1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について

水定ゆう

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聖夜編

319.崩れる体と願いを聞いて

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 ドリアードの話を聞いたルカは神妙な顔をした。
 眉根を寄せ、額に皺を作った。

「なるほど。私達と別れてからはそんなことが……」
「はい。貴女方と別れ、一人で放浪の旅をしていたサンタ・ク・ロースは道中で私と出会い、私の一方的な誘いから契約を果たしました」
「確かに一方的だ」

 とは言えルカの思っていたサンタ・ク・ロースはその頃までは存在していた。
 それを知ることができただけで、ドリアードが化けている偽物がより一層濃い偽物に見えて仕方なかった。

「それじゃあその姿は死に際の?」
「私が写したトレースしたものです」
「その姿をどのくらい?」
「千年ほどでしょうか」

 近喜の要る作業だと、ルカは心の中で拍手を送った。
 もちろん感動したわけではなく、乾いた拍手だった。

「とは言え儂が安住とした地を何かしらの形で守ってくれか。漠然とした願いを口にするなんて、サンタ・ク・ロースらしいよ」
「確かにそうは思いましたよ。ですが現に私はその命を遂行中の身です」
「もはや呪いだね。それだけ体を酷使して、自分の存在を犠牲にできる何て」

 まさしく精霊の鑑だった。
 だけどルカにはそのモットーが理解できず、とても歯痒いものだった。
「それが精霊の在り方ってこと? それなら私はあまり寛容に慣れないな」
「そうでしょうか? 貴女だって精霊の力を借りたことくらい……」
「無いね。少なくとも契約を呪いに変えるような形で精霊の力を借りたことは一度たりとも無いよ。私とセレナは特にその手のことにはもの凄く厳しくしてきたから」

 中でもルカは群を抜いていた。
 人を自らの手で殺めることは決してしないと誓い、あっても半殺し程度だった。

「まあそれは一旦置いておくよ。今考えるべきはその崩れる体……限界地は来ていると言っていいよね? 魔力の残りも少ないはずだよ」
「魔力は残っていますよ。ですが契約が……」
「死後に果たされる契約はより一層強まるはずだけど……なるほど、頑張り過ぎたんだ」

 死後に果たされる契約は通常の契約よりも色濃く結ばれる。
 千年前から変わらない常識ではあるが、時間が経ちすぎると契約は脆くなってしまう。
 そこが契約を断ち切るチャンスで、大抵喜ばれることだけど、ドリアードは悲しい顔をしていた。本気で苦には思っていないらしく、ナタリーに相談し続けていたのもサンタ・ク・ロースへの忠義からだった。

「契約以上のものがあるね」
「はい。私はあの人と一緒に旅をしてとても楽しかったんです。今までは土地に縛られて一人きり。人間は精霊を利用し、酷使し、使いものにならなくなったら捨ててしまう。そう思ってきました。だけどサンタ・ク・ロースは違いました。常に無頓着で無関心。だからこそ笑顔が絶えない。そんな素敵な人でした」
「恋焦がれってことかな?」
「さあ、如何でしょうか?」

 ドリアードは下を向いた。
 恥ずかしそうに顔を赤らめているので間違いなかった。

「ちなみにだけど、あれだけ大規模な仕掛けの数々は?」
「この森と私自身を守るためです。今の私に戦う余力は残っていませんから」
「そっか……」

 ボロボロとサンタ・ク・ロースの体が崩れていた。
 だからこそルカには、全ての元凶が焦りだと気が付いた。
 この森の大規模な結界も、雷の魔術が刻まれた石板地雷も、降って来たおもちゃの槍も、全ては自分を守るための小細工に過ぎなかった。
 精霊の体が崩れ始め、戦う力も残っていなかったのだ。

「お疲れ様、って言ったらいいのかな?」
「慰めは必要ありませんよ。サンタ・ク・ロースとの契約、この町はとても長閑で過ごしやすく、町の結界も市役所の人達が総力を挙げてくれています。だから町自体の心配は要らなくても、子供の悲しい顔だけは如何にもできない……」
「如何いうこと?」

 ルカが尋ねると、この町のことを軽く教えてくれた。
 この町は住みやすくて長閑な雰囲気を保ってはいるが、孤児院を兼ねた大きな教会が建っていた。
 そこには貧しい子供たちがたくさんいて、笑顔が溢れ返るとは言えなかった。

「孤児院か……なるほどね」
「サンタ・ク・ロースの意向の一つです」

 確かにらしいとも思った。
 サンタ・ク・ロースは昔から子供に好かれる名前と朗らかな見た目をしていたからだ。
 ルカは微かに納得すると、ドリアードの顔がそこにあった。

「だからこそお願いしたいんです。この町の笑顔のために、あの人と私の頼みを聞いてください!」

 ドリアードは頭を下げた。
 これだけ話を聞いたら動かないといけない気分になったが、ルカは一つだけ気になった。

「今年は良くても来年は如何するの?」
「もうありません。だからこそこれが最後何です」

 ドリアードからは信念を感じた。
 綺麗で純粋な瞳がルカに向けられ、頭を掻いてしまった。

「はぁー……今年だけだよ」
「あ、ありがとうございます!」

 ルカは優しかった。いいや、むしろ動かない訳にはいかなくなった。
 ボロボロと崩れ落ちていくサンタ・ク・ロースの体が最後の一押しになったものの、やるせない気持ちは変わらず残った。
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