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刀彼方

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 侍は自分に合う刀を探していた。
 武具屋に入ると、店の者に聞いた。
「わしに合う刀は無いか?」
「どんな刀が希望かな」
 店の者は髭を撫でながら侍を一瞥して言った。
「妖刀が欲しい」
「なぜそんな物を欲しがるのかは聞かないでおこう。残念ながらここには妖刀はない。彼方の村にあると噂には聞いた事があるが」
「その場所を教えてもらいたい。
「金なら幾らでも出す」
「では有り金全部見せてもらおうか」
 店主のどこか脅しにも似た言葉だったが、侍は素直に有り金を全部差し出した。
 それは金貨で、まるで埋蔵金のごとき量だった。
「どこに持っていたんだ。そんな金を」
 店主は驚いて空いた口が塞がらなかった。
「これで足りるか」
「もちろんだ。しかしこれだけの金をもらってただ場所を教えるだけでは、申し訳ない。私が案内しよう」
「場所は知らないんじゃなかったのか?」
「いや実は知っている。何せ妖刀を隠したのは私だからな。妖刀は使い手が悪ければ相手を呪うから、使わせたくなかったのだよ」
「なるほどな」
 店主は自ら作って隠した妖刀を取りに侍と一緒に生まれ故郷の村へと向かった。
「ここが私が生まれた生家だ。そしてこれが妖刀だ」
「ありがとうな。そして死ね」
 妖刀を手にした侍は店主に切り掛かった。金も払うつもりは無かったのだ。
「むう。やはり妖刀を好む者は碌な者がおらんな」
 店主は妖刀を作った際に亡くなっていて、幽霊として妖刀の存在を守っていたのだ。
「妖刀を渡してあの世に金を持っていければと思ったのだが、どうやら持って行けるのは一つだけの様だな」
 店主は妖刀を手にした。
 そして満足げに妖刀と共に天に召されて行った。
 地獄に行ったのか、天国に行ったのかは誰にも分からない。
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