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波状編
624.ナナミの皿洗い
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マギアラの街には幾つもの飲食店が立ち並んでいる。
その中でも夜になると頻りにたくさんの客が流れ込む人気店があった。
そこは店主であるマーサーの作る家庭料理が魅力的で、週に一度の休みの日以外は連日賑わいを見せており、マーサーもウエイトレスもひっきりなしだった。
「お客さん、ご注文はお決まりですか?」
「チャジャミ包みが一つとケチャッチャ炒めを一つ」
「チャジャミ・ケチャッチャ一つだね。マーサーさん、チャジャミ&ケッチャチャ一つ!」
「あいよー」
店内を誰よりもハキハキと駆け回る少女が居た。
店に下宿させてもらっているあるカード魔術学校生徒会長のナナミだ。
学校の制服から店の制服に着替えると、明るく振る舞い店内をサポートしていた。
「マーサーさん、料理はできてますか? 向こうのテーブル、それそろ十五分くらい経つから」
「あいよ。もう直できるからね」
店の厨房にはマーサーが一人で立っていた。
飛び切り美味しい家庭料理を作れるのはマーサーしかいない。
だから厨房に立てるのは一人だけで、接客はマーサーが料理を作るまで停滞の時間を過ごす。
「あっ、そうだナナミ。皿洗っておいて」
「分かりました。って、洗い場が埋まってる……」
今日はいつも以上に客足が多い。そのせいか皿の数がまるで足りない。
ナナミを含めた四人の接客ウエイトレスは全員目まぐるしい。
注文を聞いて、料理を運ぶ。後は飲み食いをしてヒートアップした客を鎮める。
もうてんやわんやで、皿を洗っている時間が無いのか、そのまま浸けっ放しになっていた。
「ナナミ、寒いけどさ、悪いけど外で洗ってきておくれ」
「外ってことは、裏ですよね。分かりました、すぐに戻ります!」
ナナミは大量の皿を籠に移した。
かなりの重量感になったが、ナナミは気にせずに全て運び出す。
一時的に洗い場が軽くなると、ナナミはまだ肌寒い外に出た。
「ううっ、夜は春前でも冷えるよ」
ナナミはまだ肌寒い夜空の下、店の裏にある井戸に向かった。
昔掘られたもので、今でも綺麗な地下水が湧く。
とは言え普段使いはされておらず、こうして使うのは久々だ。
「緊急事態だよね。急ごう!」
早く皿を洗っても戻らないと色々間に合わない。
ナナミはそう悟ると、早速井戸から水を汲み、皿を洗い始める。
手慣れた様子で洗剤を使って皿を一枚一枚、丁寧に洗って行く。
「はいはいそれそれドンドンドーン!」
本当に丁寧なのか? と傍から見れば疑ってしまうレベルだ。
実は汚れがまるで落ちていないのでは? そう思っても不思議はない。
けれどナナミは一枚ずつピンポイントで汚れを落とすと、用意していたバケツの中に浸けていく。皿が水の浮力で浮いて来ると、水に洗剤が溶け込まない。
「とりあえずこれだけ浸ければ……《渦潮》」
ナナミは得意中の得意の魔術を発動した。
完全無詠唱で頭の中でイメージすると魔力が放出。
バケツの中の水がグルグルと回り始め、洗剤と一緒に汚れを洗い落とす。
「コレが一番早いんだよね」
ナナミの魔術は本来は海水を操ることに特化している。
けれど応用編も応用編なので、こうして水であれば大抵のものには干渉ができる。
変幻自在に形を変える水にナナミは心惹かれていた。
「代表か……しかも本気で……バカみたいだよ」
ナナミはついボヤいてしまった。それもそうだ。普段から毒を吐かないようにしてきたので、一人でいる時くらいは言いたいことも言える。
バケツの水面は洗剤で泡が立っている。そのせいで写し鏡にはなってくれない。
モコモコな泡をジッと眺め、ナナミは呟く。
「本気でやっても意味が無いのにね。どうしてあんなに熱くなれるんだろう?」
今回、在校生代表で卒業式の日に決闘をすることになった。
けれど本心ではない。正直代わって欲しくはある。
特に今回の場合、相手がブリッツだ。“本気”を強要して来たので、面倒に感じる。
「本気でやったらブリッツ先輩……ああ、ダメダメ。勝手な妄想で勝ちを確信したら、当日ボロが出る。私はいつも通り、いつも通り、嫌われない生徒会長を……って、最近は疲れすぎてボロが出てるんだけどね。あはは……はぁ」
ナナミは大きな溜息を付いてしまった。
けれど誰にも見られてはいない。こんな姿を知っているのは夜空の星とナナミ本人だけ。
バケツの中の水を下水に流すと、ナナミは自問自答する。
「本気でやったらダメだよね。だってさ……うん、そうだよね。分かってる。私は、ニイジマ・ナナミ。アルカード魔術学校四年一組生徒会長。それ以上でもそれ以下でもない。渡しは期待だけ寄せられる、みんなの生徒会長。それが今の私だもんね」
言い聞かせるような言葉を自分にだけ発し続ける。
気色の悪い行動にナナミの目の色が変わり、眉間に皺が寄った。
自傷行為か。言い聞かせたと頬を叩き、「よし」と声を上げる。
「さてとお皿も全部洗ったから、急いで戻らないと」
ナナミはみんなの生徒会長を演じた。
頼りがいがあって、でもちょっと抜けている、優しくて面白い生徒会長。
そこに強さは不要で、笑顔を武器に籠を持って店に戻った。
その中でも夜になると頻りにたくさんの客が流れ込む人気店があった。
そこは店主であるマーサーの作る家庭料理が魅力的で、週に一度の休みの日以外は連日賑わいを見せており、マーサーもウエイトレスもひっきりなしだった。
「お客さん、ご注文はお決まりですか?」
「チャジャミ包みが一つとケチャッチャ炒めを一つ」
「チャジャミ・ケチャッチャ一つだね。マーサーさん、チャジャミ&ケッチャチャ一つ!」
「あいよー」
店内を誰よりもハキハキと駆け回る少女が居た。
店に下宿させてもらっているあるカード魔術学校生徒会長のナナミだ。
学校の制服から店の制服に着替えると、明るく振る舞い店内をサポートしていた。
「マーサーさん、料理はできてますか? 向こうのテーブル、それそろ十五分くらい経つから」
「あいよ。もう直できるからね」
店の厨房にはマーサーが一人で立っていた。
飛び切り美味しい家庭料理を作れるのはマーサーしかいない。
だから厨房に立てるのは一人だけで、接客はマーサーが料理を作るまで停滞の時間を過ごす。
「あっ、そうだナナミ。皿洗っておいて」
「分かりました。って、洗い場が埋まってる……」
今日はいつも以上に客足が多い。そのせいか皿の数がまるで足りない。
ナナミを含めた四人の接客ウエイトレスは全員目まぐるしい。
注文を聞いて、料理を運ぶ。後は飲み食いをしてヒートアップした客を鎮める。
もうてんやわんやで、皿を洗っている時間が無いのか、そのまま浸けっ放しになっていた。
「ナナミ、寒いけどさ、悪いけど外で洗ってきておくれ」
「外ってことは、裏ですよね。分かりました、すぐに戻ります!」
ナナミは大量の皿を籠に移した。
かなりの重量感になったが、ナナミは気にせずに全て運び出す。
一時的に洗い場が軽くなると、ナナミはまだ肌寒い外に出た。
「ううっ、夜は春前でも冷えるよ」
ナナミはまだ肌寒い夜空の下、店の裏にある井戸に向かった。
昔掘られたもので、今でも綺麗な地下水が湧く。
とは言え普段使いはされておらず、こうして使うのは久々だ。
「緊急事態だよね。急ごう!」
早く皿を洗っても戻らないと色々間に合わない。
ナナミはそう悟ると、早速井戸から水を汲み、皿を洗い始める。
手慣れた様子で洗剤を使って皿を一枚一枚、丁寧に洗って行く。
「はいはいそれそれドンドンドーン!」
本当に丁寧なのか? と傍から見れば疑ってしまうレベルだ。
実は汚れがまるで落ちていないのでは? そう思っても不思議はない。
けれどナナミは一枚ずつピンポイントで汚れを落とすと、用意していたバケツの中に浸けていく。皿が水の浮力で浮いて来ると、水に洗剤が溶け込まない。
「とりあえずこれだけ浸ければ……《渦潮》」
ナナミは得意中の得意の魔術を発動した。
完全無詠唱で頭の中でイメージすると魔力が放出。
バケツの中の水がグルグルと回り始め、洗剤と一緒に汚れを洗い落とす。
「コレが一番早いんだよね」
ナナミの魔術は本来は海水を操ることに特化している。
けれど応用編も応用編なので、こうして水であれば大抵のものには干渉ができる。
変幻自在に形を変える水にナナミは心惹かれていた。
「代表か……しかも本気で……バカみたいだよ」
ナナミはついボヤいてしまった。それもそうだ。普段から毒を吐かないようにしてきたので、一人でいる時くらいは言いたいことも言える。
バケツの水面は洗剤で泡が立っている。そのせいで写し鏡にはなってくれない。
モコモコな泡をジッと眺め、ナナミは呟く。
「本気でやっても意味が無いのにね。どうしてあんなに熱くなれるんだろう?」
今回、在校生代表で卒業式の日に決闘をすることになった。
けれど本心ではない。正直代わって欲しくはある。
特に今回の場合、相手がブリッツだ。“本気”を強要して来たので、面倒に感じる。
「本気でやったらブリッツ先輩……ああ、ダメダメ。勝手な妄想で勝ちを確信したら、当日ボロが出る。私はいつも通り、いつも通り、嫌われない生徒会長を……って、最近は疲れすぎてボロが出てるんだけどね。あはは……はぁ」
ナナミは大きな溜息を付いてしまった。
けれど誰にも見られてはいない。こんな姿を知っているのは夜空の星とナナミ本人だけ。
バケツの中の水を下水に流すと、ナナミは自問自答する。
「本気でやったらダメだよね。だってさ……うん、そうだよね。分かってる。私は、ニイジマ・ナナミ。アルカード魔術学校四年一組生徒会長。それ以上でもそれ以下でもない。渡しは期待だけ寄せられる、みんなの生徒会長。それが今の私だもんね」
言い聞かせるような言葉を自分にだけ発し続ける。
気色の悪い行動にナナミの目の色が変わり、眉間に皺が寄った。
自傷行為か。言い聞かせたと頬を叩き、「よし」と声を上げる。
「さてとお皿も全部洗ったから、急いで戻らないと」
ナナミはみんなの生徒会長を演じた。
頼りがいがあって、でもちょっと抜けている、優しくて面白い生徒会長。
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