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刹那背ツナ

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「これはどの部分ですか?」
「これはマグロの背中ですね」
 寿司屋で尋ねたら、大将が答えた。
「マグロの一生は数十年で泳ぎ続けなければいけない魚です。一瞬を駆け抜けている魚なんですよ」
「刹那に生きているんですね」
「そうですね。まあ人間も宇宙の時間から見たら刹那の時間を生きているのでしょうがね」
「そうですね。このマグロも刹那の時間に生きている。つまりこの刹那の魚の背ツナを食べている、と」
「え、ええ。まあツナと言ってもカツオなどを含んでいたりする場合もあるのですが」
「えっ、そうなのですか? ツナはずっとマグロだとばかり思っていました」
「缶詰の原材料見たら、マグロの場合もありますけどカツオと書かれている場合もありますよ」
「今度見てみます。今日はこの寿司屋に来て美味しい食事をいただけると共に勉強にもなりました。刹那の出会いにならない様にこれからもまたここに通わせてもらいます」
 背ツナもとい背マグロの部分を食した俺は大満足で寿司屋を後にしたのであった。
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