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炎の悪魔編
545.空が赤に染まったら
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「クソッ、完全に手玉に取られたな」
ディンネルはようやく体が動くようになっていた。
あそこまでボロボロに負けるとは思わなかった。
否、そう思いたかったのだ。しかしルカにはまるで歯が立たず、力の差を植え付けられた。
「だが、私はお前には従わない。私は私のやり方を全うするだけだ」
それでもディンネルにも譲れない面がある。
エルフの森とそこに暮らす人々を守る。
それが自分に課せられた使命であり、期待である。
そう信じ込むと、まずは傷を隠しながら、集落へと戻る。
「うっ、流石に堪えるな……」
ディンネルは肩を押さえていた。
倒された時にでも脱臼したらしい。
なんとか嵌め込めたはいいものの、外れたばかりなので、痛みが走った。
「もっと強くならなければ、もっと、もっとだ……」
より一層力に執着してしまう。
そんな自分に気が付いていながらも、止めることができない。
完全に壊れかけてしまっているディンネルは自分の不甲斐なさを痛感する。
「クソッ。クソッ、クソッ!」
胸の奥から怒りと一緒に涙が零れた。
少しでもエルフの森のため、そこに住むエルフ達にできることをしてきた。
けれどそれはつもりでしかなく、ディンネルは悔しかった。
「誰かを頼るなんて真似、私にはできない。そんなことをすれば、私はまた……」
無限に続く、答えの出ない自問自答。
もう何度繰り返したことか、ディンネルは思い出したくもない。
そんな顔色が張り付くと、ふとディンネルの項に、異様な熱を感じた。
「ん!?」
不意に振り返っていた。もちろん、いつでも戦えるように、高速で魔術を詠唱する。
しかしそこには誰も居ない。
吹いているのはただの風で、それが妙に熱く、熱風になっていた。
「熱風? この森では珍しいな」
エルフの森は北に位置している。
故に、南の風が吹く頻度よりも、北の風の吹く頻度の方が、圧倒的に高い。
おまけにここは森の中だ。
これだけはっきりとした風が吹くのは異様なことだろう。
「一体何故、なにか起きて……はっ!?」
ディンネルは思考を巡らせる。
すると、不意に空を見上げてしまった。
そこに映る色。ディンネルは絶句してしまい、只事では無いと焦った。
「空の色が、赤い……だと?」
ディンネルが見たのは、丁度青い空が赤い空へと変化する瞬間。
まるでカーテンコールのようで、青と赤がグラデーションを生む。
しかしおかしいのは確かだ。何故なら今はまだ夕方前、太陽は沈んでおらず、むしろこれから沈み行く。
「なにかがおかしい。なにが起きているんだ」
ディンネルは再び自問自答をした。
もしかしなくても、これがまだ終わっていないことを暗示しているのか。
いや、そうに違いない。こんなことあり得ないのだ。
「ルカの言っていた奴か。当たってしまうとは……」
ディンネルは具体的に何とは言えない。
今だ未知の脅威に、ディンネルは警戒する。
速やかに集落へと戻ろうとするが、その瞬間、急に近くの森の木々に、炎が灯った。
ボワッ!
ボワッ、ボワッ!
「はっ、なんだコレは!?」
あり得ない。あり得ないことが起こっていた。
ディンネルは目を見開き、急な山火事に唖然とする。
あまりにも急すぎて、ディンネルの思考が追い付かない。
「どうなっているんだ。これが敵の魔術……いや、本当にこれは魔術なのか?」
ディンネルは敵の正体を疑い始める。
こんな真似、魔術にはできない筈だ。
そうでなければ一体何なのか? ディンネルは最悪を頭の片隅に置きつつ、一度離れた。
「おい、今すぐ警戒を強化しろ」
ディンネルは早速集落に戻ると、声を張り上げる。
この状況は非常にマズい。
むしろ最悪と言ってよく、肩を押さえながら、ディンネルは必死に伝えた。
しかし、そうも言ってられない状況は、空や森だけではなく、集落にも広がっていた。
「な、なんだこれは……」
ディンネルは言葉を失った。
ようやく戻って来た筈の集落。
そこはまさに火の中にあった。これは一体何が起きているのか。
ディンネルは地獄絵図に絶句する。
「うわぁぁぁぁぁ、火が、火がぁぁぁぁぁ!!」
「クソッ、水だ。水を持ってこい」
「あー、なんで消えねぇんだよ!」
「おい、なんか来たぞ。誰か、誰かいないのか!」
阿鼻叫喚の嵐だった。
エルフの森の集落は、悲鳴ばかりが木霊している。
集落の家々は炎が灯って燃えている。
逃げ惑うエルフの住民達。
必死に兵達が走り回っているが、全く間に合っていない。
「クソッ。集落にまで既に魔の手が伸びていたのか」
ディンネルは苦い表情を浮かべる。
エルフの森だけではない。集落まで炎に支配されている。
ドスンドスンドスン!!
そんな中、背後から迫る影があった。
炎に煽られ、影が更に長く大きく伸びている。
「静かにしろ、《ブラックアッシュ》!」
ディンネルは苛立ちながら、背後に立っていた炎獣を攻撃する。
真っ黒な重力が、炎獣の繰り出された拳を破壊。
バラバラに砕くと、中に埋まっていたリングさえ、砕いてしまった。
「チッ。舐めるなよ。この森も集落も、ただでは落ちないぞ」
ディンネルは決め顔だった。
けれど現状まともに戦えているのはディンネルのみ。
この状況はすぐに持たなくなる。そう感じると、ディンネルは招集することにした。
「ゾーラとセレビュはなにをしているんだ。おまけにルカ達も……今は背に腹は代えられない。少しだけ持ってくれ」
ディンネルはゾーラとセレビュを中心に、ルカ達を呼びに向かう。
それまでこの集落がどれだけ耐えられるのかは正直分からない。
それでも懸けるしかない。ディンネルは炎獣を一人で蹴散らしながら、瑠香たちの下へと向かった。
ディンネルはようやく体が動くようになっていた。
あそこまでボロボロに負けるとは思わなかった。
否、そう思いたかったのだ。しかしルカにはまるで歯が立たず、力の差を植え付けられた。
「だが、私はお前には従わない。私は私のやり方を全うするだけだ」
それでもディンネルにも譲れない面がある。
エルフの森とそこに暮らす人々を守る。
それが自分に課せられた使命であり、期待である。
そう信じ込むと、まずは傷を隠しながら、集落へと戻る。
「うっ、流石に堪えるな……」
ディンネルは肩を押さえていた。
倒された時にでも脱臼したらしい。
なんとか嵌め込めたはいいものの、外れたばかりなので、痛みが走った。
「もっと強くならなければ、もっと、もっとだ……」
より一層力に執着してしまう。
そんな自分に気が付いていながらも、止めることができない。
完全に壊れかけてしまっているディンネルは自分の不甲斐なさを痛感する。
「クソッ。クソッ、クソッ!」
胸の奥から怒りと一緒に涙が零れた。
少しでもエルフの森のため、そこに住むエルフ達にできることをしてきた。
けれどそれはつもりでしかなく、ディンネルは悔しかった。
「誰かを頼るなんて真似、私にはできない。そんなことをすれば、私はまた……」
無限に続く、答えの出ない自問自答。
もう何度繰り返したことか、ディンネルは思い出したくもない。
そんな顔色が張り付くと、ふとディンネルの項に、異様な熱を感じた。
「ん!?」
不意に振り返っていた。もちろん、いつでも戦えるように、高速で魔術を詠唱する。
しかしそこには誰も居ない。
吹いているのはただの風で、それが妙に熱く、熱風になっていた。
「熱風? この森では珍しいな」
エルフの森は北に位置している。
故に、南の風が吹く頻度よりも、北の風の吹く頻度の方が、圧倒的に高い。
おまけにここは森の中だ。
これだけはっきりとした風が吹くのは異様なことだろう。
「一体何故、なにか起きて……はっ!?」
ディンネルは思考を巡らせる。
すると、不意に空を見上げてしまった。
そこに映る色。ディンネルは絶句してしまい、只事では無いと焦った。
「空の色が、赤い……だと?」
ディンネルが見たのは、丁度青い空が赤い空へと変化する瞬間。
まるでカーテンコールのようで、青と赤がグラデーションを生む。
しかしおかしいのは確かだ。何故なら今はまだ夕方前、太陽は沈んでおらず、むしろこれから沈み行く。
「なにかがおかしい。なにが起きているんだ」
ディンネルは再び自問自答をした。
もしかしなくても、これがまだ終わっていないことを暗示しているのか。
いや、そうに違いない。こんなことあり得ないのだ。
「ルカの言っていた奴か。当たってしまうとは……」
ディンネルは具体的に何とは言えない。
今だ未知の脅威に、ディンネルは警戒する。
速やかに集落へと戻ろうとするが、その瞬間、急に近くの森の木々に、炎が灯った。
ボワッ!
ボワッ、ボワッ!
「はっ、なんだコレは!?」
あり得ない。あり得ないことが起こっていた。
ディンネルは目を見開き、急な山火事に唖然とする。
あまりにも急すぎて、ディンネルの思考が追い付かない。
「どうなっているんだ。これが敵の魔術……いや、本当にこれは魔術なのか?」
ディンネルは敵の正体を疑い始める。
こんな真似、魔術にはできない筈だ。
そうでなければ一体何なのか? ディンネルは最悪を頭の片隅に置きつつ、一度離れた。
「おい、今すぐ警戒を強化しろ」
ディンネルは早速集落に戻ると、声を張り上げる。
この状況は非常にマズい。
むしろ最悪と言ってよく、肩を押さえながら、ディンネルは必死に伝えた。
しかし、そうも言ってられない状況は、空や森だけではなく、集落にも広がっていた。
「な、なんだこれは……」
ディンネルは言葉を失った。
ようやく戻って来た筈の集落。
そこはまさに火の中にあった。これは一体何が起きているのか。
ディンネルは地獄絵図に絶句する。
「うわぁぁぁぁぁ、火が、火がぁぁぁぁぁ!!」
「クソッ、水だ。水を持ってこい」
「あー、なんで消えねぇんだよ!」
「おい、なんか来たぞ。誰か、誰かいないのか!」
阿鼻叫喚の嵐だった。
エルフの森の集落は、悲鳴ばかりが木霊している。
集落の家々は炎が灯って燃えている。
逃げ惑うエルフの住民達。
必死に兵達が走り回っているが、全く間に合っていない。
「クソッ。集落にまで既に魔の手が伸びていたのか」
ディンネルは苦い表情を浮かべる。
エルフの森だけではない。集落まで炎に支配されている。
ドスンドスンドスン!!
そんな中、背後から迫る影があった。
炎に煽られ、影が更に長く大きく伸びている。
「静かにしろ、《ブラックアッシュ》!」
ディンネルは苛立ちながら、背後に立っていた炎獣を攻撃する。
真っ黒な重力が、炎獣の繰り出された拳を破壊。
バラバラに砕くと、中に埋まっていたリングさえ、砕いてしまった。
「チッ。舐めるなよ。この森も集落も、ただでは落ちないぞ」
ディンネルは決め顔だった。
けれど現状まともに戦えているのはディンネルのみ。
この状況はすぐに持たなくなる。そう感じると、ディンネルは招集することにした。
「ゾーラとセレビュはなにをしているんだ。おまけにルカ達も……今は背に腹は代えられない。少しだけ持ってくれ」
ディンネルはゾーラとセレビュを中心に、ルカ達を呼びに向かう。
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