1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について

水定ゆう

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フェンリル編

718.仕方がないから助っ人を

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「ぶはっ!」

 ゴードの体が吹き飛んだ。
 座敷から転がり落ちると、全身を床に打ち付ける。
 一体何が起きたのか。ルカ以外には分かる筈もない。

「な、なにが起きたんだ、おい?」

 ゴードは自分の身に何が起きたのか、まるで分からない。
 ただ一つ言えるのは、全身が激しく激痛を訴えていること。
 一瞬の間。否、その一瞬すら存在しない中で、自分の身に何かが起きたんだ。

「(あむっ)うん、美味しい」

 そんな折、ルカはシャーベットを食べていた。
 ゴードの指が入ってしまったとは言え、食べられないことは無い。
 不衛生だろうが、食べられることに感謝をすると、ルカは満面の笑みを浮かべる。

「やっぱり、食べられるっていいことだね」

 ルカの言葉からは、重みを感じた。
 空気をしみじみとさせると、誰も注意することができない。
 それだけルカの食べっぷりは丁寧で、食べられない苦しみを知っている人の雰囲気を纏っていた。

「くっ、よく分からねぇけどな、い、痛てぇ」

 ゴードは頬を押さえていた。左頬が晴れ上がっている。
 それだけではなく、口の中が苦い。
 血のような味がすると、奥歯が一本抜けていた。

「(ペッ)!」

 口の中から奥歯が一本飛び出す。
 もちろんのこと、自分の歯ではない。
 歯槽膿漏で抜けてしまった歯の代わりに差していた差し歯が、粉々になって床に散らばる。

「お、おい嘘だろ!?」
「歯が抜けたのかよ!」
「おいおい、ゴードさんよ、大丈夫か?」
「なにが起きたんだよ、マジで誰か説明してくれよ」

 当然のこと、店内はパニックに陥っていた。
 先程までのゴードの暴論やルカの殺気とは訳が違う。
 実害が出てしまったので、混乱は更に極まる。

「心配すんな。それよりもだ……」

 店内の騒ぎをゴード自身が止める。
 ざわつきは治まらないものの、上手く空気を取り留めさせた。
 しかしその視線はルカを睨みつけている。

「おい、お前。本当になにをしたんだ?」

 ゴードはルカを睨みつけたまま、声を荒げた。
 自分の身に何が起きたのかを知っている。
 その張本人に、ことに真相を訊ねたのだ。

「別に、ちょっと殴っただけだよ」
「そんなのは分かってる。だがよ、この威力はなんだ」

 ルカは白状した。つい怒ってしまったので、一発だけ、本当に軽く殴ってしまった。
 もちろん、回復なんてしない。それだと腹の虫が収まらない。
 手加減をして殴りつけると、その威力は凄まじかった。
 全身を刺すような痛みと恐怖が、ゴードを駆け巡る。

「別に、“時間を圧縮しただけ”だよ」

 ルカは嘘を付かない。
 嘘を付く必要がまるでないので、本当のことを伝える。
 けれどゴードは納得できない。そんな異次元な魔術、本当に使えるとは思いたくない。

「嘘だな、そんな世界を支配するような魔術、使える訳がない」
「どうしてそう思うのかな?」
「お前からは野心が感じられない。ましてや子供だ。単なる学生が、そんな世界を一変させちまうような真似、できる訳がないだろ」

 ゴードはルカのことを見た目だけで判断していた。
 ギルドマスターとはいえ、たかが知れている。
 所詮はルカの実力を推し量ることもできない。
 今を生きる人達に、ルカの心の実力は認知されないのだろう。

「はっ……そうだね。そう思ってくれていいよ」

 訂正するのが面倒になったルカ。
 適当に受け流すと、これ以上面倒を増やされても困る。
 ルカにもやるべきことがあるので、ゴードを納得させる一手を打った。

「ゴード、悪いけど私は手伝わないよ」
「この期に及んでか? 意思は固いんだな」
「そうだね。だから代わりを用意するよ」

 ルカ自身は別のことをする必要がある。
 そのため、密猟者達の一斉検挙は手伝えない。
 そこで、代わりの人材を用意することを決めた。

「代わりだと?」
「そうだよ。とても優秀な人に手伝って貰うから」

 一体誰がルカの代わりになるのか? 
 もちろん、完璧なルカの代わりは存在しない。
 それでも優秀な人材を、ルカは知っている。

「信用していいんだな?」
「どうだろう? もしかすると、人死にが出るかもね」

 信用されても困る。何せ信用に応えることは、相当大変なことだからだ。
 ましてや快く助っ人を引き受けてくれる保証は無い。
 最悪人死にが出るかもしれない。あまりにも物騒な会話を、平然と公衆の面前でしていた。

「殺しか? ……最悪、それも加味するか」
「いいんだね。それじゃあそれで頼むよ……あっ、そうだった」

 最悪に場合、人が死んでも仕方がない。
 相手は密猟者。しかもほとんどが冒険者だ。
 いざとなれば本気の戦闘になりかねないので、殺人を承知する。

 決まり切ったゴードの覚悟。
 それを見たルカは薄っすらと笑う。
 面白い訳ではない。寧ろその逆だった。

「なんだ、要望があるのか?」
「もちろんあるよ……はい」

 ルカは空になったシャーベットの器をゴードに突き付けた。
 突然何なのか? そう思ったゴードは訝しんで眉根を寄せる。

「なんだ、コレ? 空だぞ」
「知ってるよ。さっき私かシャーベットを奪った分、ちゃんと返して欲しいな」

 ルカはゴードの指が入っていたことを忘れてはいない。
 そのせいだろうか。新しいシャーベットを要求する。
 つまりじゃ奢れと言う訳だ。

「シャーベット代、奢ってよね」

 ルカはニタリと笑った。
 これが交換条件で、その代わりにゴードは一発殴られた。
 食べ物が絡むとルカは怖い。狂気さえ感じさせられると、ゴードは喉の奥が乾き切り、恐怖心に包まれていた。
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