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動物園と美術館

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「明日は誕生日だ!」
 僕は友達未満知り合い以上の男に何の感情も無く言った。
 別に祝って欲しい訳ではなく、普段死んだ魚の目をしている彼がどんな反応を示すのか、自分に対してどのぐらいの興味を持っているのかを探る為の言葉のキャッチボールならぬデッドボールを彼に喰らわせたつもりだった。
 しかし彼の反応は予想外のもので、目がキラキラとお星様の様に輝いているではないか。
「おめでとう! これでお前も大人に仲間入りだな」
 確かに大人になった僕だけどそこまで喜んでくれるとは正直思っていなかったので、戸惑いと共に疑念と違和感を感じた。
「なあ、明日日曜日だろ? お前の事だ。どうせ暇だろ一生」
 なんて事をさらりと言う男なのだろうか。確かにこのままだと一生日曜は暇かもしれないが。
「動物園とか美術館とか回らない?」
 意外だった。彼が死んだ魚の目を普段しているアンドロイドかと時折間違う様な彼が動物を好きだったとは。美術館にしても彼に芸術を愛でる感性があるとは到底思ってもいなかったからだ。しかし、それは僕の間違いだったのだろうか。僕の目は節穴だったのだ。僕は今までの自分自身を後悔すると共にこれからの人生を航海すると心に決めて上手いこと言ったと心の中で思った。 
 そして日曜日、僕は彼に連れられて歌舞伎町へと向かった。
薄暗い灯りの中『生まれたままの人間の生態が見られる動物園と人間美術館』とピンクの灯りの看板に書かれていて彼は迷わずその中へと入っていった。
 うん。確かに人間も動物だし、芸術だ。
 彼は死んだ魚の皮を被ったピラニアだったのだ。
 僕は果たしてどうなのだろうか。
 それは動物園と美術館を鑑賞してから判断しよう。
 僕の自分自身の本性が垣間見えるかもしれない時を少し楽しみに動物園に入った。
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