1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について

水定ゆう

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炎の悪魔編

539.ディンネルと組み手

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 ルカとディンネルがやって来たのは森の中。
 しかもここはただの森じゃない。
 魔素の濃度が非常に濃く、その影響で森全体が枯れないように、結界が施されている。
 人為的な、それでいて自然との共存が果たされた、極めて稀な空間だった。

「へぇー、こんな場所があるのか」
「御託は良い。とっととそこに構えろ」

 崩していた表情に明るさが戻るや否や、ディンネルは興味を失う。
 それどころか、厳しい言葉を挟むと、ルカのことを威圧する。
 迸る殺気。何やら嫌な予感がしたが、ルカは二十メートル程距離を取ると、無防備に見えて構えた。

「構えたけど、これからどうするの?」
「死ねっ!」

 ディンネルは物騒な言葉を吐くと、状況を飲み込まないルカに攻撃を仕掛ける。
 手刀に魔力を纏わせコーティングすると、金切り音を上げた手刀を振り下ろす。
 喰らえば切断される。そんな恐ろしい攻撃だったが、ルカは一切避けること無く、むしろ無表情で受け止めていた。

「いきなり攻撃? しかも肉弾戦って……ダークエルフは魔力操作が苦手って聞くけど、本当に物理で来るんだ」
「チッ! ならば……」
「足下を狂わせ、体勢を崩すでしょ?」

 ルカはディンネルの攻撃を読み切っていた。
 手刀を受け止められると、ディンネルは作戦を変更。
 今度は右足に魔力を流してけたぐりを喰らわせようと、ルカの足を掠める。
 しかしルカはけたぐりを喰らっても何ともなく、無傷のまま飄々とした態度を取る。

「な、なんだと!?」
「決まった体術だ。誰から教えて貰ったの?」

 ルカは優しくディンネルに訊ねる。
 それもその筈、ルカはこの体術を知っている。
 格闘術に分類されるもので、魔力を全身ではなく、ある一点に注ぐことで、爆発的に身体能力を上げ、自身の体を強靭な刃に返る。ダークエルフのような、一般的な魔法や魔術に適さない種族が使う場合が多いものだ。

「《ブラックアウト》!」
「今度は視界を奪って来たか。それなら……《マギア・キャンセル》」

 発動する前ならこれが一番いい。
 頭の中でいつものようにイメージだけ膨らまし、特に名称も決まっていない魔法を発動。
 するとディンネルがせっかく発動しようとした魔術が打ち消され、困惑の表情を浮かべる。特に目が泳いでいて、慌てふためいていた。

「な、なに!?」
「ディンネル、私がいつも即興で作っているような魔術や魔法に押し負けたらダメだよ」
「くっ、即興だと!? ふざけるなぁ!」

 私は挑発して、ディンネルの本気を炙り出す。
 すると本当に怒ってくれたのか、ディンネルの攻撃が変化した。
 苛烈になり、鋭い手刀による突きが、ルカの腹目掛けて繰り出される。

「なかなか良い動きだよ。見えて無かったらね」

 だけどルカには効きもしない。
 届く前にて首を押さえられると、軽く捻られてしまう。
 腕が変な方向を向き、ディンネルは涙目になって苦汁の顔を浮かべた。

「あああああ、あっ、あああああああああああああああ!!!」

 途中で嗚咽も漏らしてしまう。
 少しやり過ぎちゃったかな?
 ルカは悪いと思いつつも、一度関節を外させて貰う。

 グリッ!

「あっ!? ……」

 ディンネルは腕の関節を外されると、声を漏らして動かなくなった。
 如何やら決着はついたらしい。
 大人しくなったディンネルから離れると、地面にうつ伏せになってしまっていた。
 なんと言おうか、滑稽こっけいとでも言えばいいのだろうか?

「くっ、無様な姿を晒してしまった……」
「そんなことは無いよ。ディンネルはよくやってる」
「上から目線な言い分だな。まぁ、負けた私が言えた口ではないが……」
「相手が私じゃなかったら勝てたかもね」

 そう、これは相手が悪かった。ルカはそう思う。
 ディンネルの攻撃の苛烈さ正確さ、どれをとっても一流。
 技を体得できていない訳でも無く、単純に経験と読み合いの差が勝敗を決しただけだった。

「でも私は楽しかったよ」
「ふん、それは良かったな」
「良かった良かった。で、組み手をやった感想は?」

 ルカはディンネルに真意を問う。
 急に呼び出し、こうして森に連行され、わざわざ二人きりで組み手をした意味だ。
 もちろん分かってはいる。分かってはいるのだが、ルカはディンネルの口から出た言葉で訊きたかった。

「足下にも及ばなかった」
「そうかな? 他には無いの?」
「他だと!? 今の私の実力では、この森を守れない。どうしようもない、恥晒しな結果か?」

 ディンネルは相当悩んでいる。
 今の実力では、エルフの森を守ることはできない。
 何故そうまでして固執するのか。
 理由は分からないが、ディンネルが森長だからだろう。つまりは責任感から来るものだ。

「昨晩も言ったけど、ディンネルよくやってるよ」
「やってなどいない! 私は、もっと強くならなければいけない。そうしなければ、私はなにも守れないんだ!」

 ディンネルから負の魔力が放出される。
 どす黒く、今にも闇に落ちてしまいそうな程深い。
 それはディンネルを構成するストレスの一端。ディンネルの責任感に通じるものなのだろう。

「ディンネル、なにがあったのか話しては……」
「そんな気はない」
「だろうね」

 ディンネル依然とした態度を崩してくれない。
 ほんの少しだけ得られた信用。それでは全然足りない。
 ルカはディンネルの過去を訊ねるのは諦めることにした。
 代わりにルカはディンネルにこう語りかけた。

「ディンネル一人で強くなることに意味はあるのかな?」
「は?」

 ディンネルは訳が分かっていなかった。
 突然ルカから出た言葉。
 まるで自分の心を見透かしたようで気に入らず、ディンネルの顔色は曇っていた。
 それ即ち、ルカの思う壺であった。
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