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ランチタイムに入った。

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「ほら、弁当タイムにしましょう」
「やった。腹減ってたんだ俺」
「弁当とは……聞いた事はある伝説の食べ物」
「どうして弁当が伝説の食べ物になるのよ」
「いや、俺には縁のない食べ物だから」
 三孤が言うと、魔女は三孤の頭を撫でた。
「寂しかったのね」
「いや、そういうわけではないが、なぜか胸が締め付けられる思いだ」
「それはね。愛に飢えている証なのよ」
「あいうえ、おとこなのか俺は」
「さあ、食べましょう。まずはアボカドよ。森のバターと呼ばれているわ」
「普通のバターが食べたいのだが」
「三孤。めっ、贅沢言わないの」
「すまない。魔女よ」
「そしてこれが海のミルクと呼ばれている牡蠣よ」
「普通のミルクはないのか?」
「ないわよ。我儘ね。三孤は」
「そして畑の肉と呼ばれている大豆もあるわ」
「普通の肉はないのか?」
「何なの? 喧嘩売っているの?」
「違う。そういうわけではない。ただ本当の物が食べたいだけだ」
「私の弁当が偽物だって言うの?」
「すまない。傷つけるつもりはなかった」
「いやいや、普通にアボカドと、牡蠣と大豆が弁当に入っているよ、で良かったじゃん。変に森のバターとか言うから、蜂人間も普通の物が食べたいと思ってしまったんじゃないかな」
「確かにそうね。私の不徳の致す所だわ。無理に何かシャレたような言い方をしようとしたのが間違いね。ごめんね。三孤」
「いや、良いんだ。こちらこそ、すまなかった」
「それにしてもアボカドと牡蠣と大豆の弁当……斬新だ」
「何か言った?」
「いや、何も言っていないし、何も考えてもいない」
 魔女のどこか怒気を含んだ言葉に、気圧されて魔男は必死に誤魔化そうとした。
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