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炎の悪魔編
587.答えを知るのは当事者だけ
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「ヴィスピナ・ロアンズ……か」
「なにか知っているのか!」
ルカは旨に語り掛け、記憶の海から引き上げる。
不意に呟いたのは元凶であり、闇へと堕ちた魔術師。
ヴィスピナ・ロアンズは、如何して魔法使いになろうとしたのか。
明らかに何者かの介入がありそうだが、ディンネルの期待に応えられそうな情報は無い。
「なんでもいい、知っているなら教えてくれ」
「悪いけど、それは無理だよ」
「何故だ。まさか買収されているのか!」
「そんな訳ないよ。私だって知らないことはある」
「くっ、そうか……」
残念ながら、期待されても困るものは困る。
そもそも、そんな過去の話をされてルカが何か知っていると思ったのだろうか?
ルカはディンネルが切羽詰まっている精神状況を心配するが、過去のディンネルとは違う。フッと一息ついて心の平穏を整えると、天秤の傾きが無くなった。
「だったら、なにか思う所はないか?」
「思う所って、そんなこと言われても……あっ!」
「なんだ、なにか気が付いたのか」
ディンネルはルカの服の襟を掴む。
両手でギュッと逃がさないように引き寄せると、目の奥が血走っている。
詰め寄られても困る。ルカは期待を潰すと、ディンネルから強引に離れた。
「(バサッ!)そんなに詰められても困るよ。そうだね、私が気が付いたというよりは、単純に経験則かな?」
「経験則だと?」
「ヴィスピナがどんな魔術師なのかは知らない。少なくとも、先天的な魔法使いの才能があった訳じゃないんだろ?」
「それは知らないが、魔法使いなんて御伽噺じゃないのか?」
「はぁ。リタリーがそれを聞いたら泣くよ」
ルカは額に手を当て、つい溜息を付きそうになった。
けれどディンネルは魔法を使えない。
《ブラックアッシュ》は魔法ではあるものの、根本的には魔法使いではなく魔術師は変らない。だからこそ、相容れないものがあったのだろう。
「恐らく、闇の魔法使いが介入したんだ」
「闇の魔法使い、だと?」
「そうだよ。まあ、よくある話だよね」
「よくある話じゃないだろ! そもそも今だって……」
「いないと思ってるの?」
「……」
ディンネルは口を閉ざした。噤んだ唇が震え出す。
確かに御伽噺を通り越した、もはや噂話でもない。
闇の魔術師なら魔術師社会には広く知られているのだが、闇の魔法使いは違う。
存在すら認知されておらず、今では居ない者扱いされていた。
「可愛そうに」
「可哀そうだと。お前は一体誰の肩を持つんだ!」
「誰の肩なんて持たないよ。私は思ったことを言っただけ。少なくとも、闇の魔法使いの中には、まだマシな人はいるからね」
ルカは闇の魔法使いにも寛容だった。
もちろん、許せない魔法使いは居る。けれどあくまで生理的な問題だ。
魔術師も魔法使いも原点は同じ。探究への欲求だ。
「当時、変な人が集落にやって来なかった?」
「……覚えはないが」
「覚えてないなら仕方が無いね。でも、ヴィスピナはなんらかの経緯から闇の魔法使いに出会ってしまった。その結果、自らの力を証明しようとして、闇の魔法使いへ末端に触れてしまった。その性でおかしくなっちゃったんだろうね」
ルカの見解はそれ以上でも以下でも無かった。
実際、氷の露結晶を調べれば何か分かりそうだ。
とは言え、ルカがそこまでのことをする必要は無い。魔術師の中でも、ルカは研究者では無い。後のことは専門家に任せるとして、ルカはパチンと手を叩いた。
「はい、お終い」
「お終いにするな。クソッ、結局分からず仕舞いか」
「分からず仕舞いって、ディンネルにはなにがしたの?」
そもそもの論点はそこだ。ディンネルにとって、どの過去が大事なのかさっぱり分からない。
結局の所、怒ってしまった事実は変らない。変えられるのはこれから先の未来だけだ。
「ディンネル、いつまでもヴィスピナのことを悩んでも仕方が無いよ」
「それはそうだが、私にとっては復讐の相手だ」
「復讐ね。それじゃあ、ヴィスピナって魔術師を殺せばいい。同族殺しになれば、また一層強くなる」
「それは……できない」
ディンネルは一瞬間を置いた。何を躊躇っているのか分からない。
とは言え、ヴィスピナはもういない筈だ。
ディンネルの記憶を読んだ所、復讐する相手が居ないのであれば、この怒りを発することはできない。
「ヴィスピナがもういないから?」
「それもあるが、私は森長だ。この森を守る者として、そのような手本を見せる訳にはいかない」
ディンネルの口から思いがけない言葉が出た。
これは成長と言うべきだろうか。黎明から続く呪縛から外れている。
魔法使いへの王道ルートから逸れ、立場を弁えた行動を取る。
ルカは自然と拍手を送ると、ディンネルに険しい顔をされた。
「なんだ、バカにしているのか」
「いいや、いいと思うよ」
「なにがいいんだ。まぁそんなくだらないことはいいが」
「くだらないんだね」
「しつこいぞ。とにかくお前も知らないんだな、ヴィスピナの冷波を」
「そうだね。結局の所、答えを知っているのは当事者だけだから」
過去も未来も関係ない。
事実を知るのは当事者のみで、それをいくら予知しようが、調べようが真実には辿り着けない。
捏造された歴史なんて山程あるので、ルカ達のできることは過去を知って、今に繋がるように解釈するだけだった。
「なにか知っているのか!」
ルカは旨に語り掛け、記憶の海から引き上げる。
不意に呟いたのは元凶であり、闇へと堕ちた魔術師。
ヴィスピナ・ロアンズは、如何して魔法使いになろうとしたのか。
明らかに何者かの介入がありそうだが、ディンネルの期待に応えられそうな情報は無い。
「なんでもいい、知っているなら教えてくれ」
「悪いけど、それは無理だよ」
「何故だ。まさか買収されているのか!」
「そんな訳ないよ。私だって知らないことはある」
「くっ、そうか……」
残念ながら、期待されても困るものは困る。
そもそも、そんな過去の話をされてルカが何か知っていると思ったのだろうか?
ルカはディンネルが切羽詰まっている精神状況を心配するが、過去のディンネルとは違う。フッと一息ついて心の平穏を整えると、天秤の傾きが無くなった。
「だったら、なにか思う所はないか?」
「思う所って、そんなこと言われても……あっ!」
「なんだ、なにか気が付いたのか」
ディンネルはルカの服の襟を掴む。
両手でギュッと逃がさないように引き寄せると、目の奥が血走っている。
詰め寄られても困る。ルカは期待を潰すと、ディンネルから強引に離れた。
「(バサッ!)そんなに詰められても困るよ。そうだね、私が気が付いたというよりは、単純に経験則かな?」
「経験則だと?」
「ヴィスピナがどんな魔術師なのかは知らない。少なくとも、先天的な魔法使いの才能があった訳じゃないんだろ?」
「それは知らないが、魔法使いなんて御伽噺じゃないのか?」
「はぁ。リタリーがそれを聞いたら泣くよ」
ルカは額に手を当て、つい溜息を付きそうになった。
けれどディンネルは魔法を使えない。
《ブラックアッシュ》は魔法ではあるものの、根本的には魔法使いではなく魔術師は変らない。だからこそ、相容れないものがあったのだろう。
「恐らく、闇の魔法使いが介入したんだ」
「闇の魔法使い、だと?」
「そうだよ。まあ、よくある話だよね」
「よくある話じゃないだろ! そもそも今だって……」
「いないと思ってるの?」
「……」
ディンネルは口を閉ざした。噤んだ唇が震え出す。
確かに御伽噺を通り越した、もはや噂話でもない。
闇の魔術師なら魔術師社会には広く知られているのだが、闇の魔法使いは違う。
存在すら認知されておらず、今では居ない者扱いされていた。
「可愛そうに」
「可哀そうだと。お前は一体誰の肩を持つんだ!」
「誰の肩なんて持たないよ。私は思ったことを言っただけ。少なくとも、闇の魔法使いの中には、まだマシな人はいるからね」
ルカは闇の魔法使いにも寛容だった。
もちろん、許せない魔法使いは居る。けれどあくまで生理的な問題だ。
魔術師も魔法使いも原点は同じ。探究への欲求だ。
「当時、変な人が集落にやって来なかった?」
「……覚えはないが」
「覚えてないなら仕方が無いね。でも、ヴィスピナはなんらかの経緯から闇の魔法使いに出会ってしまった。その結果、自らの力を証明しようとして、闇の魔法使いへ末端に触れてしまった。その性でおかしくなっちゃったんだろうね」
ルカの見解はそれ以上でも以下でも無かった。
実際、氷の露結晶を調べれば何か分かりそうだ。
とは言え、ルカがそこまでのことをする必要は無い。魔術師の中でも、ルカは研究者では無い。後のことは専門家に任せるとして、ルカはパチンと手を叩いた。
「はい、お終い」
「お終いにするな。クソッ、結局分からず仕舞いか」
「分からず仕舞いって、ディンネルにはなにがしたの?」
そもそもの論点はそこだ。ディンネルにとって、どの過去が大事なのかさっぱり分からない。
結局の所、怒ってしまった事実は変らない。変えられるのはこれから先の未来だけだ。
「ディンネル、いつまでもヴィスピナのことを悩んでも仕方が無いよ」
「それはそうだが、私にとっては復讐の相手だ」
「復讐ね。それじゃあ、ヴィスピナって魔術師を殺せばいい。同族殺しになれば、また一層強くなる」
「それは……できない」
ディンネルは一瞬間を置いた。何を躊躇っているのか分からない。
とは言え、ヴィスピナはもういない筈だ。
ディンネルの記憶を読んだ所、復讐する相手が居ないのであれば、この怒りを発することはできない。
「ヴィスピナがもういないから?」
「それもあるが、私は森長だ。この森を守る者として、そのような手本を見せる訳にはいかない」
ディンネルの口から思いがけない言葉が出た。
これは成長と言うべきだろうか。黎明から続く呪縛から外れている。
魔法使いへの王道ルートから逸れ、立場を弁えた行動を取る。
ルカは自然と拍手を送ると、ディンネルに険しい顔をされた。
「なんだ、バカにしているのか」
「いいや、いいと思うよ」
「なにがいいんだ。まぁそんなくだらないことはいいが」
「くだらないんだね」
「しつこいぞ。とにかくお前も知らないんだな、ヴィスピナの冷波を」
「そうだね。結局の所、答えを知っているのは当事者だけだから」
過去も未来も関係ない。
事実を知るのは当事者のみで、それをいくら予知しようが、調べようが真実には辿り着けない。
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