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26. 十三回忌法要前日
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8月12日。一穂の両親の命日を迎える前日。千里と一穂は二人が眠っている墓地に来た。
明日は佑介と麻衣子の十三回忌の法要があるため、前乗りしてお墓の掃除をする。
今日は一穂の未成年後見人である須田源三郎も一緒だった。
法要の手配は源三郎が執り行ってくれた。須田家に入っていない千里が準備を行うのはおかしいし、未成年である一穂にもできないからだった。
墓地は山手にあり、街を一望できる。この街は佑介が高校を卒業するまで過ごした場所。
須田の祖父母も眠っているこの墓地を守っていかないといけないと一穂に教えてきたからか、率先して水を汲みにいき、源三郎と墓石を拭く。
千里は墓石の周囲に生えた雑草を抜いていく。
お盆とお正月は必ず来るが、お彼岸は難しい年もあって、源三郎に頼ることもあった。
源三郎は今年77歳になったが、年齢を感じさせない元気で活動的な人。元警察官ということで、今も柔道場に通って自身の体を鍛えつつ、子供たちの指導も行っている。
千里が源三郎に会ったのは、一穂を引き取る話し合いの場が初めてだった。
親戚一同に向かって一穂を引き取りたいとただひたすらに頭を下げ続ける千里の、唯一肩を持ってくれた御仁だった。
それ以来、千里も一穂も、彼を頼りにしてきた。
「一穂は、全然変わらないな。身長伸びたか? 今何センチだ?」
「152センチ」
「牛乳ちゃんと飲んでるのか。ジュースばっかり飲んでるんじゃなかろうな」
「牛乳飲んでるよ。嫌いじゃないもん。あたしだって身長伸ばしたいけど、あんまり伸びないんだよね」
「運動しろ。運動部に入れ」
「いまさら嫌だよ。みんな大会目指して超真剣だから、身長伸ばしたいって理由で入部しても邪魔じゃん」
「うちの道場来るか。鍛えてやるぞ」
「鍛えても身長には関係ないでしょう」
「それもそうだな。栄養バランスは千里さんがしっかり管理してくれているだろうからな。背が伸びん理由はなんだろうなあ」
「遺伝は?」
「佑介は170越えてたぞ。祖母さんは小さかったけど、祖父さんは佑介より少し小さいぐらいだったか」
「隔世遺伝ってやつかな? お母さんは?」
「麻衣子さんは、千里さんより少し高いぐらいだっかな。なあ、千里さん」
「ええ。そうですね」
まるで久しぶりに会った祖父と孫のような会話に、千里は嬉しくなる。一穂の反抗は、源三郎相手ではまったくなくなる。実の祖父母たちより懐いているように、千里には思えた。
お墓の掃除を終えて、お供え物を置き、三人並んで手を合わせる。
千里は佑介と麻衣子に、一穂が高校一年生になったことを報告し、改めて、責任を持って一穂を育てることを約束する。
三人が報告を終えると、お供え物を引き上げ、ろうそくの火を消した。
「千里さん、会食の準備を任せて良かったのかい」
源三郎の運転する車で須田邸に向かいながら、千里は源三郎に「大丈夫です」と返事をした。
明日の法要の参列者は11人。お坊さんは多忙のため遠慮しますとの事だった。
法要後の会食を千里が作ることにした。といってもすべてではなく、お寿司の出前を取る事にはなっているので、お吸い物や大皿料理を作る。
一穂を引き取ることを大反対した親戚たちに、一穂が食べているものを提供して安心してもらおう思って千里が決めた事だった。
七回忌の時は、須田の祖父母は二人とも健在で仕出し弁当を取ったため、千里はお茶出しや洗い物などのお手伝いをしただけ。
千里が一族に手料理を振る舞うのは今回が初めてとなる。
源三郎が十三回忌のお知らせを送った際に、アレルギーの有無の確認はしてあって、全員ないということだった。
近くのスーパーに立ち寄り、大量の食材を買い込み、須田邸に戻った。
お仏壇に手を合わせてから、源三郎と一穂は部屋の掃除や明日の準備を行い、千里は一人で台所に立った。
須田邸には誰も住んでいないため普段は止まっているライフラインだが、今回のために源三郎が連絡してくれたので、ガス水道電気は通っている。
水道は長らく使っていないため、しばらくの間水を流しっぱなしにしておく。
冷蔵庫は朝のうちに源三郎が電源を入れておいてくれたので、しっかりと冷えている。
買ってきた食材を冷蔵庫にしまい込むと、千里は流しの下や頭上にある棚の中を見ていった。
祖父母が亡くなった後、親戚たちによる遺品整理は行われ、ある程度は片付けられているものの、家電や家具、食器などはそのままになっている。
流しの下にはミルクパンや雪平鍋、小ぶりの両手鍋が置いてあった。テーブルに出していくと、奥から炊き出しで使われるような大型のアルミ鍋が出てきた。これは煮物に使える、と嬉しくなる。
使う鍋だけをテーブルに残して棚に戻すと、食器棚の中を覗く。大人数に対応できる大きなお皿も、取り分け用の小皿もたくさんあって、一安心した。
調味料は何もないので、持参した調味料を作業台の壁際に並べていく。大量に使うだろうしょう油やみりんは買ってきたが、小麦粉や片栗粉は小分けして持参した。出汁汁と念のため顆粒出汁も準備済み。
千里は鞄から包丁ケースを取り出し、さっそく下準備にとりかかった。
明日は佑介と麻衣子の十三回忌の法要があるため、前乗りしてお墓の掃除をする。
今日は一穂の未成年後見人である須田源三郎も一緒だった。
法要の手配は源三郎が執り行ってくれた。須田家に入っていない千里が準備を行うのはおかしいし、未成年である一穂にもできないからだった。
墓地は山手にあり、街を一望できる。この街は佑介が高校を卒業するまで過ごした場所。
須田の祖父母も眠っているこの墓地を守っていかないといけないと一穂に教えてきたからか、率先して水を汲みにいき、源三郎と墓石を拭く。
千里は墓石の周囲に生えた雑草を抜いていく。
お盆とお正月は必ず来るが、お彼岸は難しい年もあって、源三郎に頼ることもあった。
源三郎は今年77歳になったが、年齢を感じさせない元気で活動的な人。元警察官ということで、今も柔道場に通って自身の体を鍛えつつ、子供たちの指導も行っている。
千里が源三郎に会ったのは、一穂を引き取る話し合いの場が初めてだった。
親戚一同に向かって一穂を引き取りたいとただひたすらに頭を下げ続ける千里の、唯一肩を持ってくれた御仁だった。
それ以来、千里も一穂も、彼を頼りにしてきた。
「一穂は、全然変わらないな。身長伸びたか? 今何センチだ?」
「152センチ」
「牛乳ちゃんと飲んでるのか。ジュースばっかり飲んでるんじゃなかろうな」
「牛乳飲んでるよ。嫌いじゃないもん。あたしだって身長伸ばしたいけど、あんまり伸びないんだよね」
「運動しろ。運動部に入れ」
「いまさら嫌だよ。みんな大会目指して超真剣だから、身長伸ばしたいって理由で入部しても邪魔じゃん」
「うちの道場来るか。鍛えてやるぞ」
「鍛えても身長には関係ないでしょう」
「それもそうだな。栄養バランスは千里さんがしっかり管理してくれているだろうからな。背が伸びん理由はなんだろうなあ」
「遺伝は?」
「佑介は170越えてたぞ。祖母さんは小さかったけど、祖父さんは佑介より少し小さいぐらいだったか」
「隔世遺伝ってやつかな? お母さんは?」
「麻衣子さんは、千里さんより少し高いぐらいだっかな。なあ、千里さん」
「ええ。そうですね」
まるで久しぶりに会った祖父と孫のような会話に、千里は嬉しくなる。一穂の反抗は、源三郎相手ではまったくなくなる。実の祖父母たちより懐いているように、千里には思えた。
お墓の掃除を終えて、お供え物を置き、三人並んで手を合わせる。
千里は佑介と麻衣子に、一穂が高校一年生になったことを報告し、改めて、責任を持って一穂を育てることを約束する。
三人が報告を終えると、お供え物を引き上げ、ろうそくの火を消した。
「千里さん、会食の準備を任せて良かったのかい」
源三郎の運転する車で須田邸に向かいながら、千里は源三郎に「大丈夫です」と返事をした。
明日の法要の参列者は11人。お坊さんは多忙のため遠慮しますとの事だった。
法要後の会食を千里が作ることにした。といってもすべてではなく、お寿司の出前を取る事にはなっているので、お吸い物や大皿料理を作る。
一穂を引き取ることを大反対した親戚たちに、一穂が食べているものを提供して安心してもらおう思って千里が決めた事だった。
七回忌の時は、須田の祖父母は二人とも健在で仕出し弁当を取ったため、千里はお茶出しや洗い物などのお手伝いをしただけ。
千里が一族に手料理を振る舞うのは今回が初めてとなる。
源三郎が十三回忌のお知らせを送った際に、アレルギーの有無の確認はしてあって、全員ないということだった。
近くのスーパーに立ち寄り、大量の食材を買い込み、須田邸に戻った。
お仏壇に手を合わせてから、源三郎と一穂は部屋の掃除や明日の準備を行い、千里は一人で台所に立った。
須田邸には誰も住んでいないため普段は止まっているライフラインだが、今回のために源三郎が連絡してくれたので、ガス水道電気は通っている。
水道は長らく使っていないため、しばらくの間水を流しっぱなしにしておく。
冷蔵庫は朝のうちに源三郎が電源を入れておいてくれたので、しっかりと冷えている。
買ってきた食材を冷蔵庫にしまい込むと、千里は流しの下や頭上にある棚の中を見ていった。
祖父母が亡くなった後、親戚たちによる遺品整理は行われ、ある程度は片付けられているものの、家電や家具、食器などはそのままになっている。
流しの下にはミルクパンや雪平鍋、小ぶりの両手鍋が置いてあった。テーブルに出していくと、奥から炊き出しで使われるような大型のアルミ鍋が出てきた。これは煮物に使える、と嬉しくなる。
使う鍋だけをテーブルに残して棚に戻すと、食器棚の中を覗く。大人数に対応できる大きなお皿も、取り分け用の小皿もたくさんあって、一安心した。
調味料は何もないので、持参した調味料を作業台の壁際に並べていく。大量に使うだろうしょう油やみりんは買ってきたが、小麦粉や片栗粉は小分けして持参した。出汁汁と念のため顆粒出汁も準備済み。
千里は鞄から包丁ケースを取り出し、さっそく下準備にとりかかった。
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