1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について

水定ゆう

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炎の悪魔編

579.記憶を覗いてみよう(ディンネル編5)

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 リタリーとディンネルは楽しそうに食事を取った。
 特に楽しそうなのはディンネルで、先導者であるリタリーの傍に居るのだ。
 これ以上の幸福は無く、もう終わってもよかった。

「そう言えばディンネル、貴女に頼みたいことがあります」

 リタリーの言葉に反応し、心の闇が増幅する。
 何を言おうとしているのかは分からないが、少なくともリタリーが引き金トリガーになったことは間違いない。

「はい、リタリー様。なんでしょうか?」
「では、単刀直入に……貴女には、私の下から去っていただきます」
「……え?」

 ディンネルは固まってしまった。言葉を失うとはまさにこのことで、何もしゃべれなくなる。
 もちろんリタリーに至っては普通だ。
 まるで何ら当り障りのない会話に対し、ワインを飲むことで中身に触れないように努める。そんな様子が醸されると、ディンネルは震える唇を動かす。

「どういう意味でしょうか? 話がなにも」
「言葉通りの意味です。貴女には私の下から離れていただきます。無論、なにも無いわけではありません。貴女には、多種多様なエルフ達の暮らす無差別で秩序の無い森を統治していただきい。お願いできますね?」

 なるほど、ここで繋がるのか。ルカは点と点が繋がる。
 リタリーの狙い、それはエルフの森を管理すること。
 ほとんどのエルフ族は族長であるナタリーとリタリーを信仰する。
 けれど一部の流れ者達は独自の文化を発展させていき、やがて価値観の違いでぶつかり合うことになると推測し、前以って手を打つことにした。それが、優秀なエルフであり、通常のエルフとも高貴なハイエルフとも違う、新しい長の誕生、ダークエルフ・ディンネルの擁立だった。

「……それに尽きましてや、謹んでお受けさせていただきます。ですが、その任が終われば」
「いえ、貴女には私の親衛隊を辞めていただきます」
「……え?」

 またしてもディンネルはフリーズしてしまう。リタリーの言葉の過激さに付いて行けない。
 完全に心を粉々にしていく構えで、ルカは見るに堪えない。
 けれどこれがリタリーの取った行動。つまり、全てを察した上での言葉選択だろう。

(なにを考えているんだ、リタリーは。……でも、やっぱり)

 もちろんルカには分かっていた。
 リタリーがディンネルを突き話す理由。
 それこそが森長になった答えそのものだからだ。

「どうしてですか、リタリー様。私はリタリー様に与えられたことであれば、命を賭してでも遂行します。ですが、どうして私を切り捨てるのですか」
「切り捨てているのではありません。貴女には、貴女だけの居場所を、自らの手で掴み取って欲しいのです」
「私の居場所? それはリタリー様の下です。それ以上は何も要りません、求めません。ですので」
「ディンネル……いいですね」

 ディンネルは猛反発した。全力でリタリーのために尽くしてきたからだ。
 自分自身に、孤独だった少女に手を差し伸べ居場所を与えた。
 必死でしがみついてきた席だったにもかかわらず、手を差し伸べた本人から突き話される感覚。どれだけ苦しかっただろうか、どれだけ辛かっただろうか。闇が徐々に増していき、記憶を思い出を黒く浸食していく。

(なるほど、全てはここに帰着する訳か)

 ルカは口を覆ってしまった。
 ここまでの経緯で分かるのは、ディンネルにとって一番大切なもの。
 それは“居場所”。それに固執している。結果的に災いし、ディンネルは染まった。黒く、禍々しい闇に。考えただけでもリタリーが元凶になったのだが、それでもリタリーなりの考えもそこにあった。

「……分かりました」
「分かってくれましたか……ディンネル?」

 ディンネルはスッと席を立った。
 表情に陰りがあり、表情は読めない。
 けれど全身から溢れ出る闇の魔力に、ルカは嫌な感じがした。

「闇が増幅していますよ。大丈夫ですか?」
「……はい。いや、分かった」

 ディンネルの口調が変わった。
 棘のある言葉がディンネルの口から小言として吐き出される。

「隊長として威厳を持ったのは聞いていますが、雰囲気まで変わってしまったんですか」
「リタリー様。私の居場所は、もうここに無い」
「ディンネル?」

 ディンネルは振り返って扉の方に向かった。
 一切リタリーに顔を合わせる気が無かった。

「リタリー様。私は、役目を果たしてみせる」
「役目? 確かに森長は大儀な役割ですが……」
「でも、これだけは覚えておいてくれ。私は、リタリー様の頼みを聞くだけだ。それ以上に、深入りする気は無い」

 ディンネルが一瞬見せた目がもの凄く怖かった。
 鋭いナイフのように尖っている。
 もはやリタリーに向ける顔は無い。どよめいた黒い靄が溢れ出すと、記憶が淀んだ。

(そろそろ記憶の旅もお終いかな)

 闇がドンドン広がっている。この記憶も、直に飲み込まれてしまうのだろう。
 ルカはソッと目を閉じた。ここまでで欲しい情報は全て揃った。
 後は組み立てて、本人に気が付いて貰うだけ。そう思うと、ルカの精神は記憶の中から浮上した。
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