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アナグラム

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 古民家に住んでいる僕はある日、離れの蔵の奥深くに金庫があるのを発見した。この蔵は死んだお爺ちゃんが管理していたのでこの金庫もお爺ちゃんの物だろう。
 その金庫は頑丈で簡単には開かなかったけど、十時間ぐらいダイヤルを回していたらふとした拍子に金庫が開いた。
「うおっ、やった。まさか開くとは思わなかった。もしかしてこの中に金銀財宝が眠っていたりして」
 興奮を抑えきれない僕は、金庫をそっと、でも気持ちは鬼の様な乱暴な気持ちで開けた。
 そこには‘最初の暗号’と上部に書かれた一枚の紙があり、中央に「楽しきワニの」とでっかい文字で書かれていた。楽しきワニの……? 意味が分からなかった。
 お爺ちゃんはワニなんか好きではなかったはずだ。いや紙の上部に暗号と書かれているではないか。お爺ちゃんは昔からなぞなぞとかが大好きだった。多分これはお爺ちゃんが僕がこの紙を発見した時の遊びを用意してくれていたんだろう。でも金庫の中にあった紙だ。暗号を解けばもしかしたら宝に辿り着けるかもしれない。
 そして、しばらく暗号を考えた結果、ふとアナグラムというのをパッと閃いた。昔お爺ちゃんとアナグラムで遊んだ事があったのだ。
「なるほど、アナグラムか」
 アナグラムとは言葉遊びの一つで、文字を入れ替えて別の意味にさせる遊びだ。
 アナグラムとして考え、「楽しきワニの」を「たのしきわにの」にしてから入れ替えて行くと「にわのきのした」になる。つまり庭の木の下だ。
 僕の家の庭にはいくつも木があるけど、庭に中央に一本でかい桜の木が立っている。昔、お爺ちゃんとよくその桜の木を使って鬼ごっこや隠れん坊、達磨さんが転んだなどをして遊んだ事を思い出し、その桜の木の下を掘ってみる事にした。
 桜の木の根の周りをシャベルで掘って行くと、数時間後、地面の中からまるでタイムカプセルのような密閉された箱が見つかった。その箱を手に取り、工具で開ける。
 中にはまた紙が入っていてその紙の上部には‘最後の暗号’と書かれていて、紙の中央には「奈良はグアム」と書かれていた。
 最後の暗号……つまりこれを解いたら宝にありつけるという訳だ。というか簡単すぎだろ。まあ多分最初から解かせる事が目的で、死んでなお、天国のお爺ちゃんと僕が遊べるように作った最後の遊びなのだろう。付き合ってやるか。それに宝も気になるし。
「奈良はグアム」を「ならはぐあむ」にして文字を入れ替えると「アナグラムは」になってしまい振り出しに戻ってしまった。いや違う。良く良く考えた結果、僕はある事を思い出したのだ。
 僕が小さかった頃、お爺ちゃんの穴掘りを手伝ったことがある。いや、正確には穴倉を作るのを。つまり答えは「アナグラムは」ではなく「穴倉ハム」。つまり穴倉にはハムが眠っているという事なのだろう。多分保存の効く燻製か何かのハムが。
 僕は子供の頃お爺ちゃんと一緒に作った穴蔵を見つけると、その穴倉へと入った。そして穴倉の中でハムを探した。しかし穴倉の中にはハムだけじゃなく何も無かった。そこで僕はようやく気づいた。
「アナグラハム」を僕は「穴倉ハム」だとばかり思っていたけど、答えは「穴倉は無」つまり穴倉には何も無いって事だ。お爺ちゃん……それはあんまりだよ。
 がらんどうの穴倉の中で、僕は大きくため息を吐き出した後、天国にいる、いたずらが大好きだったお爺ちゃんを思い出して、ははっと笑ったのであった。

 
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