1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について

水定ゆう

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エルフの森編

520.風を纏えば怖くない

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 シルヴィアは深く目を瞑る。
 それはほんの一瞬の時間の筈なのに、頭の中に映像が浮かんだ。




 シルヴィアは幼かった。
 まだ上手く魔術が使えない頃。
 シルヴィアは師匠と仰ぐ魔術師に魔術を教わっていた。

「うわぁ!」

シルヴィアは風を起こす魔術を使った。
 けれど上手く扱えず、反動で吹き飛ばされる。

「い、痛いよ」
「シルヴィ、風を怖がってちゃダメだよ」

 シルヴィアは反動で突き飛ばされ、お尻を強くぶつけた。
 おまけに半ズボンだったせいで膝が擦り剝けてしまった。

「師匠、そんなこと言っても、私じゃ……」

 シルヴィアの師匠は優しく言葉を掛けた。
 柔らかい桃白色の髪。そこから伸びる白くて長い耳。
 ソッと差し伸ばした手をシルヴィアに向けると、何度転んでも立ち上がらせた。

「師匠、私じゃ師匠みたいには上手くできないよ」
「そんなの当たり前だよ、シルヴィ。シルヴィと私は違うから」
「ん、うん……」

 そうは言われても、シルヴィアには悔しくて仕方がなかった。
 憧れている人に近付けない。
 悔しくて悔しくて、つい涙を浮かべてしまった。

「あー、泣かないで。シルヴィは私じゃないんだから、自分なりにやってみればいいんだよ?」
「私なりって?」
「うーん、それはシルヴィ自身の手で見つけないとダメだから……そうだね」

 師匠は腕を組んで悩んでしまった。
 あまり考えたことが無いのだろう。
 シルヴィアの記憶の中にある師匠も、神妙な顔付きになっていた。

「やっぱり、私は師匠には……」
「あっ、そうだ!」

 再び涙を浮かべるシルヴィアに思い付いたような言葉を掛ける。
 師匠なりに掛ける言葉を選び取り、肩をポンと叩いた。

「シルヴィ、風は常にそこに在るんだよ」
「えっ?」
「風は友達。私達のことを、ずっと見守ってくれているんだよ。耳をすませば声だって聞こえるでしょ?」
「声なんて聞こえません」
「想像力が足りないな。良い、シルヴィ、私達は風の魔術師。それでいつかは風の魔法使い……だったら、風を信じてみて。受け入れてこそ、風を信じたことになるんだよ」

 師匠はシルヴィアに熱く語りかけた。
 しかしシルヴィアにはよく分からない話だった。
 ただ一つ、師匠は凄く楽しそうに話していた。
 励ましてくれている、未来を示してくれている、その言葉が心に残り、シルヴィアを包み込んでいた。




「そっか、忘れてたわね……風は、常にそこに在る!」

 シルヴィアは臆して泣き事を言っていた自分を蹴り飛ばす。
 ダリアから受け取ったレイピアを握り締めると、目の前の鳥型を睨んだ。

「もう負ける気はしないわ。だって……」

 シルヴィアが口を開くと、鳥型は再び単調な攻撃を始める。
 それだけ強力な嘴攻撃で、きりもみ回転も相まってか、もはや手の付けようがない。
 少しでも掠れば肉を抉られる。その危険性さえ噛み締め、シルヴィアは全身で風を受け止めた。

「確かに空を制したのは貴方かもしれないわね。でも、風を信じたのは私よ」

 シルヴィアはそう言うと、レイピアを振り抜いた。
 するとピタリと風が止み、鳥型とシルヴィアとの間を分ける。

「キュヤァラァ?」

 鳥型は奇妙な声を上げた。
 急に全身が重くなり、絶えず漏れ出ていた炎が弱まる。
 揺ら揺らと燃える火柱が、火力を失い一瞬で消え掛ける。

「分からないでしょうね。でも、酸素が無いと、炎が勢いを増さないのよ」

 単純な話しだった。如何してもっと早く気が付かなかったのか。
 シルヴィアは、風を起こせば、“炎の勢いを増してしまう”とばかり考えていたが、本当にするべきはこっちだった。

「風を起こして炎の勢いを増すんじゃなくて、炎の勢いを殺すために、酸素を渡さなければよかったのよ。どうしてこんな簡単なことに気が付かなかったの? 本当に必要なのは、風で空気を分かつことだったのに」

 シルヴィアはようやく勝機を見いだした。
 鳥型炎獣は炎を失い、突然機動力を欠いた。
 ソレだけで分かる。炎獣は炎が無いとダメ。体内に埋め込まれたリングが触媒の役割を果たせず。動かすためだけの核になり下がるのだ。

「後は岩だけね……でも、私には通用しないわ」

 鳥型はもはや脅威じゃない。
 ゆっくり飛んで落ちて来ると、シルヴィアは軽く蹴った。
 鳥型の頭を足場に使うと、迷わずコールド・ストッパーを取り出した。

「これで、いいのよねっ!」

 シルヴィアは鳥型の背骨辺りにコールド・ストッパーを刺した。
 中に入っていた冷却材が少しずつ流し込まれる。
 動きが悪くなり、炎が弱まると、鳥型炎獣は声なき悲鳴を上げ、苦しそうに落ちて行く。
 もはや虫の息で、いつ途絶えてもおかしくなかった。

「後は……砕け散りなさい! 《ウィドン・スラッシュ》」

 レイピアの剣身に風を集め束ねると、容赦なく振り下ろした。
 鳥型は頭から真っ逆さまになって地面に落ちて行く。
 暗がりの中、薄っすらと灯る灯りに照らされ、ドスン! と派手な音を立てると、鳥型はバラバラになってしまった。

「勝てたわね……師匠、ありがとうございました」

 忘れていたものを思い出させてくれた情景。
 そこに映る師匠の姿に感謝する。
 今は一体何処で何をしているのか。きっとたくさんの夢を手紙と一緒に運んでいるんだろう。
 いつか、いや、そのうち会える。会いたい。そんな懐かしむ気持ちを吐露しそうになるシルヴィアは、次の炎獣を仕留めに向かった。
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