57 / 59
第三部 仲良し姉妹
57 姉として
しおりを挟む
「航くん」
「もしかして、汐里さん?」
麻帆が話している途中で、私は目覚めていた。
「久しぶりって、言っていいのかな」
「そうだね。麻帆の話が本当なら、俺の大学受験直前以来かな」
バイト上がりで、話し疲れた麻帆が横になった。少し経ってから、私は麻帆の体を使って起き上がった。航くんが、内容を咀嚼する時間が必要だなと思ったから。
航くんは私が声をかけると、一瞬戸惑った表情を浮かべたけど、すぐに察してくれた。
麻帆ではなく、汐里が話しているのだと。
「麻帆の話は全部本当。麻帆が寝ちゃったから、体を借りてきたの」
「信じるよ。麻帆の話し方とは、似てるけど少し違うから」
「あの子は、いつも私の真似をするから。でも、いつの間にか個性の違いが出ていて、航くんは気づいていたんだね。クラスメイトたちは気づかなかったのに」
「そりゃ、一人の体に二人の魂なんて、誰が想像するんだよ。俺だって、幼馴染じゃなかったら、とても信じられない話だよ」
航くんは困惑しながらも、否定はしなかった。
だから、私が出てきても、すぐに対応できたんだろう。
柔軟な理解力と、麻帆への思いが、そうさせたんだと思う。
「幼馴染なだけじゃないでしょ。好きな人の言うことは信じたいからでしょ」
「バレてたんだ」
航くんは、照れ臭そうにぽりぽりと頬を掻く。
「もちろんよ。あたしたちで麻帆の取り合いしてたようなもんだし」
「どっちが長く、麻帆の機嫌を損ねないように遊べるか対決とかやってたな」
「やってたね」
子どもの頃を思い出しておかしくなって、二人して笑う。
「結局、何やっても実の姉には、勝てなかったけどな。いまだに勝てる気がしないよ」
「そんなことないよ。麻帆だって、航くんのこと、大切に想ってる。ずっとそばにいてほしいって望んでるはずだよ」
「俺より、汐里さんにいてほしいって願ってるよ」
まっすぐに見つめてくる航くんの目を直視できなくて、顔をうつむける。
「それは‥‥‥ね。無理そうだから」
もしも願いが叶うなら、麻帆の人生を支えてやりたい。道に迷った時は、相談に乗ってやりたいし、悲しい出来事に遭遇してしまったら、一緒に泣いて、励ましてやりたい。
「まじで消えそうなの?」
「近いうちに、そうなると思う。いつ起きられるのか私にもわからないし、起きていられないの。すぐに眠くなっちゃって。ずっと見守っていてあげたいんだけど」
私と麻帆がどれだけ望んでも、それは許されないみたい。
「わたしがいなくなった後、麻帆の事、任せてもいいかな?」
「それは、もちろん。支えるよ」
力強い航くんの言葉に、私は顔を上げた。彼の目は、鋭いくらいの真剣さを帯びていた。
「いつ、そうなりそうとかわかるの?」
「いつになるのかな。私のことなのにわからないの」
私は首を傾げる。
現れたのが突然だから、消えるのも突然かもしれない。
せめて、私が選べたらいいんだけど。神様待ってくれるかな。
「一つ、お願いきいてもらっても?」
「なあに」
「黙っていなくならないでやってほしいんだ。汐里さんもつらいだろうけど、ちゃんとお別れしてやってほしい。後は俺が引き受けるから」
「そうだね。自然と消えた方が麻帆のためかとも考えたけど、お別れはちゃんとした方がいいよね。溺れた時は、突然で、さよならができなかったから」
「つらいことを頼んでごめん」
航くんが、申し訳なさそうに、眉を寄せる。
「ううん。航くん、いつも麻帆を見守ってくれてありがとう。航くんがいてくれるなら、私は安心して、旅立てるよ」
「買い被りだなんて言わないから。今まで通り、家族だと思って、そばで見守っていくから、安心して。でもさ、もし可能なら、麻帆の中にずっといてやってほしい」
ああ、なんて優しい子なんだろう。
「航くんは、私がいても邪魔じゃないの?」
「邪魔なわけない。俺たちは3きょうだいだからさ」
にっと笑う爽やかな笑顔に、心から感謝の気持ちが沸き上がる。
出会えたことに。気が合ったことに。繋がった縁に。
「いつか麻帆と結婚したら、本当の家族になれるね」
「問題は、麻帆が了承してくれるかどうかだな」
腕を組んで、うーんと考え始めた。
「恋愛には疎いからね、麻帆は。就職して、変な虫がつかないようにしないとだね」
「でもさ、束縛はしたくないからさ。あと二年は、学生と社会人だから、ちょっと不安だな」
麻帆を支えると言っていた人が。事、恋愛になると、こんなにも不安そうになるなんて。
「弱気になっちゃダメよ。スリリングな恋より、近くの安定を選ぶように仕向けなくちゃ」
「汐里さん、おもしろいくらいに必死だな」
「当たり前でしょ。小さい頃からあなたたちを見守ってきたんだから、誰よりも相性が良いのはわかってるもの」
私が本気で言っているとわかってくれたのか、航くんは組んでいた腕を解いて、すっと背筋を伸ばした。
「いつか墓前に良い報告ができるようにするから。待ってて」
「頼んだよ。航くん」
私たちは目を合わせて、しっかりと頷き合った。
「もしかして、汐里さん?」
麻帆が話している途中で、私は目覚めていた。
「久しぶりって、言っていいのかな」
「そうだね。麻帆の話が本当なら、俺の大学受験直前以来かな」
バイト上がりで、話し疲れた麻帆が横になった。少し経ってから、私は麻帆の体を使って起き上がった。航くんが、内容を咀嚼する時間が必要だなと思ったから。
航くんは私が声をかけると、一瞬戸惑った表情を浮かべたけど、すぐに察してくれた。
麻帆ではなく、汐里が話しているのだと。
「麻帆の話は全部本当。麻帆が寝ちゃったから、体を借りてきたの」
「信じるよ。麻帆の話し方とは、似てるけど少し違うから」
「あの子は、いつも私の真似をするから。でも、いつの間にか個性の違いが出ていて、航くんは気づいていたんだね。クラスメイトたちは気づかなかったのに」
「そりゃ、一人の体に二人の魂なんて、誰が想像するんだよ。俺だって、幼馴染じゃなかったら、とても信じられない話だよ」
航くんは困惑しながらも、否定はしなかった。
だから、私が出てきても、すぐに対応できたんだろう。
柔軟な理解力と、麻帆への思いが、そうさせたんだと思う。
「幼馴染なだけじゃないでしょ。好きな人の言うことは信じたいからでしょ」
「バレてたんだ」
航くんは、照れ臭そうにぽりぽりと頬を掻く。
「もちろんよ。あたしたちで麻帆の取り合いしてたようなもんだし」
「どっちが長く、麻帆の機嫌を損ねないように遊べるか対決とかやってたな」
「やってたね」
子どもの頃を思い出しておかしくなって、二人して笑う。
「結局、何やっても実の姉には、勝てなかったけどな。いまだに勝てる気がしないよ」
「そんなことないよ。麻帆だって、航くんのこと、大切に想ってる。ずっとそばにいてほしいって望んでるはずだよ」
「俺より、汐里さんにいてほしいって願ってるよ」
まっすぐに見つめてくる航くんの目を直視できなくて、顔をうつむける。
「それは‥‥‥ね。無理そうだから」
もしも願いが叶うなら、麻帆の人生を支えてやりたい。道に迷った時は、相談に乗ってやりたいし、悲しい出来事に遭遇してしまったら、一緒に泣いて、励ましてやりたい。
「まじで消えそうなの?」
「近いうちに、そうなると思う。いつ起きられるのか私にもわからないし、起きていられないの。すぐに眠くなっちゃって。ずっと見守っていてあげたいんだけど」
私と麻帆がどれだけ望んでも、それは許されないみたい。
「わたしがいなくなった後、麻帆の事、任せてもいいかな?」
「それは、もちろん。支えるよ」
力強い航くんの言葉に、私は顔を上げた。彼の目は、鋭いくらいの真剣さを帯びていた。
「いつ、そうなりそうとかわかるの?」
「いつになるのかな。私のことなのにわからないの」
私は首を傾げる。
現れたのが突然だから、消えるのも突然かもしれない。
せめて、私が選べたらいいんだけど。神様待ってくれるかな。
「一つ、お願いきいてもらっても?」
「なあに」
「黙っていなくならないでやってほしいんだ。汐里さんもつらいだろうけど、ちゃんとお別れしてやってほしい。後は俺が引き受けるから」
「そうだね。自然と消えた方が麻帆のためかとも考えたけど、お別れはちゃんとした方がいいよね。溺れた時は、突然で、さよならができなかったから」
「つらいことを頼んでごめん」
航くんが、申し訳なさそうに、眉を寄せる。
「ううん。航くん、いつも麻帆を見守ってくれてありがとう。航くんがいてくれるなら、私は安心して、旅立てるよ」
「買い被りだなんて言わないから。今まで通り、家族だと思って、そばで見守っていくから、安心して。でもさ、もし可能なら、麻帆の中にずっといてやってほしい」
ああ、なんて優しい子なんだろう。
「航くんは、私がいても邪魔じゃないの?」
「邪魔なわけない。俺たちは3きょうだいだからさ」
にっと笑う爽やかな笑顔に、心から感謝の気持ちが沸き上がる。
出会えたことに。気が合ったことに。繋がった縁に。
「いつか麻帆と結婚したら、本当の家族になれるね」
「問題は、麻帆が了承してくれるかどうかだな」
腕を組んで、うーんと考え始めた。
「恋愛には疎いからね、麻帆は。就職して、変な虫がつかないようにしないとだね」
「でもさ、束縛はしたくないからさ。あと二年は、学生と社会人だから、ちょっと不安だな」
麻帆を支えると言っていた人が。事、恋愛になると、こんなにも不安そうになるなんて。
「弱気になっちゃダメよ。スリリングな恋より、近くの安定を選ぶように仕向けなくちゃ」
「汐里さん、おもしろいくらいに必死だな」
「当たり前でしょ。小さい頃からあなたたちを見守ってきたんだから、誰よりも相性が良いのはわかってるもの」
私が本気で言っているとわかってくれたのか、航くんは組んでいた腕を解いて、すっと背筋を伸ばした。
「いつか墓前に良い報告ができるようにするから。待ってて」
「頼んだよ。航くん」
私たちは目を合わせて、しっかりと頷き合った。
0
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
氷雨と猫と君〖完結〗
カシューナッツ
恋愛
彼とは長年付き合っていた。もうすぐ薬指に指輪をはめると思っていたけれど、久しぶりに呼び出された寒い日、思いもしないことを言われ、季節外れの寒波の中、帰途につく。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
【3月中ーー完結!!】
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
二十年の裏切りの果て、その事実だけを抱え、離縁状を置いて家を出た。
そこで待っていたのは、凍てつく絶望――。
けれど同時に、それは残酷な運命の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と縋られても、
死の淵を彷徨った私には、裏切ったあなたを許す力など残っていない。
「でも、子供たちの心だけは、
必ず取り戻す」
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔い、歪な愛でもいいと手を伸ばした彼女が辿り着いた先。
それは、「歪で、完全な幸福」か、それとも――。
これは、"石"に翻弄された者たちの、狂おしい物語。
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
生きるために逃げだした。幸せになりたい。
白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。
2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる