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59.突撃して

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「魔力吸収………。そんなスキルがあるのですか?」
「あったね」

 固まりから帰ってきたキュリアスは再度何かを考え始めたので声をかけるのはどうかと思ったのだが、

「キュリアス。湯気がこもってきたからとりあえずお風呂場から出よ」

 さすがに湯気の中にいると服が濡れてくるので外に出ようと提案する。

「そうですね」

 というわけでみんなで更衣室の方へ移動する。

「レイン様。魔力吸収のスキルの効果はどんなモノなのですか!?」

 移動した直後にキュリアスが俺に急接近してきたので、しっかり下がってと一定の距離を取る。

〉曾祖父さんやオルフィールで慣れたからか、距離を取るのが上手くなったな
〉お見事だな
〉おかげで私達も驚かなくて済むからいいわね
〉曾祖父さんのドアップは二度といらないからな
〉あら、いいじゃない。曾祖父さんのドアップ
〉また見たいわ

《こんなこと慣れたくもないんだけどな》

 リスナーのコメントに内心苦笑しつつ、キュリアスには魔力吸収の効果を教えてあげる。

「魔力吸収は空気中にある魔力を吸収して魔力を回復する効果があるスキルだね。
 だから、魔法石に付与することによって魔法石が自動で魔力を回復してくれるようになるよ。だから、魔法石の魔力がなくなることはないんだよ」
「そんなスキルがあるなんて………」

 キュリアスが考え込み始めたので、その間に何もない更衣室にロッカーや棚、椅子なんかを作ってしまおう。と、思ったのだが、棚や椅子は木のほうがいいので今はロッカーだけにしとこう。

 そうと決めたら早速片側の壁に二十五個、両サイド合わせて五十個のロッカーを枠組みは鉄とアルミの合金で作ってみた。

「レイン様。これは」

 ジルベイルはロッカーに興味津々といったご様子。

「ロッカーというモノで、服や荷物を入れるのに使うモノだね。ジルベイル。そこの開いているところに手を入れて手前に引けば開くから開けてみて」

 俺の指示に従ったジルベイルは取っ手に手をかけると慎重に開けた。

 中は上下に棚があり、上の棚の下には棒もついていて、服をかけるためのハンガーもしっかりとかかっていた。

 思った通りの出来栄えに頷いていると、フィーシャやアルも興味津々といった様子でロッカーを見ていた。

「上下の棚は荷物を置く場所だとして、これはなんの道具ですか?」

 ハンガーを手に取ったアルが聞いてきた。

「ハンガーっていう服をかける道具だね。上着は肩の部分が斜めになっている棒のところに来るようにかけて、ズボンなどは下の棒に二つ折りするようにかけるんだよ」
「服をかける道具」
「ハンガー」

〉メイド達はハンガーに興味津々www
〉やっぱり片付けの道具とかに目がいくんかね?
〉職業病かもなwww
〉そうだろうなwww
〉じゃなきゃハンガーにこれだけ食いつかねーだろwww
〉だよなwww

「こんなところにいたんですね」

 そんな言葉と共にやって来たのはユファ婆さま。

「屋敷のほうに姿が見えないから探しましたよ。
 それに、こんな面白そうなことを私をのけ者にして行うなんて、呼んでくれてもいいじゃない」

 怒っているユファ婆さまは頬を膨らませた。

〉地下室作りを面白そうってwww
〉レインの地下室作りを間近で見学する気満々だったんでしょうねwww
〉それなのにひ孫達からのけ者にされて怒る曾祖母さんwww
〉頬を膨らませて抗議する曾祖母さんwww
〉カワイイかよ!

「ごめんなさい。ユファ婆さま」

 謝罪しながらユファ婆さまの腕の中に移動する。

「地下室を作るだけだったし、そんなに面白いモノでもなかったから呼ばなかったの………」

〉あざとい上目遣い!
〉わざとやってるだろ!

 もちろんわざとやってるに決まっている。

〉でも赤ちゃんだからカワイイ!
〉許せちゃうわね!
〉騙されるな!
〉中身はおっさんだぞ!

 中身はおっさんでも見た目が可愛ければいいのだ。

 なぜなら、カワイイは正義だから。

「いいのよ、レイン。でも、次からは私も呼んでほしいわ」
「うん!わかった!」

 笑顔で頷くと、ユファ婆さまは頭を撫でてくれた。

〉曾祖母さん陥落www
〉あっさりお許しがでちゃったwww
〉ひ孫相手じゃこんなもんだろwww
〉耐えれる可能性など万が一にもなかったwww
〉仕方ないことだwww

「じゃあ、出来た地下室を案内してくれるかしら?」
「うん」

 というわけで、案内するとなればまずはこの場所の説明からだろう。

「ここは脱衣兼更衣室だよ」
「なんだか変わった更衣室だね。それに、脱衣と兼用っていうのはどういうことなの?」

 脱衣兼更衣室を見回しながらユファ婆さまは不思議そうに聞いてきた。

「奥の扉の向こうに、訓練後に汗を流せるようにとお風呂を作ったのです」
「あの奥はお風呂なの?」
「はい」

 僕が頷くと驚いたユファ婆さまは確認するように視線をジルベイル達に向けた。その視線を受けたジルベイル達は本当だとばかりに頷いた。

「そう。まさか地下にお風呂まで作ってしまうなんてね」

 苦笑ぎみのユファ婆さま。

〉ユファ婆さまのこの表情は呆れているのか?
〉まぁ、普通は地下にお風呂なんて作らねーだろうしな
〉排水とか色々問題が多いだろうからな
〉そっちの世界の場合、地下室自体が珍しいだろうから余計にじゃね?
〉それもそうか
〉言えてるな

《いや、地下室はそれほど珍しいモノではないぞ。冷蔵庫がないから地下に食材を保存するのが基本だったりするからな》

〉なるほど
〉確かに地下に食材を保存したほうが長持ちするな
〉やっぱりレインがしていることが異常なんだな

 それについてはノーコメントだし、このままここにいても時間のムダなので次に行こう。

「次はこっちですね、ユファ婆さま」

 脱衣兼更衣室を抜けて訓練場の方へやって来る。

「ここが訓練場だね。向かいの扉の向こう側にもさっきと同じ脱衣兼更衣室があって、訓練場を使い始めた時は、さっきいた脱衣兼更衣室を女性用、向こう側を男性用と分けて使うつもりだね」
「これはまた………」

〉やっぱりこの広さの地下室はありえないよなwww
〉しかもそれをたった数時間で作るという異常www

 うん。リスナー達に言われなくてもわかっている。いくら地下室があるのが当たり前でも、これだけ広い地下室はありえないってことぐらい。

〉ユファ婆さま悶絶してるwww
〉予想以上どころの話じゃないだろうしなwww
〉レインにとってはこれぐらいの異常な行動はもはや正常ねwww
〉異常が正常ってwww
〉普通じゃありえね~www

《転生してる時点で普通じゃねーんだからいいだろ》

「ユファ婆さま。まだ下にも同じような訓練場があるけど見に行く?」
「あぁ、見ておこうかな」

 どこか呆然とした様子だったが、しっかりと返事はしてくれたので下の訓練場を見に行くことになった。

「じゃあ行こう」

 と、いうわけで転移門を使って下の訓練場へ移動すると、ユファ婆さまはついに一言も発することはなかった。

〉とうとうユファ婆さまの思考が停止したか………
〉キャパオーバーしたんだろうな………
〉こんなけ異常なことをされればな………
〉そうなるだろうな………
〉いくら異常が正常なレインでも、その異常に慣れるまではみんなが通る道なんだろうな………

 なぜかリスナー達のコメントを見ていると、遠い目をしたリスナー達の姿が思い浮かんだ。が、今気にすべきはユファ婆さまのほうなので、

「大丈夫?ユファ婆さま」
「あぁ。ところでここの広さはどれくらいなの?」
「一応敷地分の面接を取っていて、高さは多分10メートルくらいじゃないかな?」
「それはスゴいね」

 そう言うユファ婆さまの言葉はどこか魂が抜けた感じで、ホントに大丈夫かな?とやっぱり心配になる。が、今の僕がなにか言ったところで治りそうにもないし、普段のユファ婆さまに戻るまで待つとしよう。

 そう思っているとユファ婆さまは訓練場の中を歩きはじめ、そして上の訓練場と繋がっている場所を見つけた。

「レイン。ここはなんですか?」
「ここはですね」

 説明のためにみんなに浮遊の魔法をかけようとしたが、驚いてへんに飛んで行かれても困るので浮遊ではなく重力魔法で無重力状態を作り上げると、風魔法で上昇気流を作り出して上の訓練場まで昇ってきた。

「こうして上昇したり下降したりする練習が出来るように作った場所ですね」

 ユファ婆さまが居るので突撃してこないが、キュリアスがさっきの魔法について聞きたそうにうずうずしていた。

「よし、お風呂に入りましょう」

〉現実逃避し始めたユファ婆さまwww
〉考えることを諦めたユファ婆さまwww
〉レインに振り回されたユファ婆さまwww
〉思考停止を越えたユファ婆さまwww
〉可哀想なユファ婆さまwww
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