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第一話 冴木 柚羽 ~目覚め~
学童
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学童の教室においてある電子ピアノの前にユリちゃんと並んで座る。
ユズは右手を、ユリちゃんは左手を鍵盤に添える。
軽く息を吸い込んで、吐き出し、気持ちを整える。
「いくね」
ユリちゃんに声をかけ、となりのトトロを弾く。
思うように指が動かない。ユリちゃんに弾き方を教えてもらったのに、指に力が入って強張ってしまう。
鍵盤を押さえる指以外がピンと立ってしまう。リズムはぐだぐだ。
だけどユリちゃんは合わせてくれる。左手なのにスムーズに動かしている。
ユリちゃんには簡単に弾ける曲なんだ。
ユリちゃんは五歳からピアノを習っている。もう四年も続けているんだから、教えてもらってまだ三週間のユズがユリちゃんみたいに弾けるわけない。
だけど、ユリちゃんみたいにすらすらと弾けるようになりたい。悔しい。
「ユリちゃん、もっかい」
「いいよ」
ユリちゃんは微笑んで頷いてくれる。
弾き始めようとしたとき、どんと背中に衝撃を感じた。
身体を支えようとして鍵盤を押さえつけてしまい、たくさんの音が鳴る。
思わずごめんなさいと心の中でピアノに謝る。
「柚羽ちゃん大丈夫? 小川くん謝りなさいよ」
ユズの代わりに、ユリちゃんが怒ってくれた。
「うっせ。へたくそへたくそ」
振り返らなくても誰だかわかる。クラスメイトの小川勇誠くんは三年生になってしばらくしてから、ちょっとした意地悪をしてくるようになった。
五月の連休が明けて少ししてからだったから、もう四ヶ月くらい続いている。
「ちょっと小川くん!」
「いいの、ユリちゃん。それよりピアノ弾きたい」
小川くんを追いかけていこうとしたユリちゃんを引き留める。
「いいの? わかった。男子って子供だよね」
小川くんに意地悪されるたび、チクチクと胸が痛むけれど、気づかなかったことにしている。
ユズが平気な顔をしていれば、そのうち飽きると思うから。
♫
どうやら幼きピアニストこと柚羽さんは、お友達のユリさんのように弾きたくて、頑張って練習をしているようだ。
まだまだ弾き慣れていない初々しさが大変かわいらしい。
覚束なくても一生懸命なのが伝わり、応援をしたくなってくる。
練習の成果は今身をもって体験しているわけだが。
小川勇誠さんとの関係が少し気になるな。
どれ、もう少し遡って柚羽さんの記憶にアクセスしよう。
ユズは右手を、ユリちゃんは左手を鍵盤に添える。
軽く息を吸い込んで、吐き出し、気持ちを整える。
「いくね」
ユリちゃんに声をかけ、となりのトトロを弾く。
思うように指が動かない。ユリちゃんに弾き方を教えてもらったのに、指に力が入って強張ってしまう。
鍵盤を押さえる指以外がピンと立ってしまう。リズムはぐだぐだ。
だけどユリちゃんは合わせてくれる。左手なのにスムーズに動かしている。
ユリちゃんには簡単に弾ける曲なんだ。
ユリちゃんは五歳からピアノを習っている。もう四年も続けているんだから、教えてもらってまだ三週間のユズがユリちゃんみたいに弾けるわけない。
だけど、ユリちゃんみたいにすらすらと弾けるようになりたい。悔しい。
「ユリちゃん、もっかい」
「いいよ」
ユリちゃんは微笑んで頷いてくれる。
弾き始めようとしたとき、どんと背中に衝撃を感じた。
身体を支えようとして鍵盤を押さえつけてしまい、たくさんの音が鳴る。
思わずごめんなさいと心の中でピアノに謝る。
「柚羽ちゃん大丈夫? 小川くん謝りなさいよ」
ユズの代わりに、ユリちゃんが怒ってくれた。
「うっせ。へたくそへたくそ」
振り返らなくても誰だかわかる。クラスメイトの小川勇誠くんは三年生になってしばらくしてから、ちょっとした意地悪をしてくるようになった。
五月の連休が明けて少ししてからだったから、もう四ヶ月くらい続いている。
「ちょっと小川くん!」
「いいの、ユリちゃん。それよりピアノ弾きたい」
小川くんを追いかけていこうとしたユリちゃんを引き留める。
「いいの? わかった。男子って子供だよね」
小川くんに意地悪されるたび、チクチクと胸が痛むけれど、気づかなかったことにしている。
ユズが平気な顔をしていれば、そのうち飽きると思うから。
♫
どうやら幼きピアニストこと柚羽さんは、お友達のユリさんのように弾きたくて、頑張って練習をしているようだ。
まだまだ弾き慣れていない初々しさが大変かわいらしい。
覚束なくても一生懸命なのが伝わり、応援をしたくなってくる。
練習の成果は今身をもって体験しているわけだが。
小川勇誠さんとの関係が少し気になるな。
どれ、もう少し遡って柚羽さんの記憶にアクセスしよう。
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