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ダンジョンに潜った。

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 ダンジョンを潜り始めると、最初は観光客ととすれ違っていたのだが、段々と人気もない感じになって来た。
「まあ、観光客がダンジョンの最下層まで行くわけないしな」
「そうね。でもこのダンジョンは地図が売られているぐらいだからダンジョン自体は解明されているはずよね」
「ああそう思う」
「でも、それにしては結構嫌な空気感あるわよね」
「まあ、確かに」
 頭光る魔法で人間の頭全体を光らせ、懐中電灯不要の魔法で進む一行。その魔法にかかっていない小人鬼は魔女と魔男の頭の光を見て、この人達とてもユニークだ、と思ったと共にある種の変人同士相性が良さそうって思った。
「聞こえているわよ。久方ぶりに使ったテレパシーでね」
「久しぶりに使ったテレパシーのタイミングの精度!」
 小人鬼は冷や汗と脇汗が吹き出し、魔女に謝った。
「良いのよ。別に。私自身変人だと自覚しているから、そして魔男もね」
「俺もかよ!」
「当然よ。あなたが変人でなければ誰が変人なのよ。むしろあなただけがこの世界で変人なのよ」
「それは言い過ぎだ。ぐすん」
 魔男が泣いたふりをした。
「それよりも何で私達付けられているのよ」
 魔女は振り向いて言った。
 すると、「おやおやばれましたか」とランタンを点けて照らされた顔は先ほどの茶屋の店主だった。
「あなた、どういうつもり? 私達とやるつもり?」
「いえいえ、めっそうもない。忘れ物をしていたので、急いで追いかけて来たのですよ」
「嘘付きなさい。忍び足で付いて来たくせに」
「本当ですよ。これをあなた達はお店に置きっぱなしにしたので届けに参った次第です」
 そう言って店主が取り出したのは一本の毛だった。
「これをお忘れです」
「それはただの抜け毛よ」
「では捨てても?」
「むしろ拾うな。怖いわ」
「それはそれは、ではこれで失礼します。いやついでに私もこのダンジョンを散策するとしますか」
「お店は良いの?」
「ええ、バイトの美代ちゃんに任せて来ていますから」
「料理は良いの?」
「ええ、バイトの和気ちゃんが得意ですから」
「そう、あなたが良いのならそれでいいわ。でも監視でも何でも構わないけど、私達の半径50メートル以内には近づかないでね」
「それはそれはお厳しい」
「だって、何だか不気味だから」
「武器見に来ただけですよ」
「誰のよ」
「駄洒落です」
「会話するのも面倒臭いからもう話しかけてこないで。これ以上近づくとあなたの店に二度と入らないわよ」
「ぬ、ぬるいなあ」
 魔男が緩く突っ込む。
「だって、茶屋としてはとても気に入ったから」
「先ほどの料理は私が作りました。私こう見えても0、5星のシェフなんですよ」
「いや、そんな星ある事自体初めて聞いたけど」
「でも、和気ちゃんが腕を振るうと0、7星のお店になるんです」
「ずいぶん刻む星があるのね、それじゃあ星というより、スターというよりズタズターって感じね」
「し、失礼な!!」
 急に激怒する店主。どうやら星を貰っている事に対するプライドはあるようだ。
「ご、ごめんね。でもあなたもそんなプライド持ちながら、私達を監視したりしてもっと自分のやっていることを鑑みてごらんなさいよ。自分のやっている事が恥ずかしく感じられるはずだわ」
「そんな事はないです。はうっ、しょうがない。全て白日の下に晒します。実はこのダンジョンには伝説の魔法の杖が眠っているのです」
 茶屋の主人はやっちゃったちゃやみたいな感じで言った後、こうならったら全部言うぞみたいな感じで包み隠さず罪隠さずのオープンマインドで話し始めた。
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