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沼女神

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 願いを叶えてくれる底なし沼が深い森の中にある。そんな噂を聞いた俺は噂の中でも特に信ぴょう性がありそうな樹海を一人探検した。
 完全に道に迷ってしまった。このままでは死んでしまうかもしれない。いや、もしもの時は森に放火して消防隊が出動するのを待ってその時に助けてもらおう。とか、いよいよ思考がやばい方向に傾きかけたその時、視界の先に反射する物があった。急いでその場へと向かう。
「あった。ようやく見つけたぞ。これが探していた底なし沼だ」
 沼の前に立つと、沼から神秘的な光を纏ったロングの茶髪でコギャル風の髪にエクステとか付けていて、ネイルを施した女神? が浮かんできて沼の真ん中の空中一メートルぐらいで止まった。
「ちーっす」
「ちゃらいな」
 思わず俺は言った。
「久方ぶりの客人だなー。暇だからとても嬉しいな。何か話しよう?」
「断る」
 俺はここに来るまでくたくたになって、もう歩くのもしんどいぐらいなのだ。だから単刀直入に聞いた。
「願いを叶えてくれるって聞いたのだが」
「それ目的? まあいいけどね」
「どんな願いでも叶えてくれるのか?」
「なわけないっしょ」
「何だと? じゃあどんな願いなら叶えてくれるのか」
「じゃあ、一文字漢字選んで私に言ってよ。その漢字が入った贈り物を定期的にあんたにあげるから」
「よく意味が分からない」
「だから、あんたが女って漢字を選んだら私があんたの元に定期的に女を送る。そんな感じー」
「なるほど。それはとても面白い。少し考えさせてくれ」
「あんた、さっき私の話に付き合ってくれなかったじゃん。だからあんたにも考える時間は与えない。それでおあいこっしょ。10秒で決めて」
「ぐっ」
 まさか先ほどの女神と暇つぶしの会話をしなかった事が、漢字選択時間に影響を与えるとは。そういう仕組みなのか? まあいい。今は時間がないのだ。その考えは後にしよう。女か。その選択肢は悪くない。しかし送られてくる女全てが相性が良いとは限らない。そして女だけ増えて行っても金がかかる。女とはそういう生き物だ。
「俺が選んだ漢字は金だ」
「それで良いのね」
「もう決めた事だ。この世は金が全てだ」
「じゃあ、もう私は帰るから。楽しみに待っていてね」
 そう言って女神は沼へとずぶずぶ帰り始めた。
「ちょっと待て。俺を家まで送ってくれたりしないのか? 俺は道に迷ってしまったんだ」
「森に火を放って助けに来てもらえば?」
 まさか女神が俺と同じ思考回路をしているとは。それとも俺の考えを読んだとか? まあそんな事はどうでもいいが、もし俺と同じ思考回路を持っている女神だったとしたら何だか、願いもあまり期待は出来ない。というより不安で一杯である。
 そして女神は沼へと消えて行った。
「全く。災難だったぜ」
 何とか樹海から抜け出たは良いが、餓死寸前で一週間も彷徨ってしまった。木についた水分を補給して何とか生き延びる事が出来た。
 すぐさま、コンビニでおにぎりとコーラを買い、コーラでおにぎりを胃の中へと流し込むようにして食べた。
「はあっ。助かった」
 そして何とか気力を振り絞って家へと帰った。
 鍵を開け、玄関を開けると眩い光が飛び込んできた。
「金塊だ!」
 さっそく、女神からの贈り物第一弾だ。
 やはり金という漢字にして間違いじゃなかった。
 そして女神からは月に一度、金の付く物が送られてきた。
 翌月には現金が送られてきた。その額1000万円。
 更に翌月には金槌が送られてきた。
「今回はハズレだな」
 当たりが続く事もあれば、ハズレが続く事もあったが、俺はそれすらも楽しみになっていた。なぜならば既に金は腐る程手に入れたからだ。
 そしてまた、女神から金が付く物が送られてくる日がやってきた。
「先月はハズレだったから今度は当たりだと良いな」
 すると家の外で大きなズシンという音が聞こえた。
「これはもしかしたら大当たりかもしれないぞ」
 俺ははやる気持ちを抑えながら玄関を開けた。
「おいおい、これは……大ハズレじゃないか」
 外には金閣寺が建っていた。
 俺の家の周りがいくら空き地だらけだからって金閣寺を置くなよ。というかこれもしかして本物じゃないのか?
 すぐさま、噂が広まり俺はその後、一夜にして金閣寺を盗んだ犯人に仕立て上げられ、全ての財産を失い次の月の金は借金という形となって金が送られてきた。
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