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20.首の皮

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 馬車が停まったので鑑定の儀が行われる場所に着いたのだろう。

 しかし、

《まさかとは思っていたが、ここに来るまで一言も喋らないとは………》

 馬車の中では親達もギングズも見事に無言で、これがホントに家族なのかと言いたくなる光景だった。

〉さすが仮面家族
〉相変わらずの異常ぶり
〉この家族にとってはこれが普通
〉慣れてしまえば異常も普通になるってわけか

《慣れたくはないけどな》

 とはいえ、この親達と仲良くしたいかと言われるとそうではないので、慣れたくはないけど割り切る必要はありそうだ。

 なんて思っている間に親とギングズが馬車から降りた。
 降りた先にあった建物は教会だ。

〉うん。わかってた
〉鑑定の儀とかの儀式系をする場所はやっぱり教会だよな
〉テッパンだな
〉面白味がない
〉辛辣www
〉俺達を楽しませるための儀式じゃねーよwww

《ホントにリスナー達を楽しませるための儀式じゃないからな》

 しかし、なんとなく気になったのでとりあえず聞いてみる。

《だったらどこならよかったんだよ》

〉SM俱楽部?
〉SM俱楽部ってwww
〉そこで鑑定できるのは性癖だけだからwww
〉あなたはMね。あなたはドSね
〉変態認定されに行ってるwww
〉最悪の鑑定場所だ!

《最悪すぎて逃げ出すわ!》

 いきなりそんなハードな答えが出てくるとは思ってもいなかったので思いっきりツッコむ。

〉なら………

《答えなくていい!》

 これ以上聞いたところでマトモな答えが返ってくることはないだろう。ってか、こんな質問をした俺がバカだったのだろう。

〉ってか、レインって絶対Sだよな
〉Sでしょうね
〉ドSだろうな
〉ドS以外のなんでもないだろうな!
〉真正のドSだな
〉誰がどう見てもドSでしょうね

《誰がドSだ》

 バケモノといいドSといい、なんでそんな不名誉なことを言われないといけないんだろうか。

〉だって俺達への対応がな
〉いつも辛くあたられてるし
〉辛辣な言葉をかけられまくってるし
〉どこからどうみてもドSだろう
〉これでもまだドSじゃないと言うのか!

《言うわ!
 もとをたどればお前達が俺を煽ったり皮肉ったりした結果だろうから自業自得だろうが!》

 なのにそれを人のせいにするなんて、なんてリスナー達だ。

〉頑なに認めようとしないレインwww
〉どこからどうみてもドSなのにwww
〉なんてヤロウだwww

 どっちがだよ!と言ってやりたかったが、これ以上この話を続けたところで俺がムダに疲れる上にさらに不名誉なことを言われそうなので、

《うるせー!ってか、鑑定の儀が始まるぞ!》

 あからさまに話を反らしてやる。

 しかし、リスナー達も鑑定の儀には興味津々なので、コメントが止まった。

 親や神父、神官達、さらには俺やリスナー達が見守る中、ギングズは女神像の前で片膝をついて祈り始めた。
 すると、女神像が光り、一枚のカードが現れた。

〉これが鑑定の儀か
〉あのカードにHPやMPやスキルとかが載っていると
〉その結果次第で今後の運命が変わるわけか
〉ギングズは自信満々にMP250以上あるだろうとかメイドに対して言っていたが、その結果は!?
〉ワクワク!

 リスナー達がワクワクしているので、盛り上げる意味も込めて叫ぶ。

《ギングズの鑑定の儀の結果発表ー!》

〉わ~!
〉パチパチ!
〉ドンドン!
〉イエ~イ!

 リスナー達の盛り上がりも最高潮になってきたのでギングズのカードを見た結果はこうでした。

名前:ギングズ・フィアリーアーズ
種族:ヒューマン
HP:168/168
MP:153/153
スキル
なし

〉MP153!残念!
〉目安値の200にすら届かず!
〉250なんて夢のまた夢www
〉産まれたてのレインにすら負ける数値www
〉予想外の低さにギングズがわなわな震えてるwww

 わなわな震えているギングズは今にもカードを握りつぶしそうだった。

〉ってか、レインの家の家名がフィアリーアーズと判明
〉そういえば貴族様だったな、レインってwww
〉貴族らしくないから忘れてたwww
〉赤ちゃんに貴族らしさを求めるなんて草
〉たとえ赤ちゃんじゃなくてもレインは貴族らしくないだろう

《元々日本の平民だからな》

 そんな人間に貴族らしさを求められてもそんなのあるわけがないと胸を張って言える。

〉俺達と同じだな
〉同じだったが正しいだろうな
〉今や貴族のご子息だしな
〉偉くなったものね

《別に貴族の家に生まれたからといって俺が偉いわけじゃねーけどな。
 それより》

 親がギングズからカードを受け取って見ていた。

「ギングズ」
「は、はい」

 親に呼ばれたギングズはビクッと肩を震わした。

 冷たい言葉と冷ややかな目で親から見られたらこうなるだろうな。
 どんなに尊大な言葉で話していようが結局は五歳の少年でしかないのだから。

〉ヘビに睨まれたカエル状態
〉自分からハードル上げた結果だから自業自得ではあるんだろうけど
〉少し可哀想ではあるわね
〉さすがに五歳の子供のこんな姿を見てザマァとは言いにくいな
〉ザマァwww
〉言いきったヤツがいたよ!
〉最低なヒトね!
〉さすがにここで言いきるなんて!
〉どんなメンタルしてるんだよ!
〉ガラスのメンタルです
〉それなのに言いきるってwww
〉ありえないわよwww
〉お前のメンタル絶対鋼だろwww

《はいはい。まだ親達の話は続いてるんだから》

 リスナー達のコントを切るためにそう言ってると、親はギングズにカードを見せつけた。

「確かにMP値は低くはないが、これで魔術師になれるのか?」
「あ、兄上よりは十分高いですし、まだこれからの伸びしろがありますから必ず魔術師になれます!」

 必死に言うギングズだが、親の冷ややかな目は変わらない。

「確かに100もなかったシャーズよりかはマシな数値を出したとは思うが、魔術師になれるとされる最低値にも届いてないのもまた事実だ」

〉厳しい言い方だけどそれが事実ならそう言うしかないよな
〉これも一つの親の役目なんだろうけど………
〉この親が言うとな………
〉穿った見方なのかもしれないけど、役立たずだ、と言っているように聞こえてしまうのよね………
〉まぁ、今まで聞いてきた会話があんなんだしな

《そういう風に聞こえるのも仕方ないことだろ》

 親の言葉にギングズは歯を食いしばってうつむいてしまった。

「しかし、お前の言う通り伸びしろがあるかもしれないから、魔術師を目指すなとは今は言わないでおこう」

 首の皮一枚残ったことにギングズはホッと息を吐いた。

「しかしだ。
 魔術師になれる可能性も低いだろうから明日からしっかりと剣の練習をし始めろ。
 今までみたいに本ばかり読んでいられるとは思うなよ」
「………わかりました、父上」

 なんとか返事をしつつも、しっかりと歯は食いしばっているギングズ。

〉お~お~、スゴいギスギスした会話してるね~
〉結果が出なかった息子にかける言葉ではないよね~
〉自分からハードルを上げていたことを考えればやっぱり自業自得なんだけどね~

《それでも、これはな》

 イヤな兄ではあるが、やっぱり少しは同情してしまう。
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