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フェンリル編
707.医者のフリをしよう
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次の日になっていた。
ルカとリュマミールの二人は、巨大な屋敷の前に立っている。
門からしても立派で、相当なお金持ち、権力者のニオイがした。
「本当に行けるのかい?」
リュマミールはルカに訊ねる。
この先に待っている商談相手は、相当な手練れ。
並の商談では決して尻尾を見せることがない、面倒な相手だった。
「行くしかないよね」
その隣で佇むルカは、いつもと姿勢を崩さない。
クールな態度で状況を上から見下ろす。
まるで自分には無関係、蚊帳の外であるかのように、着ていた白衣を払った。
「……その覚悟は伝わるけどね、ルカ君。その格好はなにかな? 飾り?」
「飾りだよ。古典的な医者のイメージを模ってみたんだ」
ルカは白衣を着ていた。
纏う雰囲気自体には似合っているものの、違和感が絶妙。
リュマミールは返す言葉もなく、フッと息を整えた。
「この先に待っているのは、この町の権力者の一人だよ。油断はしない方がいい」
「油断? 悪いけど、そんなつもりはないよ」
もちろんのこと、隙を見せるつもりもない。
一日で片付けたかった事態が、二日目に移行している。
早急な解決を図るとフェンリルとも約束しているので、ルカは行動に移す。
「それじゃあ行こうか」
ルカはリュマミールを連れ、門を潜った。
如何やら警戒されているらしい。
前以ってリュマミールから伝えて貰っている筈だが、姿が見えない分、離れた所から警備が見張っていた。
「警備を固めているね、気を付けた方がいいよ、ルカ君」
「分かっているよ」
幾ら警備が固められていようが、いないであろうが、ルカには誤差でしかない。
リュマミールの忠告を受け流すと、これまた立派な玄関前にやって来た。
門の中に広がるのは、赤壱島のあるヒノワ・ヒノモトらしい、木造の建物。
巨大な二階建ての屋敷がそびえると、赤斜の瓦屋根がニタリと光った。
「……らしいね」
ルカはポツリと呟いた。
ここまでは想像通りで、別に驚くことは無い。
鼻で笑ってしまうと、ルカはコンコンとドアをノックした。
「すみません、誰かいますか?」
ルカは扉越しに声を掛けてみた。
すると玄関の扉がすぐさま開く。
まるで扉の後ろに待機していたみたいで、実際にその通り、扉の後ろに女性が経っていた。着物姿の女性で、如何やらこの屋敷で雇われている女中らしい。
「お待ちしておりました、島長様」
「うん、バイトンさんはいらっしゃるかな?」
「はい。奥の部屋でお待ちです。ご案内致します」
凄く畏まっていた。空気が若干重い。
ルカは素早く理解した。
この屋敷はバイトンの世界。外部からの侵入者に対して、過敏かつ過剰に反応していた。
「ねぇ、バイトンさんってどんな人?」
ルカは廊下を歩き、バイトンの待つ部屋へと通される中、女中に訊ねてみた。
ここまで来ると、流石に気にならない訳がない。
「どのような方……でしょうか?」
女中は困ったような口調だった。
表情は流石に見えないけれど、今の一言で伝わる。
バイトンとは只者ではない。隙を見せれば食われる。
ルカの相手ではないものの、常人なら耐えられないと察した。
「大丈夫、今ので伝わったよ」
「えっ?」
ルカ一人だけが納得していた。
女中のことを完全に置いて行くと、後ろを付いたリュマミールが口を開く。
「相変わらずだね、この屋敷は」
「リュマミール?」
島長であるリュマミールは、何度もこの屋敷に足を運んでいる。
それは当たり前のことだろうが、問題はその目だ。
厭らしい目で屋敷の中を見回すと、声にもドロッとした粘り気のある重みを感じた。
「バイトンさんが商会長を詰め留めている、胴元の商会だよ。莫大な富が築き上げられているのは伝わるよね」
「もちろんだよ」
「でもね、バイトンさんの周りでは“闇深さ”が絶えないんだ。島長として、僕も調査をしたことがあったんだ。そうしたら案の定だったよ」
リュマミールの目の色が変わる。
バイトンに対して、あまりいい印象を抱いていない。
言葉にも拍車が掛かると、バイトンの恐ろしさを体現する。
「よくない金の流れ……それさえ利用するからこそ、バイトンさんは食えない相手。なによりも警戒すべき、この町の権力者なんだ」
「ふーん」
「ルカ君には関係に無いことだね。つまらない話をして済まないね」
ルカは興味が無い訳ではなかった。
寧ろそれが利けただけで充分だと悟る。
リュマミールもバイトンには頭が上がらないのか、それとも島長として大商人に消えられると困るせいか、どうにもうだつが上がらない。そんな態度を直で感じ取り、ルカは確信した。
「仕方が無いない相手だね。それならここで摘んでおこうか」
ルカは誰かの正義になる気はない。
自分の邪魔をするにしても勝手だ。
けれどそれでルカの周りの環境が変わるのは避けたい。
だからこそ、最終手段も検討する。
「積んでおく?」
「そうだよ。これ以上、図に乗った態度を取らせないようにすることも検討するよ」
「一体なにをするんだい?」
リュマミールは悍ましいルカの言葉に唾を飲む。
冗談半分だろうと高を括る……訳にも行かない。
何故だろう。ルカの言葉は真実になりそうで怖かった。
「なにをする? さぁね、なにをしようか」
何でもできてしまう。例え世界の混沌さえも。
混迷を極めた世界を生き抜いて来たルカだ。
多少の不都合も不釣り合いも気には留めない。
ただそこにあるのは“行動力”と言う名の化物で、リュマミールも女中も吐き気の前に言葉を失った。今更冗談では済まされないだろうと、口元に手を当てる。
ルカとリュマミールの二人は、巨大な屋敷の前に立っている。
門からしても立派で、相当なお金持ち、権力者のニオイがした。
「本当に行けるのかい?」
リュマミールはルカに訊ねる。
この先に待っている商談相手は、相当な手練れ。
並の商談では決して尻尾を見せることがない、面倒な相手だった。
「行くしかないよね」
その隣で佇むルカは、いつもと姿勢を崩さない。
クールな態度で状況を上から見下ろす。
まるで自分には無関係、蚊帳の外であるかのように、着ていた白衣を払った。
「……その覚悟は伝わるけどね、ルカ君。その格好はなにかな? 飾り?」
「飾りだよ。古典的な医者のイメージを模ってみたんだ」
ルカは白衣を着ていた。
纏う雰囲気自体には似合っているものの、違和感が絶妙。
リュマミールは返す言葉もなく、フッと息を整えた。
「この先に待っているのは、この町の権力者の一人だよ。油断はしない方がいい」
「油断? 悪いけど、そんなつもりはないよ」
もちろんのこと、隙を見せるつもりもない。
一日で片付けたかった事態が、二日目に移行している。
早急な解決を図るとフェンリルとも約束しているので、ルカは行動に移す。
「それじゃあ行こうか」
ルカはリュマミールを連れ、門を潜った。
如何やら警戒されているらしい。
前以ってリュマミールから伝えて貰っている筈だが、姿が見えない分、離れた所から警備が見張っていた。
「警備を固めているね、気を付けた方がいいよ、ルカ君」
「分かっているよ」
幾ら警備が固められていようが、いないであろうが、ルカには誤差でしかない。
リュマミールの忠告を受け流すと、これまた立派な玄関前にやって来た。
門の中に広がるのは、赤壱島のあるヒノワ・ヒノモトらしい、木造の建物。
巨大な二階建ての屋敷がそびえると、赤斜の瓦屋根がニタリと光った。
「……らしいね」
ルカはポツリと呟いた。
ここまでは想像通りで、別に驚くことは無い。
鼻で笑ってしまうと、ルカはコンコンとドアをノックした。
「すみません、誰かいますか?」
ルカは扉越しに声を掛けてみた。
すると玄関の扉がすぐさま開く。
まるで扉の後ろに待機していたみたいで、実際にその通り、扉の後ろに女性が経っていた。着物姿の女性で、如何やらこの屋敷で雇われている女中らしい。
「お待ちしておりました、島長様」
「うん、バイトンさんはいらっしゃるかな?」
「はい。奥の部屋でお待ちです。ご案内致します」
凄く畏まっていた。空気が若干重い。
ルカは素早く理解した。
この屋敷はバイトンの世界。外部からの侵入者に対して、過敏かつ過剰に反応していた。
「ねぇ、バイトンさんってどんな人?」
ルカは廊下を歩き、バイトンの待つ部屋へと通される中、女中に訊ねてみた。
ここまで来ると、流石に気にならない訳がない。
「どのような方……でしょうか?」
女中は困ったような口調だった。
表情は流石に見えないけれど、今の一言で伝わる。
バイトンとは只者ではない。隙を見せれば食われる。
ルカの相手ではないものの、常人なら耐えられないと察した。
「大丈夫、今ので伝わったよ」
「えっ?」
ルカ一人だけが納得していた。
女中のことを完全に置いて行くと、後ろを付いたリュマミールが口を開く。
「相変わらずだね、この屋敷は」
「リュマミール?」
島長であるリュマミールは、何度もこの屋敷に足を運んでいる。
それは当たり前のことだろうが、問題はその目だ。
厭らしい目で屋敷の中を見回すと、声にもドロッとした粘り気のある重みを感じた。
「バイトンさんが商会長を詰め留めている、胴元の商会だよ。莫大な富が築き上げられているのは伝わるよね」
「もちろんだよ」
「でもね、バイトンさんの周りでは“闇深さ”が絶えないんだ。島長として、僕も調査をしたことがあったんだ。そうしたら案の定だったよ」
リュマミールの目の色が変わる。
バイトンに対して、あまりいい印象を抱いていない。
言葉にも拍車が掛かると、バイトンの恐ろしさを体現する。
「よくない金の流れ……それさえ利用するからこそ、バイトンさんは食えない相手。なによりも警戒すべき、この町の権力者なんだ」
「ふーん」
「ルカ君には関係に無いことだね。つまらない話をして済まないね」
ルカは興味が無い訳ではなかった。
寧ろそれが利けただけで充分だと悟る。
リュマミールもバイトンには頭が上がらないのか、それとも島長として大商人に消えられると困るせいか、どうにもうだつが上がらない。そんな態度を直で感じ取り、ルカは確信した。
「仕方が無いない相手だね。それならここで摘んでおこうか」
ルカは誰かの正義になる気はない。
自分の邪魔をするにしても勝手だ。
けれどそれでルカの周りの環境が変わるのは避けたい。
だからこそ、最終手段も検討する。
「積んでおく?」
「そうだよ。これ以上、図に乗った態度を取らせないようにすることも検討するよ」
「一体なにをするんだい?」
リュマミールは悍ましいルカの言葉に唾を飲む。
冗談半分だろうと高を括る……訳にも行かない。
何故だろう。ルカの言葉は真実になりそうで怖かった。
「なにをする? さぁね、なにをしようか」
何でもできてしまう。例え世界の混沌さえも。
混迷を極めた世界を生き抜いて来たルカだ。
多少の不都合も不釣り合いも気には留めない。
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