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-忌まわしき古竜の血-
第二節【闇法師ハクビ】
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ハクビには、特殊な才能が在る。
精霊と心を通わせて、同調させる事が出来るのだ。
世にも珍しい能力であったが、彼女は折角の才能を持て余している。故に能力の使い方を知らない。
知らない――と言う事は、使えない事と同異義語ではない。能力を振るえはするが、制御が出来ないのだ。
闇と同化した彼女は、夜に溶け込むような錯覚をする。ハクビは闇の精霊と契約を交わした為、闇属性の魔力を手に入れている。最も全てが無自覚なので、何が出来て、自分が何をしているのかも理解っていない。
ハクビの生まれ育った里は、本当に小さな集落であった。人口数も五十にも満たないほどで、自給自足の生活を送って過ごしてきた。外界との接触を、極端に避けていた。
だけどハクビは、不自由を感じた事はない。それに里の者達も大好きであった。
――里が、燃えている。
見知らぬ二人組の男が、含み笑いを浮かべながら里の者達を殺している。
親しき者達の断末魔の悲鳴が、十五歳の少女の心を無情に掻き乱していく。胸の奥底を、何かが掻き毟っていく感覚に苛まれて、ハクビは苦しくなっていた。
ハクビの全身を、闇色の影が覆う。それはまるで死神の装束のように、ハクビを秘めやかに彩っている。漆黒の鎌が、いつの間にか握られていた。闇夜の月が、美しい音色を奏でている。漆黒の刃が男達を嘲笑うかのように、襲い掛かる。その影はまるで、獰猛な獣であるかの様に男達を喰らっていた。
「駄目ッ……」
か細い声が、闇に消える。
次の瞬間には、闇が飛散して里の者達を襲っている。ハクビの意思に関係なく、闇が暴れ狂っている。
「お願いッ……止めてッ……」
ハクビの胸奥を、悲しみと罪悪感が埋めていく。
「お願いッ……」
ハクビの声は、どこにも届かない。
次々に里の者達が、襲われている。
――殺したくない。誰も、傷付けたくない。お願いだから、誰か助けて。
届かぬ声が、闇に呑まれていく。
「辛いよなぁ……」
優しい声が、ハクビの心を温かく抱擁する。
呼吸も出来ない程の衝撃が、ハクビの胸を締め付けている。
「力の納め方は知らないけど、俺が何処までも付き合ってやる」
眼前の少年は、穏やかな表情で笑い掛けてくれた。
――嬉しかった。不謹慎だけど、嬉しかった。
その頬を伝う涙の意味が解らなくて、ハクビは戸惑っている。気付けばハクビの頬にも、涙が流れていた。
「お願い、逃げてッ……」
一際、大きな力を己の内側に感じて、ハクビは声を振り絞る。
ハクビの周囲を、闇が収束していく。
「大丈夫。この程度じゃ、死なないから」
解き放たれた闇を、少年は刀で払っている。
「疲れ果てるまで、俺と踊ろうッ!」
少年の笑顔が、ハクビの闇を掃っていくのを感じた。
●
「あ~ッ……。めっちゃ、疲れたッ!」
ハクビを抱えながら、少年は叫んでいる。
「あの……降ろして、下さい……」
消え入りそうな声で、ハクビは抗議をするが少年は歩き続ける。
夜明けまで、少年――レウスは付き合ってくれた。
暴走する力を、全て受け止めてくれた。
そして、最後まで話し掛け続けてくれた。
自分の生い立ちや葛藤。ギルドでの自分への仕打ち。どんな物が好きで、何が嫌いかも教えてくれた。
年が自分と同じ十五歳だと言う事も教えてくれた。
「降ろさないッ!」
「どうして、降ろしてくれないんですかッ!」
恥ずかし過ぎて、死にそうだった。
「だって、歩けんやん?」
全身に力が入らない程の倦怠感が、ハクビを襲っている。
「歩けないですけど、置いて行って下さいッ!」
置いて行かれたら、めちゃくちゃ泣くほど、辛いだろう。
だけど、どうせ行く所なんてない。帰れる場所なんてない。
「何で又、泣いてるの?」
「だって……帰る所、ないもん……」
皆を、傷付けてしまった。もう、戻れない。
ハクビは号泣している。
「あ~……うるせぇ、泣くなッ!」
「だって……」
自分は赦されないような事を、してしまった。
取り返しのつかない事を、してしまった。
「こっちが、泣きたいわッ!」
「ごめんなさい……」
「謝るな。怒ってないから!」
「だってぇ~……」
気付いた時には、泣き止んでいた。
「行く所がないなら、俺についてくれば?」
「えっ……?」
レウスの顔を見上げると、レウスもこちらを見ていた。
目が合って、直ぐに視線を逸らす。
「どうせ俺も、今のギルドにしか、居場所ないし。それに……」
そこまで言うと、レウスは言葉を切った。
「それに……なんですか?」
何故だか、期待しているのか、声が少し弾んでいた。
「別に。何でもないから、気にすんな」
ぶっきら棒に、言い放つレウスに、ほんの少しだけハクビは不機嫌な表情を示した。
「もぉ~……やっぱり、降ろして下さいッ!」
●
レウスは不思議な少年だった。
自分と同い年なのに、自分なんかよりも余程に大人だ。初めて里以外の人間――それも、同じ年の異性――と接したが、緊張と驚きの連続である。何故だか、レウスの存在が気になった。だけど、恥ずかし過ぎて直視できないでいる。だから、こっそりと視線を送るのだが、その度に目が合ってしまう。
その度に、慌てふためいて怪訝な顔をされる。
「ごめんなさいッ……」
「何で一々、謝るんだ。もっと、堂々としてれば良い」
元々、ハクビは引っ込み思案で、臆病な性格だ。それに心配性で、自分に自信が持てないでいる。
だから、何でもはっきりと言えるレウスが、凄いと思った。
「どうしたの……?」
レウスが突然、立ち止まった。
「近くに、竜が居る」
身構えるレウスを見て、ハクビは緊張している。
そっと、レウスの横顔を盗み見るが、こちらの視線に気付いていない様子だった。
「来るぞッ!」
剣を引き抜いて、レウスが前に出る。
物凄い勢いで、二つの影が現れる。
「拙者、ハウゾウでござる!」
「ハウタぁ~!」
小さな翼の生えた竜が、人懐っこい笑顔を向ける。
「お前ら、何処に行ってた?」
緊張を解いたレウスが、二頭の竜に問い掛ける。
「パパ上が、急に居なくなったでござる!」
「もぉ~……ハウタ。パパおらんから、寂しかった!」
白い猫みたいな竜が、ハウタと名乗っている。額のピンク色の模様みたいな毛並みが、めちゃくちゃ可愛いらしい。
黒い犬みたいな竜が、ハウゾウと名乗っている。額の白い毛並みがこれ又、可愛いらしい。
「何、この子達。可愛い~!」
思わず、近付いてしまった。
「ハウタ、可愛い?」
「うん。めちゃくちゃ、可愛いよ!」
毛並みがフワフワしてそうで、触りたい。
「お主、誰でござるか?」
真顔で問い掛けるハウゾウが、凛々しいのに可愛い。
「この子は、ハクビ。これから、一緒について来るから、仲良くしてやってくれ」
レウスがぶっきら棒に、二頭に言い聞かせる。
「つまり、拙者たちのママ上でござるなッ!」
「ハウタのママ?」
二頭が目を欄々と輝かせている。
「何で、そうなる?」
レウスが眉を顰めながら、問い掛ける。
「ママ上、良き夫婦に成るでござる!」
「え、夫婦って……あ、あのっ……」
ハクビは顔を赤らめながら、動転の余り言葉に詰まっている。
その様を、興味がないと言った様子で見ていた。
「知らん。勝手にしてくれ」
精霊と心を通わせて、同調させる事が出来るのだ。
世にも珍しい能力であったが、彼女は折角の才能を持て余している。故に能力の使い方を知らない。
知らない――と言う事は、使えない事と同異義語ではない。能力を振るえはするが、制御が出来ないのだ。
闇と同化した彼女は、夜に溶け込むような錯覚をする。ハクビは闇の精霊と契約を交わした為、闇属性の魔力を手に入れている。最も全てが無自覚なので、何が出来て、自分が何をしているのかも理解っていない。
ハクビの生まれ育った里は、本当に小さな集落であった。人口数も五十にも満たないほどで、自給自足の生活を送って過ごしてきた。外界との接触を、極端に避けていた。
だけどハクビは、不自由を感じた事はない。それに里の者達も大好きであった。
――里が、燃えている。
見知らぬ二人組の男が、含み笑いを浮かべながら里の者達を殺している。
親しき者達の断末魔の悲鳴が、十五歳の少女の心を無情に掻き乱していく。胸の奥底を、何かが掻き毟っていく感覚に苛まれて、ハクビは苦しくなっていた。
ハクビの全身を、闇色の影が覆う。それはまるで死神の装束のように、ハクビを秘めやかに彩っている。漆黒の鎌が、いつの間にか握られていた。闇夜の月が、美しい音色を奏でている。漆黒の刃が男達を嘲笑うかのように、襲い掛かる。その影はまるで、獰猛な獣であるかの様に男達を喰らっていた。
「駄目ッ……」
か細い声が、闇に消える。
次の瞬間には、闇が飛散して里の者達を襲っている。ハクビの意思に関係なく、闇が暴れ狂っている。
「お願いッ……止めてッ……」
ハクビの胸奥を、悲しみと罪悪感が埋めていく。
「お願いッ……」
ハクビの声は、どこにも届かない。
次々に里の者達が、襲われている。
――殺したくない。誰も、傷付けたくない。お願いだから、誰か助けて。
届かぬ声が、闇に呑まれていく。
「辛いよなぁ……」
優しい声が、ハクビの心を温かく抱擁する。
呼吸も出来ない程の衝撃が、ハクビの胸を締め付けている。
「力の納め方は知らないけど、俺が何処までも付き合ってやる」
眼前の少年は、穏やかな表情で笑い掛けてくれた。
――嬉しかった。不謹慎だけど、嬉しかった。
その頬を伝う涙の意味が解らなくて、ハクビは戸惑っている。気付けばハクビの頬にも、涙が流れていた。
「お願い、逃げてッ……」
一際、大きな力を己の内側に感じて、ハクビは声を振り絞る。
ハクビの周囲を、闇が収束していく。
「大丈夫。この程度じゃ、死なないから」
解き放たれた闇を、少年は刀で払っている。
「疲れ果てるまで、俺と踊ろうッ!」
少年の笑顔が、ハクビの闇を掃っていくのを感じた。
●
「あ~ッ……。めっちゃ、疲れたッ!」
ハクビを抱えながら、少年は叫んでいる。
「あの……降ろして、下さい……」
消え入りそうな声で、ハクビは抗議をするが少年は歩き続ける。
夜明けまで、少年――レウスは付き合ってくれた。
暴走する力を、全て受け止めてくれた。
そして、最後まで話し掛け続けてくれた。
自分の生い立ちや葛藤。ギルドでの自分への仕打ち。どんな物が好きで、何が嫌いかも教えてくれた。
年が自分と同じ十五歳だと言う事も教えてくれた。
「降ろさないッ!」
「どうして、降ろしてくれないんですかッ!」
恥ずかし過ぎて、死にそうだった。
「だって、歩けんやん?」
全身に力が入らない程の倦怠感が、ハクビを襲っている。
「歩けないですけど、置いて行って下さいッ!」
置いて行かれたら、めちゃくちゃ泣くほど、辛いだろう。
だけど、どうせ行く所なんてない。帰れる場所なんてない。
「何で又、泣いてるの?」
「だって……帰る所、ないもん……」
皆を、傷付けてしまった。もう、戻れない。
ハクビは号泣している。
「あ~……うるせぇ、泣くなッ!」
「だって……」
自分は赦されないような事を、してしまった。
取り返しのつかない事を、してしまった。
「こっちが、泣きたいわッ!」
「ごめんなさい……」
「謝るな。怒ってないから!」
「だってぇ~……」
気付いた時には、泣き止んでいた。
「行く所がないなら、俺についてくれば?」
「えっ……?」
レウスの顔を見上げると、レウスもこちらを見ていた。
目が合って、直ぐに視線を逸らす。
「どうせ俺も、今のギルドにしか、居場所ないし。それに……」
そこまで言うと、レウスは言葉を切った。
「それに……なんですか?」
何故だか、期待しているのか、声が少し弾んでいた。
「別に。何でもないから、気にすんな」
ぶっきら棒に、言い放つレウスに、ほんの少しだけハクビは不機嫌な表情を示した。
「もぉ~……やっぱり、降ろして下さいッ!」
●
レウスは不思議な少年だった。
自分と同い年なのに、自分なんかよりも余程に大人だ。初めて里以外の人間――それも、同じ年の異性――と接したが、緊張と驚きの連続である。何故だか、レウスの存在が気になった。だけど、恥ずかし過ぎて直視できないでいる。だから、こっそりと視線を送るのだが、その度に目が合ってしまう。
その度に、慌てふためいて怪訝な顔をされる。
「ごめんなさいッ……」
「何で一々、謝るんだ。もっと、堂々としてれば良い」
元々、ハクビは引っ込み思案で、臆病な性格だ。それに心配性で、自分に自信が持てないでいる。
だから、何でもはっきりと言えるレウスが、凄いと思った。
「どうしたの……?」
レウスが突然、立ち止まった。
「近くに、竜が居る」
身構えるレウスを見て、ハクビは緊張している。
そっと、レウスの横顔を盗み見るが、こちらの視線に気付いていない様子だった。
「来るぞッ!」
剣を引き抜いて、レウスが前に出る。
物凄い勢いで、二つの影が現れる。
「拙者、ハウゾウでござる!」
「ハウタぁ~!」
小さな翼の生えた竜が、人懐っこい笑顔を向ける。
「お前ら、何処に行ってた?」
緊張を解いたレウスが、二頭の竜に問い掛ける。
「パパ上が、急に居なくなったでござる!」
「もぉ~……ハウタ。パパおらんから、寂しかった!」
白い猫みたいな竜が、ハウタと名乗っている。額のピンク色の模様みたいな毛並みが、めちゃくちゃ可愛いらしい。
黒い犬みたいな竜が、ハウゾウと名乗っている。額の白い毛並みがこれ又、可愛いらしい。
「何、この子達。可愛い~!」
思わず、近付いてしまった。
「ハウタ、可愛い?」
「うん。めちゃくちゃ、可愛いよ!」
毛並みがフワフワしてそうで、触りたい。
「お主、誰でござるか?」
真顔で問い掛けるハウゾウが、凛々しいのに可愛い。
「この子は、ハクビ。これから、一緒について来るから、仲良くしてやってくれ」
レウスがぶっきら棒に、二頭に言い聞かせる。
「つまり、拙者たちのママ上でござるなッ!」
「ハウタのママ?」
二頭が目を欄々と輝かせている。
「何で、そうなる?」
レウスが眉を顰めながら、問い掛ける。
「ママ上、良き夫婦に成るでござる!」
「え、夫婦って……あ、あのっ……」
ハクビは顔を赤らめながら、動転の余り言葉に詰まっている。
その様を、興味がないと言った様子で見ていた。
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