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第0章ユリアナ村編
ユリアナ村編 最終話・後編
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木漏れ日の差し込む森の中。次第に高度を上げていく太陽が、木々の隙間からようやく確認できるようになった頃。
人と魔人の戦いは、意外なほどに早く決着がついた。魔人の策に嵌められたミサトの死によって、である。
「さあ、早く出てきなさい」
ミサトを倒した魔人は、強い殺気をそのままに、近くの木陰に息を潜めているであろう存在に声をかける。
やがて、魔人の先の茂みが揺れ始め、中から1人の子供と1頭の魔獣が姿を現す。――リオとふぐおだった。
「フグググウ」
ふぐおが威嚇するように魔人を見据える。その瞳は先ほどまでの黒い瞳ではなく、宝石のように赤く煌めく瞳となっていた。さらに、全身の毛が逆立ち、その毛先から魔力をほとばしらせていた。
リオは何か決意を込めた眼差しで魔人を見据える。その右手には父・ハヤトから送られた短剣を握り、その瞳にはわずか5歳の少年には、到底似合わない復讐の炎が燃えていた。今の彼は、青みを帯びた黒髪と相まって、冷徹さすら感じられる。
リオが無言で一歩踏み出す。その体から発する「何か」を見た魔人が、半歩だけ後ろに下がる。
(・・・!?この私が怖気づくなど・・・!いえ、油断すればこちらが返り討ちに遭いますね)
魔人が意識を切り替える。目の前にいるのはたかが5歳の子供ではない、正真正銘の「化け物」だと。
「ふぐお、下がってて。こいつは・・・僕がやる」
リオのお願いだからか、それとも気迫に押されたのか。ふぐおは一声鳴くと大人しくリオの背後に下がる。
(力を貸して、みんな)
リオは心に刻んだ記憶達に声をかける。少しすると、頭の中にあの場所で出会った記憶達の顔が脳内をよぎる。
次の瞬間、リオは地面を蹴った。
「な、に・・・」
魔人が突進してきたリオに対し剣を振るった。防御しない限り確実に相手を一閃できる完璧なタイミングで、だ。
だが、それはリオを捉えることは無く、さらにはリオの姿を見失った。
(一体どこに・・・?)
周囲を見渡す魔人。だが、どこにもリオの姿は見当たらなかった。――そうして至った1つの可能性。
(上、ですか!)
魔人が上空を見据える。だが、それまでの行動が彼にとって命取りとなった。
空中へと飛びあがったリオは、重力を味方につけて短剣を振るい、魔人の右腕を切り落とした。
「グウオアアアアアアァァァ・・・!!」
魔人は自らの腕が切り落とされたことに気づくまでわずかな時を要した。
そして、それに気づいた魔人が雄たけびにも似た悲鳴を上げ、狂乱したようにリオに向けて魔法を打ち出そうとする。
「《防護》」
だが次の瞬間、魔人を包むように障壁が張られる。対する魔人は、怒りに任せて魔法を放つ。
放たれた魔法が障壁に衝突する。と同時に、それらはすべて霧散していった。
「《終焉之獄炎》」
続いてリオが魔法を放つ。すると、魔人の足元に魔法陣が現れ、そこから獄炎が噴き上がり、魔人を包んでいく。
業火に焼かれていく魔人。始めは抵抗するように魔法を放っていたが、時間が経つごとに悲鳴を上げ始める。
「ウオオオアアアアアァァァ・・・・・・マダ、シヌワケニハ、イカ、ナ・・・イ」
業火に焼かれていた魔人は、最期にそう言い残し魔力となって霧散していった。
「お母さん、さよなら」
魔人との戦いを終えたリオが最初にしたことは母・ミサトの埋葬だった。ふぐおに穴を掘ってもらい、土葬したのだ。
――いつかお父さんも連れてくるから。
リオが心の中でミサトに約束をする。そうしてリオは、地面に突き立った短剣を前に立ち上がった。
「ふぐお、いこう・・・」
リオは背後にいたふぐおに声をかける。そうして歩き出そうとした瞬間、リオを強烈な眩暈が襲った。
眩暈と共に、音もなく崩れ落ちるリオ。
(あれ、ちからが・・・はい、らない・・・)
次第に遠のく意識と共に地面が近づいていき、そのままリオは意識を失った。
木々の隙間からこぼれてくる太陽の光に、リオはゆっくりと目を開く。
(・・・僕は何を・・・?)
意識がはっきりとしない中、リオは自分に何があったのかを思い出そうとしていた。
(そうだ、あいつを倒して・・・)
少しずつ蘇ってくる記憶に涙を流すリオ。横になった体を起こそうとすると――
「ん?」
ふと、リオは黒いふかふかとした何かに体を支えられていることに気づく。
ゆっくりと視線を向けると、ふぐおが心配そうにリオの顔を覗き込んでいた。倒れたリオを介抱していたのだろう。
「ありがとう、ふぐお」
礼を言うリオに対して、ふぐおはリオを立たせる。そしてそのまま、くるりと回ると背中を向け、しゃがみこんだ。
「乗れってこと?」
それはいつもリオを背中に乗せるときにふぐおがする仕草だった。
リオの台詞に対して「フグウ」と鳴くふぐお。
「わかった」
リオはふらつく体でふぐおの背中に乗る。背中にリオが乗ったことを確認すると、ふぐおは森の外へ向かって歩き出した。
薄暗い室内。何枚もあるモニターにはいつものように代わり映えのない映像が流れている。だが、彼が見ていた画面だけは、ほかのモニターに映し出される映像とは異なった映像を映し出していた。
「・・・1つ目の峠は越えたか」
彼が見ていた物。それは五歳くらいの少年が魔人と呼ばれる強大な存在を倒したところだった。
ふと、視線が隣の画面に移る。そこに映し出されていたのは、1人の少女。
「お前の仕業か、クイーン」
「だとしたらどうなの?管理者さま」
クイーンと呼ばれた同業者の女性は、どうでもよさそうに肩をすくめながら言う。
「せっかくあんたの計画に協力してるんだ。こっちとしても成果は欲しいのさ、キング」
キングと呼ばれた彼は内心舌打ちをしながら女性の言葉を黙って聞く。
「で、この娘ならあんたの計画の一部に組み込めるだろう?素質は十分さ」
「・・・そのようだな。だが、今のままではあの少年は、その娘に会う前に死んでしまう。そちらの解決の方が先だ」
既に何度もシミュレートしたが、どうしてもこの先がうまくいかない。
彼は別の画面に目を移しながらため息をつく。
「なら、あいつらを差し向ければいいだけだろう。その世界線はその少年1人じゃないんだろう?簡単には死なないさ」
彼は女性の言葉にハッとすると、新たな可能性を模索し始まる。すると、ほどなくして1つの可能性を導き出す。
「まさか女狐に感謝する時が来るとは思わんかったぞ」
「言っただろう、こちらとしても成果は欲しいのさ」
そう言い残し、女性は部屋を去っていった。1人取り残された彼は、刻々と変わっていく世界を監視し続けていく。自らの欲望を創るために。
人と魔人の戦いは、意外なほどに早く決着がついた。魔人の策に嵌められたミサトの死によって、である。
「さあ、早く出てきなさい」
ミサトを倒した魔人は、強い殺気をそのままに、近くの木陰に息を潜めているであろう存在に声をかける。
やがて、魔人の先の茂みが揺れ始め、中から1人の子供と1頭の魔獣が姿を現す。――リオとふぐおだった。
「フグググウ」
ふぐおが威嚇するように魔人を見据える。その瞳は先ほどまでの黒い瞳ではなく、宝石のように赤く煌めく瞳となっていた。さらに、全身の毛が逆立ち、その毛先から魔力をほとばしらせていた。
リオは何か決意を込めた眼差しで魔人を見据える。その右手には父・ハヤトから送られた短剣を握り、その瞳にはわずか5歳の少年には、到底似合わない復讐の炎が燃えていた。今の彼は、青みを帯びた黒髪と相まって、冷徹さすら感じられる。
リオが無言で一歩踏み出す。その体から発する「何か」を見た魔人が、半歩だけ後ろに下がる。
(・・・!?この私が怖気づくなど・・・!いえ、油断すればこちらが返り討ちに遭いますね)
魔人が意識を切り替える。目の前にいるのはたかが5歳の子供ではない、正真正銘の「化け物」だと。
「ふぐお、下がってて。こいつは・・・僕がやる」
リオのお願いだからか、それとも気迫に押されたのか。ふぐおは一声鳴くと大人しくリオの背後に下がる。
(力を貸して、みんな)
リオは心に刻んだ記憶達に声をかける。少しすると、頭の中にあの場所で出会った記憶達の顔が脳内をよぎる。
次の瞬間、リオは地面を蹴った。
「な、に・・・」
魔人が突進してきたリオに対し剣を振るった。防御しない限り確実に相手を一閃できる完璧なタイミングで、だ。
だが、それはリオを捉えることは無く、さらにはリオの姿を見失った。
(一体どこに・・・?)
周囲を見渡す魔人。だが、どこにもリオの姿は見当たらなかった。――そうして至った1つの可能性。
(上、ですか!)
魔人が上空を見据える。だが、それまでの行動が彼にとって命取りとなった。
空中へと飛びあがったリオは、重力を味方につけて短剣を振るい、魔人の右腕を切り落とした。
「グウオアアアアアアァァァ・・・!!」
魔人は自らの腕が切り落とされたことに気づくまでわずかな時を要した。
そして、それに気づいた魔人が雄たけびにも似た悲鳴を上げ、狂乱したようにリオに向けて魔法を打ち出そうとする。
「《防護》」
だが次の瞬間、魔人を包むように障壁が張られる。対する魔人は、怒りに任せて魔法を放つ。
放たれた魔法が障壁に衝突する。と同時に、それらはすべて霧散していった。
「《終焉之獄炎》」
続いてリオが魔法を放つ。すると、魔人の足元に魔法陣が現れ、そこから獄炎が噴き上がり、魔人を包んでいく。
業火に焼かれていく魔人。始めは抵抗するように魔法を放っていたが、時間が経つごとに悲鳴を上げ始める。
「ウオオオアアアアアァァァ・・・・・・マダ、シヌワケニハ、イカ、ナ・・・イ」
業火に焼かれていた魔人は、最期にそう言い残し魔力となって霧散していった。
「お母さん、さよなら」
魔人との戦いを終えたリオが最初にしたことは母・ミサトの埋葬だった。ふぐおに穴を掘ってもらい、土葬したのだ。
――いつかお父さんも連れてくるから。
リオが心の中でミサトに約束をする。そうしてリオは、地面に突き立った短剣を前に立ち上がった。
「ふぐお、いこう・・・」
リオは背後にいたふぐおに声をかける。そうして歩き出そうとした瞬間、リオを強烈な眩暈が襲った。
眩暈と共に、音もなく崩れ落ちるリオ。
(あれ、ちからが・・・はい、らない・・・)
次第に遠のく意識と共に地面が近づいていき、そのままリオは意識を失った。
木々の隙間からこぼれてくる太陽の光に、リオはゆっくりと目を開く。
(・・・僕は何を・・・?)
意識がはっきりとしない中、リオは自分に何があったのかを思い出そうとしていた。
(そうだ、あいつを倒して・・・)
少しずつ蘇ってくる記憶に涙を流すリオ。横になった体を起こそうとすると――
「ん?」
ふと、リオは黒いふかふかとした何かに体を支えられていることに気づく。
ゆっくりと視線を向けると、ふぐおが心配そうにリオの顔を覗き込んでいた。倒れたリオを介抱していたのだろう。
「ありがとう、ふぐお」
礼を言うリオに対して、ふぐおはリオを立たせる。そしてそのまま、くるりと回ると背中を向け、しゃがみこんだ。
「乗れってこと?」
それはいつもリオを背中に乗せるときにふぐおがする仕草だった。
リオの台詞に対して「フグウ」と鳴くふぐお。
「わかった」
リオはふらつく体でふぐおの背中に乗る。背中にリオが乗ったことを確認すると、ふぐおは森の外へ向かって歩き出した。
薄暗い室内。何枚もあるモニターにはいつものように代わり映えのない映像が流れている。だが、彼が見ていた画面だけは、ほかのモニターに映し出される映像とは異なった映像を映し出していた。
「・・・1つ目の峠は越えたか」
彼が見ていた物。それは五歳くらいの少年が魔人と呼ばれる強大な存在を倒したところだった。
ふと、視線が隣の画面に移る。そこに映し出されていたのは、1人の少女。
「お前の仕業か、クイーン」
「だとしたらどうなの?管理者さま」
クイーンと呼ばれた同業者の女性は、どうでもよさそうに肩をすくめながら言う。
「せっかくあんたの計画に協力してるんだ。こっちとしても成果は欲しいのさ、キング」
キングと呼ばれた彼は内心舌打ちをしながら女性の言葉を黙って聞く。
「で、この娘ならあんたの計画の一部に組み込めるだろう?素質は十分さ」
「・・・そのようだな。だが、今のままではあの少年は、その娘に会う前に死んでしまう。そちらの解決の方が先だ」
既に何度もシミュレートしたが、どうしてもこの先がうまくいかない。
彼は別の画面に目を移しながらため息をつく。
「なら、あいつらを差し向ければいいだけだろう。その世界線はその少年1人じゃないんだろう?簡単には死なないさ」
彼は女性の言葉にハッとすると、新たな可能性を模索し始まる。すると、ほどなくして1つの可能性を導き出す。
「まさか女狐に感謝する時が来るとは思わんかったぞ」
「言っただろう、こちらとしても成果は欲しいのさ」
そう言い残し、女性は部屋を去っていった。1人取り残された彼は、刻々と変わっていく世界を監視し続けていく。自らの欲望を創るために。
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