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番外編 猫のいる街 1997
21. 誠二郎 17
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なんじゃ。簡単に戻れたではないか。
抜け出せばいいだけだったなんての。
ふむ。これなら誰にも見咎められずに動けるの。
ああ、リン殿に一言断っておくかの。
戻るのも簡単ではないか。便利なことだの。
「リン殿。わしはしばらくこの身体を留守にするが、心配するでないぞ。わしは必ずお主をここから救い出しに戻ってくるでな」
「なにを言っておられるので――」
リン殿の言葉の途中で飛び出すと、途端に猫たちが何を言っているのかわからなくなった。
ウー ンニャーゴ グルルルと警戒の声が飛び交う中、まずわしは建物の名称を確認しに飛んだ。
次に住所の確認。建物に番地は記載されていなかったが、電柱には住所のプレートがかかっている。
だいたいの場所はわかった。そこから地理を思い出しながら、わしの家の方向を探り出していく。
電柱や病院・会社の看板で住所を確認しながら飛んでいくと、見知った場所に出た。
ここからあの男の家を探さねばならない。それが一番やっかいだった。
珠を探しながら行き着いた場所であったから。周囲の様子をあまり見ていなかった。
猫の姿になった時のルートを思い出しながら道を辿っていくと、それらしき家の庭に出ることができた。
周囲を木に囲まれた石造りの池があって、屋敷の方には縁側があって。
我が家の狭い庭とは大違いの羨ましいほどの大きな庭であったから覚えている。雑草が生えていて手入れがいき届いてないのが残念だが。
たしか、離れのようなところにあの男はいた。
飛び込んでみると、たくさんのマネキンがこちらを向いていた。
しかし男はいなかった。
先日来た時は、たしか夜中だった。
壁の時計を見ると長針は6を指している。外はまだ明るいが、夜の6時だ。
夕飯時だな。
他人の家を幽霊であるとはいえ徘徊するのは気が引けるが、致し方ない。ここで男を待っていて、猫たちを助け出すのに間に合わなくなってしまっては困る。
探しにいこう。
時間的なことを考えると台所か、食卓か。
ひょいと扉を通り抜けると廊下に出た。左手の扉が開いていた。そこは台所で、テーブルもあったが、男はおろか食事の支度もされていなかった。
もしかして、わしと一緒で男やもめか。連れ合いを亡くしたのか、所帯を持たなかったのか。どちらにしても、少々の親近感が湧いた。
右手が庭に面した応接間で、そこにもいない。
台所の隣は和室だった。仏壇があり、掃除が行き届いているのがよくわかる。
仏さんに手を合わせて、ふと壁を見上げた。
和服の女性が二人と男性が一人、そして幼い少女が一人。写真が飾られている。
男が独り身である理由がわかった。
女性の一枚は古い写真のようだから、こちらはずいぶん前に亡くなられたのだと思う。
残りの三枚は比較的新しい。子供さんが着ている服の様子だと、5・6年ほど前か。孫が似た服を着ていたのを覚えている。
構成はよくわからないけれど、少し前に家族を亡くしたのか。それなら、以前男に会ったときの死んだような目に納得がいった。男はまだ立ち直っていないのだろうの。
和室の隣はトイレのような気がしたから除くのは避けておいた。もし男がいたらきまずいからの。
その横はおそらく風呂場だろう。あとは玄関と階段。
ならば、二階に上がらせていただこう。
抜け出せばいいだけだったなんての。
ふむ。これなら誰にも見咎められずに動けるの。
ああ、リン殿に一言断っておくかの。
戻るのも簡単ではないか。便利なことだの。
「リン殿。わしはしばらくこの身体を留守にするが、心配するでないぞ。わしは必ずお主をここから救い出しに戻ってくるでな」
「なにを言っておられるので――」
リン殿の言葉の途中で飛び出すと、途端に猫たちが何を言っているのかわからなくなった。
ウー ンニャーゴ グルルルと警戒の声が飛び交う中、まずわしは建物の名称を確認しに飛んだ。
次に住所の確認。建物に番地は記載されていなかったが、電柱には住所のプレートがかかっている。
だいたいの場所はわかった。そこから地理を思い出しながら、わしの家の方向を探り出していく。
電柱や病院・会社の看板で住所を確認しながら飛んでいくと、見知った場所に出た。
ここからあの男の家を探さねばならない。それが一番やっかいだった。
珠を探しながら行き着いた場所であったから。周囲の様子をあまり見ていなかった。
猫の姿になった時のルートを思い出しながら道を辿っていくと、それらしき家の庭に出ることができた。
周囲を木に囲まれた石造りの池があって、屋敷の方には縁側があって。
我が家の狭い庭とは大違いの羨ましいほどの大きな庭であったから覚えている。雑草が生えていて手入れがいき届いてないのが残念だが。
たしか、離れのようなところにあの男はいた。
飛び込んでみると、たくさんのマネキンがこちらを向いていた。
しかし男はいなかった。
先日来た時は、たしか夜中だった。
壁の時計を見ると長針は6を指している。外はまだ明るいが、夜の6時だ。
夕飯時だな。
他人の家を幽霊であるとはいえ徘徊するのは気が引けるが、致し方ない。ここで男を待っていて、猫たちを助け出すのに間に合わなくなってしまっては困る。
探しにいこう。
時間的なことを考えると台所か、食卓か。
ひょいと扉を通り抜けると廊下に出た。左手の扉が開いていた。そこは台所で、テーブルもあったが、男はおろか食事の支度もされていなかった。
もしかして、わしと一緒で男やもめか。連れ合いを亡くしたのか、所帯を持たなかったのか。どちらにしても、少々の親近感が湧いた。
右手が庭に面した応接間で、そこにもいない。
台所の隣は和室だった。仏壇があり、掃除が行き届いているのがよくわかる。
仏さんに手を合わせて、ふと壁を見上げた。
和服の女性が二人と男性が一人、そして幼い少女が一人。写真が飾られている。
男が独り身である理由がわかった。
女性の一枚は古い写真のようだから、こちらはずいぶん前に亡くなられたのだと思う。
残りの三枚は比較的新しい。子供さんが着ている服の様子だと、5・6年ほど前か。孫が似た服を着ていたのを覚えている。
構成はよくわからないけれど、少し前に家族を亡くしたのか。それなら、以前男に会ったときの死んだような目に納得がいった。男はまだ立ち直っていないのだろうの。
和室の隣はトイレのような気がしたから除くのは避けておいた。もし男がいたらきまずいからの。
その横はおそらく風呂場だろう。あとは玄関と階段。
ならば、二階に上がらせていただこう。
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