1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について

水定ゆう

文字の大きさ
628 / 733
波状編

624.ナナミの皿洗い

しおりを挟む
 マギアラの街には幾つもの飲食店が立ち並んでいる。
 その中でも夜になると頻りにたくさんの客が流れ込む人気店があった。
 そこは店主であるマーサーの作る家庭料理が魅力的で、週に一度の休みの日以外は連日賑わいを見せており、マーサーもウエイトレスもひっきりなしだった。

「お客さん、ご注文はお決まりですか?」
「チャジャミ包みが一つとケチャッチャ炒めを一つ」
「チャジャミ・ケチャッチャ一つだね。マーサーさん、チャジャミ&ケッチャチャ一つ!」
「あいよー」

 店内を誰よりもハキハキと駆け回る少女が居た。
 店に下宿させてもらっているあるカード魔術学校生徒会長のナナミだ。
 学校の制服から店の制服に着替えると、明るく振る舞い店内をサポートしていた。

「マーサーさん、料理はできてますか? 向こうのテーブル、それそろ十五分くらい経つから」
「あいよ。もう直できるからね」

 店の厨房にはマーサーが一人で立っていた。
 飛び切り美味しい家庭料理を作れるのはマーサーしかいない。
 だから厨房に立てるのは一人だけで、接客はマーサーが料理を作るまで停滞の時間を過ごす。

「あっ、そうだナナミ。皿洗っておいて」
「分かりました。って、洗い場が埋まってる……」

 今日はいつも以上に客足が多い。そのせいか皿の数がまるで足りない。
 ナナミを含めた四人の接客ウエイトレスは全員目まぐるしい。
 注文を聞いて、料理を運ぶ。後は飲み食いをしてヒートアップした客を鎮める。
 もうてんやわんやで、皿を洗っている時間が無いのか、そのまま浸けっ放しになっていた。

「ナナミ、寒いけどさ、悪いけど外で洗ってきておくれ」
「外ってことは、裏ですよね。分かりました、すぐに戻ります!」

 ナナミは大量の皿を籠に移した。
 かなりの重量感になったが、ナナミは気にせずに全て運び出す。
 一時的に洗い場が軽くなると、ナナミはまだ肌寒い外に出た。

「ううっ、夜は春前でも冷えるよ」

 ナナミはまだ肌寒い夜空の下、店の裏にある井戸に向かった。
 昔掘られたもので、今でも綺麗な地下水が湧く。
 とは言え普段使いはされておらず、こうして使うのは久々だ。

「緊急事態だよね。急ごう!」

 早く皿を洗っても戻らないと色々間に合わない。
 ナナミはそう悟ると、早速井戸から水を汲み、皿を洗い始める。
 手慣れた様子で洗剤を使って皿を一枚一枚、丁寧に洗って行く。

「はいはいそれそれドンドンドーン!」

 本当に丁寧なのか? と傍から見れば疑ってしまうレベルだ。
 実は汚れがまるで落ちていないのでは? そう思っても不思議はない。
 けれどナナミは一枚ずつピンポイントで汚れを落とすと、用意していたバケツの中に浸けていく。皿が水の浮力で浮いて来ると、水に洗剤が溶け込まない。

「とりあえずこれだけ浸ければ……《渦潮》」

 ナナミは得意中の得意の魔術を発動した。
 完全無詠唱で頭の中でイメージすると魔力が放出。
 バケツの中の水がグルグルと回り始め、洗剤と一緒に汚れを洗い落とす。

「コレが一番早いんだよね」

 ナナミの魔術は本来は海水を操ることに特化している。
 けれど応用編も応用編なので、こうして水であれば大抵のものには干渉ができる。
 変幻自在に形を変える水にナナミは心惹かれていた。

「代表か……しかも本気で……バカみたいだよ」

 ナナミはついボヤいてしまった。それもそうだ。普段から毒を吐かないようにしてきたので、一人でいる時くらいは言いたいことも言える。
 バケツの水面は洗剤で泡が立っている。そのせいで写し鏡にはなってくれない。
 モコモコな泡をジッと眺め、ナナミは呟く。

「本気でやっても意味が無いのにね。どうしてあんなに熱くなれるんだろう?」

 今回、在校生代表で卒業式の日に決闘をすることになった。
 けれど本心ではない。正直代わって欲しくはある。
 特に今回の場合、相手がブリッツだ。“本気”を強要して来たので、面倒に感じる。

「本気でやったらブリッツ先輩……ああ、ダメダメ。勝手な妄想で勝ちを確信したら、当日ボロが出る。私はいつも通り、いつも通り、嫌われない生徒会長を……って、最近は疲れすぎてボロが出てるんだけどね。あはは……はぁ」

 ナナミは大きな溜息を付いてしまった。
 けれど誰にも見られてはいない。こんな姿を知っているのは夜空の星とナナミ本人だけ。
 バケツの中の水を下水に流すと、ナナミは自問自答する。

「本気でやったらダメだよね。だってさ……うん、そうだよね。分かってる。私は、ニイジマ・ナナミ。アルカード魔術学校四年一組生徒会長。それ以上でもそれ以下でもない。渡しは期待だけ寄せられる、みんなの生徒会長。それが今の私だもんね」

 言い聞かせるような言葉を自分にだけ発し続ける。
 気色の悪い行動にナナミの目の色が変わり、眉間に皺が寄った。
 自傷行為か。言い聞かせたと頬を叩き、「よし」と声を上げる。

「さてとお皿も全部洗ったから、急いで戻らないと」

 ナナミはみんなの生徒会長を演じた。
 頼りがいがあって、でもちょっと抜けている、優しくて面白い生徒会長。
 そこに強さは不要で、笑顔を武器に籠を持って店に戻った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

昭和生まれお局様は、異世界転生いたしましたとさ

蒼あかり
ファンタジー
局田舞子(つぼたまいこ)43歳、独身。 とある事故をきっかけに、彼女は異世界へと転生することになった。 どうしてこんなことになったのか、訳もわからぬままに彼女は異世界に一人放り込まれ、辛い日々を過ごしながら苦悩する毎日......。 など送ることもなく、なんとなく順応しながら、それなりの日々を送って行くのでありました。 そんな彼女の異世界生活と、ほんの少しのラブロマンスっぽい何かを織り交ぜながらすすむ、そんな彼女の生活を覗いてみませんか? 毎日投稿はできないと思います。気長に更新をお待ちください。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

処理中です...