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火竜、意志に質問する。

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「だけど、ここが外と比べてどのぐらい時間が緩やかなのか分からない事には不安が残るよな」
 火竜が言うと、目の前に看板が現れた。
『ここから無事脱出出来た時、時間経過は中に入ってから数分の出来事であろう』
「どうして俺の考えていた事の答えが看板になって現れるんだ? これはこの場所は魔法の中なのか?」
 すると再び看板が目の前に現れた。
『その通り。ここは魔法で作られた場所だ。しかしこの中で死ぬ事はすなわち現実でも死ぬ事と同じ。ここは魔法世界でもあり現実世界なのだ。餓死もするし、戦闘や怪我で死ねばそこでゲームオーバーだ』
「なるほどね。お遊びじゃないって事だな」
 火竜は看板が質問に答えてくれるのをイメージしながら「いつまでこの場所で生きればいいんだ?」と聞いた。
 すると看板がまた現れた。
『ここは進化にふさわしいドラゴンかどうかを試す場所であると同時に磨く場所でもある。なのでいつまでという答えはない。この場所はドラゴンが生まれた時、古代魔術師が作った神聖な場所である。新しいドラゴンが誕生するたびにこのような場所は自動魔法によって自動更新されて行く』
「つまりはドラゴンの数だけカプセルがあるって事なんだな。ずいぶんとドラゴンに優しい場所なんだな」
『この場所を作った魔術師は最初に誕生した種のドラゴンと共に行動をし、暮らしていた。だからドラゴンを愛し、ドラゴンに愛された。魔術師はどんなドラゴンも進化の術があるべきだと考えた。今後生まれ行くかもしれない新しいドラゴンにも』
「なるほど、魔術師の自己満足って奴か。まあ大体の事は分かったよ。ありがとう。この俺の質問に答えてくれている意志……これは魔術師、あんたの意志なんじゃないか?」
『確かにこの意志は魔術師の意志その物である。ドラゴンの為に最後の魔法で自らがドラゴンを導く天の声になったのだ。ただドラゴンの為だけに尽くす意志その物だ』
「ありがとよ」
 火竜は呟いた。
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