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29.腑に落ちない

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 ほくろじゃなかったんだ。
 花村の祖母の一言に、一穂は自分が思っていた以上に落胆していた。
 ほくろに執着をしているわけではなかったのに、母の腕にはないと強く否定されたことが、自分が抱いていた母への想いを否定されたような気がして、寂しくなった。
 アルバムは一穂が中心だったけど、母の写真だってたくさんあるのに、どうして抱かれているあの写真が気になるのか。生まれてすぐの写真だからなのか。
 それは自分でもわからなかった。

 花村の祖母はどうして、いつも怖い顔をしているんだろう。
 千里の料理を前にしても、表情が変わることはまったくなかった。
 ずっと面白くなさそうな、冷たい目をしていた。
 大叔母と尚美は、今日は意地悪なことは言わなくて、料理を美味しいと言って喜んでいたのに。
 千里の料理を食べても美味しいと思わない人がいるんだ、とそれもショックだった。
 
 あれだけの料理を千里は一人で作った。テーブルにたくさん並んでいく料理を見て作り過ぎじゃないかなと思ったけど、食事が終わってみれば、完食だった。特に道哉と双子の食べっぷりには、千里も喜んでいた。作り甲斐があったと。

 花村の祖母の態度が腑に落ちなくて、一穂はもんもんとした気持ちを抱えたまま、千里と帰路についた。
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