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四章 前を向いて
14.由依との対面
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山岸由依は宝石のようにきらきらと目を輝かせて、初めて会う芙季子を見つめてくる。
湧き上がってくる好奇心を抑えられない、という表情をしていた。まるで子猫のようだった。
「由依ちゃん、この人はね、あの記事を書いた記者さんよ。由依ちゃんを助けてくれた人なのよ。お礼を言いましょうね」
「こんにちはぁ」
母親に促され、山岸由依がにこやかに挨拶をしてくる。
芙季子も挨拶を返す。母親、沙都子の娘への接し方に違和感を抱きながら。
親子は手を繋いで現れた。母親譲りだとわかる癖毛の髪。鼻や口は母親に似つつも、橘宏樹によく似たくりくりの丸い目をしていた。
由依が背負っていたリュックを沙都子が下してやり、母の隣にちょこんと座った娘のマフラーを取ってやっていた。上着までも母親が脱がしていた。乱れた髪も整えてやって。
飲み物の希望を訊かれて、オレンジジュースを頼んだのも母親だった。
美智琉を見ると、微笑ましいとは程遠い表情で親子を見つめていた。
沙都子の接し方を見るだけで過保護だとわかる。
山岸家の周辺取材で、愛情の注ぎ方がまるでペットに対するようだと聞いたことを思い出した。
「週刊誌って、暇つぶしでしかなくて、まさか自分たちがその暇つぶしの道具になる日がくるなんて思いもしてなかったんです。うちの娘が悪くないことを大村さんが突き止めてくれたと、小坂先生から聞いて、週刊誌への見方が変わりました。うちの由依を助けてくださってありがとうございました」
頭を下げた母親を見て、由依も真似をするように下げた。
「わたしは、真実を追求しただけです。間違った情報は正さなければいけないと考えています」
芙季子は本心を告げた。感謝されたいからしたわけではない。
「記者会見は、パフォーマンスだったがやって良かった。事務所が許可を出したことには驚いたが、社長が全面に出て質問に答えた事で、文書より誠意は伝わった」
「もし事務所が許可しなかったら、どうしていたんですか」
「私一人でもやっていたよ。依頼人の利益を守るのが私の仕事だからな」
「加害者に向いていた世間の目は、宮前側に向きましたから。亜澄さんが心配です。周囲がきちんとケアをしてあげないと」
「亜澄ちゃん、元気なのかなぁ? また会えるかなぁ?」
亜澄の名前が出ると、由依は反応した。
「会いたい?」
「うん。亜澄ちゃんがたくさん血を流して倒れた時、もう二度と会えないんだぁって思って悲しくなって、由依も一緒のところに行こうって思ったの」
由依は思い出したのか、ぐずぐずと鼻を啜りだした。
「それであなたも自分にナイフを向けてしまったのね」
「すごぉく痛かった。怖かった。亜澄ちゃんも苦しそうだった。亜澄ちゃんにごめんねって謝りたいの」
「亜澄さんも、あなたを巻き込んでしまったことを後悔していたわ」
「亜澄ちゃん、毎日泣いてたの。もうお仕事したくない、辞めたい、でも言えないって。何とかしてあげたかったけど、何をしてあげたらいいのか由依にはわかんなくて」
由依は今にもうえーんと声を上げて泣き出しそうだった。
「それでお願いされて引き受けちゃったのね」
「うん。由依にしてあげられることが出来たぁって、嬉しくなっちゃって」
「しちゃいけないことってわからなかった?」
「あの時はわからなかった。でも今はわかるよ。亜澄ちゃんと一緒にいられなくて、すごぉく寂しいの」
「どうすれば助けてあげられたか、違う方法を考えた?」
「考えた。先生に相談するとかぁ、亜澄ちゃんのママに一生懸命に言ったらわかってもらえたかもって」
「もし、これから先、由依さんの大切な人が悩んでいたら、どうしてあげたい?」
「その時にならないとわかんないけどぉ、亜澄ちゃんの時みたいなことはしない」
涙を流すのは堪えた。
よく頑張って堪えたと、褒めてやりたい心境になる。
「亜澄さんの命が助かって良かったわね」
「うん」
由依と話していると、小学生と対している気分になる。挙動や言葉が、15歳にしては稚拙だ。
ティッシュを渡して洟をかむように勧めている母親を見て、過保護になってしまうのも、わかる気がした。
美智留が処分の内容を教えてくれる。
「由依さんへの処分は、保護観察が下された。社会と触れながら、更生を目指すことになる」
「今までどおりの生活に戻るんですか」
「いや、元警察官の保護司と生活をする。今通っている高校は退学して、来年別の高校を受験する」
「退学するんですか」
頑張って入った高校を中退し、親元を離れて保護司と生活。
予想外だった処分に驚いたが、親元を離れた方がいいとは芙季子でも思った。
「勉強についていけてないんだ。宮前亜澄のお陰でなんとかなっていたが、本人の負担が大きい。由依さんの場合は同年齢で進級するより、由依さんのレベルに合わせてゆっくりと進めた方がいい」
「亜澄さんと、今後会う事は許されないんですか」
「今は、会わない方がいいだろう。お互い再会を目標に、それぞれに必要な事を学ぶ時期だ」
「そうですね。目標があると人は頑張れますから」
「手紙のやりとりは可能だから、私が間に入るよ」
「先輩に入ってもらえると、安心です」
「自業自得とはいえ、残酷な現実に立ち向かわないといけないのは、宮前亜澄も一緒だからな。拒否されない限りは、関わってみるよ」
湧き上がってくる好奇心を抑えられない、という表情をしていた。まるで子猫のようだった。
「由依ちゃん、この人はね、あの記事を書いた記者さんよ。由依ちゃんを助けてくれた人なのよ。お礼を言いましょうね」
「こんにちはぁ」
母親に促され、山岸由依がにこやかに挨拶をしてくる。
芙季子も挨拶を返す。母親、沙都子の娘への接し方に違和感を抱きながら。
親子は手を繋いで現れた。母親譲りだとわかる癖毛の髪。鼻や口は母親に似つつも、橘宏樹によく似たくりくりの丸い目をしていた。
由依が背負っていたリュックを沙都子が下してやり、母の隣にちょこんと座った娘のマフラーを取ってやっていた。上着までも母親が脱がしていた。乱れた髪も整えてやって。
飲み物の希望を訊かれて、オレンジジュースを頼んだのも母親だった。
美智琉を見ると、微笑ましいとは程遠い表情で親子を見つめていた。
沙都子の接し方を見るだけで過保護だとわかる。
山岸家の周辺取材で、愛情の注ぎ方がまるでペットに対するようだと聞いたことを思い出した。
「週刊誌って、暇つぶしでしかなくて、まさか自分たちがその暇つぶしの道具になる日がくるなんて思いもしてなかったんです。うちの娘が悪くないことを大村さんが突き止めてくれたと、小坂先生から聞いて、週刊誌への見方が変わりました。うちの由依を助けてくださってありがとうございました」
頭を下げた母親を見て、由依も真似をするように下げた。
「わたしは、真実を追求しただけです。間違った情報は正さなければいけないと考えています」
芙季子は本心を告げた。感謝されたいからしたわけではない。
「記者会見は、パフォーマンスだったがやって良かった。事務所が許可を出したことには驚いたが、社長が全面に出て質問に答えた事で、文書より誠意は伝わった」
「もし事務所が許可しなかったら、どうしていたんですか」
「私一人でもやっていたよ。依頼人の利益を守るのが私の仕事だからな」
「加害者に向いていた世間の目は、宮前側に向きましたから。亜澄さんが心配です。周囲がきちんとケアをしてあげないと」
「亜澄ちゃん、元気なのかなぁ? また会えるかなぁ?」
亜澄の名前が出ると、由依は反応した。
「会いたい?」
「うん。亜澄ちゃんがたくさん血を流して倒れた時、もう二度と会えないんだぁって思って悲しくなって、由依も一緒のところに行こうって思ったの」
由依は思い出したのか、ぐずぐずと鼻を啜りだした。
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「亜澄さんも、あなたを巻き込んでしまったことを後悔していたわ」
「亜澄ちゃん、毎日泣いてたの。もうお仕事したくない、辞めたい、でも言えないって。何とかしてあげたかったけど、何をしてあげたらいいのか由依にはわかんなくて」
由依は今にもうえーんと声を上げて泣き出しそうだった。
「それでお願いされて引き受けちゃったのね」
「うん。由依にしてあげられることが出来たぁって、嬉しくなっちゃって」
「しちゃいけないことってわからなかった?」
「あの時はわからなかった。でも今はわかるよ。亜澄ちゃんと一緒にいられなくて、すごぉく寂しいの」
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「考えた。先生に相談するとかぁ、亜澄ちゃんのママに一生懸命に言ったらわかってもらえたかもって」
「もし、これから先、由依さんの大切な人が悩んでいたら、どうしてあげたい?」
「その時にならないとわかんないけどぉ、亜澄ちゃんの時みたいなことはしない」
涙を流すのは堪えた。
よく頑張って堪えたと、褒めてやりたい心境になる。
「亜澄さんの命が助かって良かったわね」
「うん」
由依と話していると、小学生と対している気分になる。挙動や言葉が、15歳にしては稚拙だ。
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美智留が処分の内容を教えてくれる。
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