、

「麩菓子か!」

 とか、今までにしたことないツッコみを入れてしまった。
 あの時の俺はどうかしていた。
 しかも体重が軽すぎなせいで、

「せいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 上空からの叩きこみが全く意味をなしていなかった。
 あの時のアクアスは心配だった。危うく、マグマハンドに全身焼かれるところだったからな。

「だからこそ、お前に足りないんは体重なんだ。今のままだと、結局死ぬぞ」

「だから技を磨くんですよ!」

「技だと?」

 俺は首を傾げた。
 するとアクアスは得意げに、

「技を磨けば、その分のからめ手になりまあす。手数を増やすことで未熟な私をより強くするんです。「灼夜」様のいうに!」

「「灼夜」?」

 また知らない名前だ。
 ここ最近知らない剣士の名前をよく聞く。しかしこの名前には特別思いが強いらしい。
 アクアスの目が強くそう語りかけてきていた。

「「灼夜」様は手数の女帝と言われている、剣士です。身長の高さを活かして最大限に技を繰り出す。畳みかけるように、一糸乱れぬ剣劇に屈服する人は少なくないそうです」

「それは違うな」

 俺は真っ向から否定した。
 今の会話の流れだけだと、いい部分しか切り取っていないみたいに聞こえる。
 それはたいそう聞こえはいいだろう。しかし本来は違う。

「何が違うんですか! 私は「灼夜」様のように頑張って」

「それはソイツだからできただけだ。お前には無理だ」

「なんで決めつけるんですか! いくらリイブでも怒りますからね!」

「お前は気が付かないんだな。いいか、お前自分で言ったことを思い出してみろ」

「思い出す?」

「そうだ。そいつはんだろ。どのくらいかは知らないが、お前と比べたらどうだ」

 俺がそう尋ねると、アクアスは苦い顔をした。
 如何やら自分の方が背が低いらしい。それなら決まった。確実に無理だ。

「いいか。男と女の体格は違う。それは身体構造だけじゃない。筋肉のバネがある」

「筋肉のバネ?」

「そうだ。単純な力関係なら男の方が有利だろう。だが女の方が体は柔らかく、筋繊維の伸び縮みも緩やか。それ故、必ずしもがなくなる。しかし、背の高さは優劣に直結する」

 身長の高さは基本的に高い方が有利。
 高ければその分使える筋肉の割合も増えるからだ。
 しかしアクアスはそんなに身長が高くない。女の中では高い部類でも、せいぜい170センチ台だ。
 手足の長さも加味しても、無理がある。だから、

「残念だが全く同じにはなれない」

「そんな!」

 アクアスは気を落とす。
 しかし俺はそこに追加する。

「しかしだ。自分の体重を上手くコントロールすれば、それもカバーできる」

「そうなの?」

「あぁ。だからこそ、お前はもう少し筋肉をつけろ。華奢なままだと今後詰まるぞ」

「はーい」

 その態度は仕方なくだった。
 しかしこうでも言わないと、こいつは強くなれない。それがわかるからこそ、俺は厳しく当たっていたのかもしれない。
 その理由として、少なからず自分を投影していたのかもしれないな。
 結局さ、剣が嫌いじゃないんだよ。だからこそ、楽しんでいたんだろうなー。

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