【完結】午前2時の訪問者

衿乃 光希

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最期の贈り物――橘 修(享年55歳)

15. 贈り物

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日曜日のお昼前、突然鳴り響いたチャイムの音に驚いたのか、貴子の肩がびくりと跳ねた。
カメラ付インターホンには宅配業者の制服を着た若い男性が写っていた。
元気な声で挨拶をしていく青年から少し重みのある荷物を受け取り、玄関に戻りがてら、送り主の名前を見て貴子は目を丸くした。
「伸次! 伸次!」
 二階にいる息子を呼び、居間でダンボールの梱包を解いていく。
降りてきた伸次の目の前で、取り出された物は、
「水槽・・・・・・?」
三十センチほどのほぼ正方形の水槽とともに、土や水草、ろ過装置やライトなど、アクアリウムのセットが居間に広げられた。
ご丁寧に「アクアリウム入門」なんて本まで同梱されていた。
「誰から?」
「お父さんから」
「・・・・・・は?」
伸次はダンボールに貼ってある伝票を確認する。たしかに「橘 修」と書いてある。
修が倒れてから半月ほど経っている。日付指定の便でもなさそうだった。誰かが修の名前を書いて送ったのだろうか。
「あら、手紙」
荷物と一緒に取り出していたらしく、絨毯の上に二通の封筒が落ちていた。貴子が拾い上げる。
一通は貴子宛、もう一通は伸次宛のものだった。
封は糊付けされておらず、便箋はすぐに取り出せた。
貴子は自分宛の手紙を読み終えると、穏やかな表情で手紙を愛おしそうに胸に抱き寄せ、「修さん・・・・・・」と小さく呟く。その頬に涙がすーっと流れ落ちた。
伸次は何度か読み直したのか、終始難しい顔をしながら貴子より時間をかけて読み終えると、手紙を封筒に直してちゃぶ台に向かった。貴子も頬を拭い伸次に続く。
まるでお供えでもするかのように二通の手紙を位牌の前に置き、二人は手を合わせた。
「父さん、何だって」
「私に看取られて人生を終えることが夢だって」
「夢叶ったじゃん」
「ほんとね。私、お父さんと伸次と、家族になれて良かったわ」
「ここに居るのかな」
「きっと見守ってくれてるわよ」
貴子がふふっと微笑んだ。修が亡くなってから初めて見せた笑みだった。
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