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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第2章王都・エルドラド編

第一部・第7王女 3話

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 それから1時間後。以前アイゼンと試合をした石造りの闘技場にやってきたリオは、彼らの試合を見物しに集まった野次馬達と分かれ闘技場のフィールドへと入っていく。――ちなみに、リオとアイゼンについてきた野次馬達は、全員が「聖騎士団」に現役で所属しているという猛者たちだった。

「さあ、後輩たちも席に着いたことだし、早速始めよう」

 そしてその野次馬達を呼んだ張本人であるアイゼンが、訓練用である木製の長剣を手にリオと相対する。
 それに対して、訓練用の木製の短剣を両手に持ったリオが小さく頷く。

「それじゃあ審判は聖騎士団副団長の彼に」

 アイゼンの台詞の後、リオ達の前に姿を現す1人の兵士。

(・・・実は聖騎士団の人って暇なのかな)

 観客、審判、そして対戦相手までもが「聖騎士団」に関連のある人物という、一部の兵士からは妬まれそうな状況なのだが、リオはこの場所に集まっている人数を見てそんな感想を抱いていた。

「では、両者準備はよろしいですね?ルールは1つ、お互いに全力を見せること。――それでは、始め!」

 リオがこの場にいる全員に対して失礼なことを思っているとは夢にも思っていないのか、それとも気にしていないのかは分からないが、審判となった兵士が戦闘の開始を宣言したことにより、リオとアイゼンの試合は始まったのだった。



 試合開始直後、まず動いたのはアイゼンだった。
 以前と変わらぬ身のこなしのままリオへ肉薄したアイゼンは、右手に握る得物を横薙ぎに振るうと、そのままさらに地面を踏み込む。

「そう動くことは予測済みだよ!」

 初手接近し横薙ぎに振るわれた長剣を後方へ飛びのきながら回避したリオに対して、再度接近しながらそう口にするアイゼン。
 対するリオの方も、そこまでは予測していたらしく、次に地面に足が触れた瞬間にアイゼンの左側へと回り込む。
 そして直後、リオの双剣がアイゼンを襲う。

「・・・と、それは予測していなかった」

「それでも防ぐんだね」

 時間にして1秒も経たずに再度ぶつかった両者は、コンマ1秒も違わず同時に距離を取る。
 そうして距離を取った両者は、今度は相手の動きを窺いながら牽制をかけ始める。

(・・・さすがにフェイントが通じる様子はないか)

 お互いににじり寄ったり、反対に離れたりしながら隙を窺っている状態に、内心で焦りを覚え始めるアイゼン。そしてそれはリオのほうも同じようで――

(うーん、あの位置だとこの距離からじゃ気づかれるよね・・・)

 彼我の位置を確認しながらアイゼンの動きを見続けていた。
 そうして互いに睨み合う状態を続けること3分。不意にリオがアイゼンへと接近していく。

(――!?まっすぐこちらに来た?・・・いや、罠か)

 ほぼ直感でそう感じるアイゼン。そしてその勘は当たったようで、アイゼンの間合いに入った瞬間にリオが一気に加速する。そしてその向かった先は、アイゼンの背後。
 だがリオが何かをしてくると予想していたアイゼンは、視界からリオが消えたと同時に前方へと駆ける。

「・・・!?」

 その次の瞬間、振るった得物が宙を切った光景を目にしたリオから驚愕した声が上がる。

「どうやら、私の方が一枚上手だったようだね」

 リオの攻撃を回避したアイゼンが勝ち誇ったようにそう口にする。だが、アイゼンが先ほどの攻撃を避けられたのは、彼がリオよりも濃密な戦闘経験を積んできたからだろう。――その証拠に、あとわずかに反応が遅れていればリオの攻撃がかすっていたのだから。

「・・・次は当てる」

 短剣を構え直しながら呟くリオ。そしてその次の瞬間、地面を蹴ったリオはアイゼンの正面に居た。
 直後鳴り響く、木同士がぶつかる乾いた音。そしてそれが響いた頃にはリオの姿はアイゼンの前には無く、代わりに背後から何かがいる気配を感じるアイゼン。

「んっぐ、おっ・・・」

 直後背後へと体をひねらせたアイゼンは、無理のある体勢でリオの攻撃を受け止めることになってしまう。そしてそれは大きな隙を生むことにもなったようで――

「隙あり、だよ」

 アイゼンの得物の刃の上を滑らせるように短剣を移動させたリオは、そうすることによって空いた左手の短剣をアイゼンに叩きこむ。
 それによってうめき声を上げたアイゼンへと、リオの乱撃が叩き込まれていく。
 1撃ごとに素早くなるその攻撃を受け止めることすら叶わずに直撃を受け続けたアイゼンがダウンしたのは、それから1分後のことだった。



「次は俺と!」「いや、俺の方が強い!だから俺と試合を!」「な、俺の方が先に声をかけたんだぞ!」

 リオとアイゼンの戦闘の決着がついた闘技場。そこではアイゼンを倒したリオに対して「聖騎士団」の面々が彼を囲みながら続々と試合を申し込んでいる最中だった。
 そしてその中心にいるリオはというと――

(どうでもいいから解放してくれないかな・・・)

 表情に出さないようにしながら、内心で溜息を吐いていた。

「おい、お前たち。彼女が困っているだろう、そこまでにしておけ」

 リオを中心として騒ぎ続ける部下たちを止めるように、審判をしていた「聖騎士団」副隊長の兵士が声を上げる。だが、彼の発した台詞の中にリオの逆鱗に触れる単語が含まれており――

「おじさん、僕は男だから」

 まるで「鬼の形相」という言葉が可愛く思えるほどの表情を浮かべながら周囲の気温が下がりそうなほどに冷たい声を出すリオ。だが、彼の地雷コンプレックスを踏み抜いたとは知らない彼がさらに口を開く。

「・・・そうなのか?・・・だが、どう見ても――」

 彼がそう口にした次の瞬間、リオの手にしていた木製の短剣を受け地面へと崩れ落ちる兵士。
 不意打ちではあるが、そうして一撃で「聖騎士団」副隊長をのしたリオ。

「戦いたいのは誰?」

 そして地面へと崩れ落ちた兵士に目をくれることもなく周囲の兵士へとリオが視線を向けると、リオの周囲を囲っていた兵士たちは、まるで引いていく波の如くリオから離れていく。

「・・・それじゃあ、僕はこれで」

 そうして引いていった兵士たちの間を通りながら、唯一「聖騎士団」と関連のない人物であるギルドの職員へと告げたリオは、メインの待っているであろう宿屋へと帰ったのだった。



 その日の夜。無事冒険者となれたことをメインに話したリオは、彼女と共に宿泊している宿屋の一室でぼんやりとしていた。

(今日から正式に冒険者になったんだよね・・・)

 宿屋に備え付けられている窓から空を眺めるリオ。
 彼の眺めた空に瞬いていたのは、夜空を覆いつくさんばかりに瞬く星々と、その星々の中で一際大きな月だった。

(でも、あんまり実感がないっていうか、やることは今までと変わらないんだよね)

 ぼんやりと夜空を眺めながらその事に気づくリオ。
 今までリオは本職の冒険者であるジン達と行動を共にしていた。そのため、正式に冒険者となったところで今までとやることに大きな差は無い。――唯一異なるとすれば、依頼を受けて報告することも1人でこなす必要があるところだろう。

「お兄ちゃん、眠れないの?」

 すると、不意にリオの背後から声が上がる。
 その声の主がいるであろう場所を見ると、茜色の髪の少女・メインが上半身を起こした状態で、眠そうな瞳のままにリオに尋ねてきていた。

「・・・うん、ちょっとね」

 そんな彼女に対して正直に答えるリオ。すると、そんなリオに対して甘えるような態度を取り始めるメイン。

「じゃあ、メイン、お兄ちゃんと一緒のおふとんで寝たいな」

「いいよ。・・・そうだ、昨日の続きを聞きたい?」

「え、いいの!?」

 メインの願いを了承したリオは、以前ジンに教えてもらった童話を聞きたいか尋ねる。するとメインは眠たそうだった瞳を輝かせ、ベッドの上で前のめりになる。

「いいよ。・・・その代わり、今日はもう遅いから、話し終えたらすぐに寝るんだよ」

「うん、わかった!」

 勢いよく頷いたメインに対して、思わず笑みを零すリオ。そうしてメインのベッドに入り込むと、向かい合った状態でジンから教えてもらった童話を話していく。
 そうして少しすると、興奮気味だったメインは眠気に負けてきたらしく、次第に目元をとろんとさせ始める。

「・・・今日はこの辺にしておこうか。続きはまた明日ね」

「ええ・・・もっと、きき・・・た、い・・・よぉ」

 眠そうな声を上げるながら、話の続きをせがむメイン。だが眠気には勝てなかったらしく、そう口にしてから少しするとすやすやと寝息を立て始める。
 目の前で気持ちよさそうに眠るメインの表情を見ながら、なんとなく暖かい気持ちになるリオ。

(・・・僕もこうやってお母さんに甘えたことがあったっけ。きっと、お母さんはこんな気持ちで見ていたんだろうな)

 内心でそう呟きながら、目の前で眠る少女の頭をリズムよく撫で始める。すると、リズムよく頭を撫でられたせいかメインが寝言を口にする。

「・・・ん、くすぐったい、よ・・・おかあさん・・・」

 くすぐったい、と口にしながらも心地よさそうにするメイン。おそらく、夢の中で母親に甘えているのだろう。

(・・・なんだか、僕もこうしていたのかもしれないって考えると、ちょっと恥ずかしい・・・)

 そんなメインの姿を見て、急に恥ずかしさを覚えるリオ。
 だが、幼い子供が両親と離れ離れになった環境下で「両親に甘えられる夢を見ない」ということの方がむしろ異常事態である。
 そのため、今のメインのような反応をリオが昔していたとしても可笑しなことではないのだが、本人としては十分に恥ずかしい内容であることに間違いもなかった。

(でも、別にいっか。・・・今はこうしてるだけで)

 内心でそう呟きながらメインの寝顔を眺め続けるリオ。そうして気づけば、リオも眠りに落ちていったのだった。
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