失踪14年 美月の帰還

軽部雄二

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第127章

2つのジャガイモ

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 早紀江は娘からどぎつい一言を浴び、ショックを受けた様子だ。意見の相違はあれど、これはさすがに言い過ぎだと真夏は思った。早紀江は涙を浮かべて、美月の頬を叩く。だが今度ははっしとその腕を叩く前に捕まれた。
「なにするの、お母さん。暴力に訴えるって事は的を突いた事を言われたからでしょ。」
「・・・・・美月ちゃんは自分さえ良ければ・・・本当に良いの?」
「そうよ。自分と自分の家族さえ無事なら私は良いの。他人や他人の家族がどうなろうと関係ない。それが北朝鮮流の生き方よ。」
「・・・・・・・。」
「例えばジャガイモが2つあったとする。家族は2人だとすると、何とか今日の分の食事は確保できる。友人が分けて欲しいって言って来たらお母さんはどうする?自分の家族を犠牲にして友人を助けるの?」
「・・・・・・・。」
「私は助けないわ。自分の家族だけで精一杯。無理でしょ。」
 早紀江も真夏も押し黙った。北では大飢饉で数十万人の餓死者が出たと聞いていた。そこで14年間も生きてきた美月にとっては、他人の事を慮る様な事は馬鹿げた事に思えるのだろうか?
「・・・・・美月ちゃん、苦労して来たのね。可哀そうに。」
「・・・・・・・。」
 早紀江が今までの苦労を労わると、美月は掴んでいた早紀江の右手を振り払って、2階の自分の部屋に戻っていった。


「早紀江さん。きっと美月さんは北で厳しい生活を送って来たんです。だから、自分が生き残る事だけが重要で、人の事を顧みる余裕がなかった。それで、あのような考えを持つようになったんです。美月さんが悪い訳では無い。北の社会の殺伐さが美月さんを蝕んだんです。ある意味被害者ですよ。」
 真夏はぼ美月の考え方には同調は出来ないが、ある意味の同情は示した。
「・・・・・。あんな事を言う子では無かったのに・・・・。」
 涙を見せる早紀江に真夏はバッグに入っていたハンカチを渡す。滋が口を開いた。
「北で生き残るにはああゆう考え方をする他無かったんだ。日本で穏やかに暮らしていれば、きっと考え方も変わってくる。時間を掛けるべきだ。」
「そうですよ。美月さんはトラウマを抱えているんです。時間を掛けてトラウマを少しづつ解してあげましょう。本当は優しい方です。きっとご両親の考えが正しい事だと気付く筈です。」
「・・・・。そうかしら?」
「勿論。日本で暫く暮らせば北と違って、人の人権を尊重する国だと分かります。そうすれば北に帰りたいとも言わなくなります。遥かに暮らしやすい恵まれた国ですもの。」
 真夏の話には説得力がある。話を聞いていると、不安がみるみる軽くなっていく。
「そうね。きっとそうなるわ。」
 早紀江は笑顔を見せた。警察が来た時もどうなるかと思ったが、真夏がいてくれて本当に良かった。今は本当の娘の様に思えてならない。美月が拉致されなければ、真夏に出会う事も無かった。人生は瓢箪の如し。狭い所があったり、広い所があったり、良い事もあった訳だ。
「嫌だ。もうこんな時間だわ。私はこの辺で失礼します。」
 真夏は腰を上げた。
「真夏さんはいつ東京に帰るの?」
 早紀江が今後の予定を尋ねる。
「もう少しこちらに残ろうかなと。警察が何か言ってくるかもしれませんので・・・・。」
「助かるわ。本当に有難う。」
「警察が何か言って来たら、連絡下さい。」
 真夏は滋と早紀江に見送られながら、山下家を後にした。
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