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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第1章ガレイ編

第三部・「大鷲の翼」 6話

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 地面に倒れるリオに向かい悪魔の大剣が振り下ろされる。その光景を後方からただ見ていることしかできなかったエレナとレーベ、そして「白虎」の4人。そして、リオへ吸い込まれていく大剣の切っ先がリオの体に触れる直前、リオの左手に持つ闇のように黒い短剣が急に光を放ち出す。
 そして次の瞬間、短剣から放たれた光がリオと悪魔を包み込んでいった。

「リオ君!」

「リオ!」

 光に包み込まれていくリオを目にしながら、エレナとレーベが叫ぶ。そして次の瞬間、光の中から逃げていく悪魔の姿。そんな彼の体からは、僅かではあるが魔力が漏れ出していた。
 そうしてしばらく。次第に光が霧散し始め、光の発生した中心点に最も近かったリオが呆けた表情のまま姿を現した。

「今、何が・・・?」

 光から脱出した悪魔の姿を見たエレナが驚きに満ちた声をあげる。光の中で何があったのかは定かではないが、何はともあれ、リオが助かった上に悪魔にダメージを与えたことに違いはなかった。
 ――だがそれは、リオ達にとっては良い結果を呼ぶことにはならなかったようで、悪魔は自身の周囲に魔力を練り上げていく。そうして悪魔の周囲に精製されたのは、漏斗の形状をした浮遊する物体だった。
 その物体を目にし、訝しむ視線を向けるリオ達。そして次の瞬間、漏斗の砲門が僅かに光ったかと思うと、周囲へ向けて魔力弾が発射されていく。

「地面に伏せて!」

 エレナが叫ぶ。それと同時に彼女のそばにいたレーベと傭兵たちが一斉に散らばり、銃撃に似たその攻撃を回避する一番の方法を取り始める。
 その方法とは、単に地面へと体を伏せただけである。だが、こうすることでただ立っているよりは的が狭まり、相対的に被弾率が下がるのだ。
 そして彼らが散らばったのは、地面に伏せた理由と同じである。一見、広がった方が被弾率が上がりそうなのだが、実は相手が擲弾てきだんでも使わない限りは下手に固まるよりも薄く広がっている方が被害率が低くなる傾向がある。――ただし、相手側の兵力によっては逆に固まってしまう方が被弾率が下がる可能性がある、というのが思わぬ落とし穴であったりする。
 やがて弾幕が止むと、無事に攻撃を回避したエレナがレーベ達に対して声をかけた。

「皆、大丈夫?」

「ええ、なんとか・・・」

「俺も無事だ」

 するとエレナの台詞にレーベが反応し、次に彼女たちのそばまで吹き飛ばされていたジンが声を上げる。それに続いて続々と生存報告をする傭兵たち。そうして全員の生存を確認したエレナはゆっくりと頭をあげると、悪魔のそばにいたリオ達の姿を探し始めたのだった。



 一方、エレナに姿を探されているリオ達はというと、地面に横たわったまま悪魔の姿を探していた。
 先ほどの漏斗による弾幕はどうやらエレナ達に対する牽制だったらしく、リオ達には全くというほど攻撃が向いていなかった。その証拠に、唯一の至近弾も前線組で一番離れた位置にいたジンの近くに数発着弾しただけであった。――ジンがエレナ達のそばにいたことを考えると、実質リオとミリーは狙われていなかったと言える。
 だが悪魔は、次の目標をリオと決めていたようで、全ての漏斗をリオに向けて指向していた。

「さあ、死になさい」

「・・・悪いけど、僕は死ぬつもりはないよ。まだやらなきゃいけない事があるから」

 悪魔に対してそう口にするリオ。その直後、地面を転がったかと思うと、目にも止まらぬ速度で悪魔の背後へと移動していく。対する悪魔は背後へ移動したリオへ漏斗を指向すると、魔力弾を一斉発射すると同時に大剣を振るう悪魔。
 それに対してリオはすぐさま後退すると、魔力弾を防ぐために防護壁を展開、悪魔の放った魔力弾を全て防御する。

「やはり、君はあの御方の障害になりそうだ。――ここで消す必要がありますね」

「あの御方・・・?それって、管理者かみさまのこと?」

 リオの台詞に首を傾げる悪魔。

「かみ?・・・そうですね、あの御方は神でしょう。なぜなら、この世界を創ったのですから」

 悪魔の口にした台詞に思考が追い付かなくなるリオ。悪魔の言うことが本当であれば、この世界の意思ともいうべき存在がリオ達をこの世界から消そうとしているのだから。

(あのおじさんは僕らをここで殺すために助けたの?)

 リオの脳内に管理者と会った時の光景が浮かぶ。だが、その時の管理者はリオを消そうとはせず、むしろ母親の無念を晴らすためにリオを別の世界線へと送っていた。わざわざ殺すためにそこまでする人間がどれだけいるだろうか。もしその通りならば相当性格がねじ曲がっているだろう。

「おっと、私としたことが余計なことを口走ってしまった。これは消えてもらわなければいけません」

 そう口にした悪魔は右手に握る大剣を片手剣へと戻し、リオへと接近。旋風が巻き起こるほどの速度で斬撃を繰り出していく。
 その攻撃を短剣で受けるリオ。そんなリオの死角から飛来する魔力弾をサイドステップを踏むことで回避するが、そんなリオへと悪魔の追い打ちが続く。
 その直後に響く金属音。悪魔の攻撃を防いだのは、先ほどまで地面に横たわっていたミリーだった。

「僕もいるんだよ!」

 リオへの追撃を防いだミリーがそう口にする。と同時に悪魔の背後へと回ったリオが短剣を振るう。

「ちい、厄介な」

 前後から挟まれる形となった悪魔はミリーを押し返すとそのまま上空へと舞い上がり2人から一旦距離をとろうとする。そんな悪魔へリオが魔法で追撃を仕掛けようとするが、悪魔の展開していた漏斗から放たれた魔力弾により妨害されてしまう。
 そうして一旦距離をとる両者。

「あれ、厄介だね。リオっち、何とか出来ない?」

「1人じゃ厳しいかも」

「そっか、それじゃあちまちまやっていくしかないね」

 悪魔から距離をとったリオのそばに並んだミリーが声をかけ、再度悪魔に対して接近していく。そんな彼女に対して悪魔が得物を振るうが――

「今度はそう来ましたか」

 悪魔に対してリオの魔力弾が迫る。その光景を視界に収めた悪魔は迷うことなくバックステップを踏むと、リオの放った魔力弾を片手剣の腹で防ぎ、直後のミリーの攻撃をもう一本の片手剣で受け流した。
 その次の瞬間、ミリーに向けて指向される漏斗。だがそれらがミリーに対して魔力弾を発射することは無かった。

「エレナっち、ありがとう!」

 後方からの援護に対して、ミリーが迷うことなく援護した人物の名前を口にしながら片手を上げる。それに対しエレナは周囲の漏斗へ向けて魔力弾を発射、残る漏斗を全て消し去っていった。
 そんな彼女の元からリオ達の元へ向かってくるジンとレーベ。

「リオ、ミリー。あの浮かんでいる奴は全てエレナが落とす。俺たちは最速でキリをつけるぞ」

 リオ達の元へ辿り着いたジンはそれだけ口にすると、正面に立つ悪魔目掛けて突撃していったのだった。



 エレナを後方に置いて4人で悪魔へと接近するリオ達。対する悪魔は再度漏斗を精製、リオ達に加え後方のエレナ達も標的に据えていく。エレナの方も悪魔の展開した漏斗に対抗するべく、自身の周囲へと魔力弾に加え複数の魔法陣を展開すると悪魔の攻撃に備えていく。

「レーベ、ミリーは下手にあいつの気を引かないように立ち回れ」

「わかりました」

「了解、ジン」

 悪魔へと接近しながら2人に声をかけたジンはリオに対しても声をかける。

「リオ、俺とお前であいつを叩く。常に死角からの攻撃には気を配れよ」

「うん」

 ジンの言葉に手短に頷くリオ。そうして悪魔の元へたどり着いた4人は2人ずつに分かれてから攻撃に移っていく。
 まずリオとジンの2人が悪魔へと同時に切りかかる。対する悪魔は2人の攻撃を避けると同時に、得物で反撃を加える。
 それをリオは得物で受け止め、ジンは後退することで防御する。その次の瞬間、レーベとミリーの2人がそれぞれ一撃を加えるために悪魔へと接近していく。対する悪魔は周囲に展開していた漏斗で牽制、2人を後退させるが牽制に使用した漏斗たちをエレナに撃ち落される。

「・・・本当に腹立たしい。まずはあの女か」

 漏斗を一瞬にして消し去ったエレナを今最優先で消すべき存在と認識した悪魔が次なる魔法を行使し始める。

「余所見とは余裕だな!」

 新たな魔法を行使し始めた悪魔に対してジンが切り込んでいく。だがその攻撃は悪魔の展開した漏斗によって妨害されてしまう。

「リオ、ミリー!今の内にケリをつけるぞ!」

 ジンの台詞に反応したリオとミリーが悪魔の左右から肉薄し得物を振るう。だが2人の攻撃が悪魔に届く前に何かによって防がれてしまう。その次の瞬間、漏斗から発射された魔力弾を回避するリオとミリー。

「なんか変なのに防がれたよ!?」

 悪魔の手前で攻撃が防がれたことに動揺するミリー。なぜなら悪魔は一切動くことなく2人の攻撃を防いだためであった。

「・・・なんだ、ありゃ」

 リオとミリーが離れるとほぼ同時に、ジンの視界に宙に浮く障壁が入ってくる。だがその障壁は彼が今まで見たことのあるものとは異質と言える存在だった。

「ジンさん、あれ、動いてますよ・・・」

 レーベもその姿を目にしたのだろう、目の前の光景が信じられないといった声を上げる。現在悪魔の周りには、まるで自立式兵器のように宙を自由自在に舞う障壁が悪魔の周囲を隙間なく埋めていたからである。
 直後、リオ達の背後から魔力弾が飛来する。
 だが障壁に触れた瞬間に魔力弾が消滅、反対にエレナ達の元へ障壁の背後にいた漏斗から魔力弾が放たれたのである。

「・・・冗談きついな」

 その光景を目にしたジンが思わず呟く。漏斗のみでも厄介な存在なのにそれと悪魔本体を守る盾が出現したのである、もしこれが夢なら覚めて欲しいくらいだろう。だが、真の悪夢はここからだったのである。
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