37 / 93
最期の贈り物――橘 修(享年55歳)
15. 贈り物
しおりを挟む
日曜日のお昼前、突然鳴り響いたチャイムの音に驚いたのか、貴子の肩がびくりと跳ねた。
カメラ付インターホンには宅配業者の制服を着た若い男性が写っていた。
元気な声で挨拶をしていく青年から少し重みのある荷物を受け取り、玄関に戻りがてら、送り主の名前を見て貴子は目を丸くした。
「伸次! 伸次!」
二階にいる息子を呼び、居間でダンボールの梱包を解いていく。
降りてきた伸次の目の前で、取り出された物は、
「水槽・・・・・・?」
三十センチほどのほぼ正方形の水槽とともに、土や水草、ろ過装置やライトなど、アクアリウムのセットが居間に広げられた。
ご丁寧に「アクアリウム入門」なんて本まで同梱されていた。
「誰から?」
「お父さんから」
「・・・・・・は?」
伸次はダンボールに貼ってある伝票を確認する。たしかに「橘 修」と書いてある。
修が倒れてから半月ほど経っている。日付指定の便でもなさそうだった。誰かが修の名前を書いて送ったのだろうか。
「あら、手紙」
荷物と一緒に取り出していたらしく、絨毯の上に二通の封筒が落ちていた。貴子が拾い上げる。
一通は貴子宛、もう一通は伸次宛のものだった。
封は糊付けされておらず、便箋はすぐに取り出せた。
貴子は自分宛の手紙を読み終えると、穏やかな表情で手紙を愛おしそうに胸に抱き寄せ、「修さん・・・・・・」と小さく呟く。その頬に涙がすーっと流れ落ちた。
伸次は何度か読み直したのか、終始難しい顔をしながら貴子より時間をかけて読み終えると、手紙を封筒に直してちゃぶ台に向かった。貴子も頬を拭い伸次に続く。
まるでお供えでもするかのように二通の手紙を位牌の前に置き、二人は手を合わせた。
「父さん、何だって」
「私に看取られて人生を終えることが夢だって」
「夢叶ったじゃん」
「ほんとね。私、お父さんと伸次と、家族になれて良かったわ」
「ここに居るのかな」
「きっと見守ってくれてるわよ」
貴子がふふっと微笑んだ。修が亡くなってから初めて見せた笑みだった。
カメラ付インターホンには宅配業者の制服を着た若い男性が写っていた。
元気な声で挨拶をしていく青年から少し重みのある荷物を受け取り、玄関に戻りがてら、送り主の名前を見て貴子は目を丸くした。
「伸次! 伸次!」
二階にいる息子を呼び、居間でダンボールの梱包を解いていく。
降りてきた伸次の目の前で、取り出された物は、
「水槽・・・・・・?」
三十センチほどのほぼ正方形の水槽とともに、土や水草、ろ過装置やライトなど、アクアリウムのセットが居間に広げられた。
ご丁寧に「アクアリウム入門」なんて本まで同梱されていた。
「誰から?」
「お父さんから」
「・・・・・・は?」
伸次はダンボールに貼ってある伝票を確認する。たしかに「橘 修」と書いてある。
修が倒れてから半月ほど経っている。日付指定の便でもなさそうだった。誰かが修の名前を書いて送ったのだろうか。
「あら、手紙」
荷物と一緒に取り出していたらしく、絨毯の上に二通の封筒が落ちていた。貴子が拾い上げる。
一通は貴子宛、もう一通は伸次宛のものだった。
封は糊付けされておらず、便箋はすぐに取り出せた。
貴子は自分宛の手紙を読み終えると、穏やかな表情で手紙を愛おしそうに胸に抱き寄せ、「修さん・・・・・・」と小さく呟く。その頬に涙がすーっと流れ落ちた。
伸次は何度か読み直したのか、終始難しい顔をしながら貴子より時間をかけて読み終えると、手紙を封筒に直してちゃぶ台に向かった。貴子も頬を拭い伸次に続く。
まるでお供えでもするかのように二通の手紙を位牌の前に置き、二人は手を合わせた。
「父さん、何だって」
「私に看取られて人生を終えることが夢だって」
「夢叶ったじゃん」
「ほんとね。私、お父さんと伸次と、家族になれて良かったわ」
「ここに居るのかな」
「きっと見守ってくれてるわよ」
貴子がふふっと微笑んだ。修が亡くなってから初めて見せた笑みだった。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント100万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
Zinnia‘s Miracle 〜25年目の奇跡
弘生
現代文学
なんだか優しいお話が書きたくなって、連載始めました。
保護猫「ジン」が、時間と空間を超えて見守り語り続けた「柊家」の人々。
「ジン」が天に昇ってから何度も季節は巡り、やがて25年目に奇跡が起こる。けれど、これは奇跡というよりも、「ジン」へのご褒美かもしれない。
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
☘ 累計ポイント/ 180万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
さよなら、私の愛した世界
東 里胡
ライト文芸
十六歳と三ヶ月、それは私・栗原夏月が生きてきた時間。
気づけば私は死んでいて、双子の姉・真柴春陽と共に自分の死の真相を探求することに。
というか私は失くしたスマホを探し出して、とっとと破棄してほしいだけ!
だって乙女のスマホには見られたくないものが入ってる。
それはまるでパンドラの箱のようなものだから――。
最期の夏休み、離ればなれだった姉妹。
娘を一人失い、情緒不安定になった母を支える元家族の織り成す新しいカタチ。
そして親友と好きだった人。
一番大好きで、だけどずっと羨ましかった姉への想い。
絡まった糸を解きながら、後悔をしないように駆け抜けていく最期の夏休み。
笑って泣ける、あたたかい物語です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる