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3.大切なお人形
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喫茶店の扉がカランコロンと鳴った。
「ごめんください」
「いらっしゃいませ」
ばあばが入ってきたお客さんに挨拶をする。
「こちらで壊れたおもちゃを直していただけると、聞いたのですが」
入ってきたおばさんに、ばあばが「どうぞ。こちらに」とお店の奥に招いた。
「アリサ」
おばさんの後ろには、僕と同じ年くらいの女の子が立っていた。
胸の前で大切そうに人形を抱えている。
「ほら、泣いていないで、直るのか聞いてみましょう」
「う……ひくっ……うん」
しゃくり上げながら、女の子はうなずいた。
エアコンの風を店内に行き渡らせるための扇風機の風が当たって、女の子のショートヘアを揺らした。
じいじの修理机の前に座った女の子は、早瀬有紗と名乗った。
アリサさんが抱えていた人形をじいじに渡した。
「腕が……ひっく……取れて……しまいました」
「腕はこれです」
アリサさんの隣に座ったおばさんが、カバンから袋を取り出した。
受け取ったじいじが袋から取り出したのは、円柱形のもの。人形の腕だ。
取れてしまった本体の腕の部分を見たじいじは、優しく頷いた。
「大丈夫ですよ。直せます」
「本当ですか!」
アリサさんが身を乗り出して、じいじに尋ねた。
「ええ。糸がほつれただけです。縫い合わせれば、大丈夫です」
「良かったあ」
涙が消えて、安心した笑顔になった。
「普段から、カバンに入れて持ち歩いているんですか?」
じいじの質問に、アリサさんは「はい」と頷いた。
「それなら他の場所も点検して、補強をしておきましょうか」
「ママ。いい?」
アリサさんに確認をされたおばさんは、頷いた。
「いいわよ。大切な人形だものね」
「ありがとう、ママ。おじさん、お願いします」
アリサさんにお願いされたじいじは、
「任せてください」
と強く頷いた。
「洗濯もしておきましょうか。手洗いをするから、生地は傷まないようにしますよ」
アリサさんは洗濯もお願いした。
三日後に来て下さいと言われ、アリサさんは人形に視線を向ける。
「少しの間、お別れになっちゃうけど、待っててね。迎えに来るからね」
と人形に話しかけ、依頼書にサインをした早瀬親子は帰って行った。
僕はじいじにお願いをして、アリサさんが大切にしていた人形を見せてもらった。
触らないという約束をじいじと交わして。
人形は大人の手を広げたぐらいの大きさ。
布製で、帽子と同じピンク色のワンピースと靴を着て、手足をぶらんと広げている。
髪は黒くて長い。
つぶらな瞳と小さな口がついていて、おっとりした顔がかわいいと思った。
三匹の犬たちも、人形を覗き込んでいた。
(くんくんくん……お祖母ちゃんみたいな匂いがするよ)
ダックスのコタローが、尻尾をふりふりさせている。
(このおもちゃ、すごく大切にされてきたんだね)
ポメのモモタが、右前脚を上げてちょいちょいと人形に触れている。
(強い愛を感じるわ!)
チワワのヒメが、うっとりしながら情熱的な口調で言った。
「すごく大切そうに持ってたね」
「そうだな。お金を払ってでも修理を依頼するということは、大切にしたい思い出がそのオモチャとあるからだろうね。陽向にはそういう物はあるのかな?」
じいじに訊かれて、僕は何かあるかなと自分の持ち物を思い出した。
生活に必要な着替えや文房具は持ってきたけど、ほとんどの荷物はまだ持ってきていない。
持って行くもの、捨てる物を分けておこうね、とお母さんに言われて、段ボールに仕分けした。
持って行くものの段ボールに真っ先に入れたのは、本だった。
どれも何回も読んで、手放したくないものばかりだった。
たぶん学校でも本を読んでいたから、暗いと言われたんだと思うけど、僕は不登校になっても読書はやめなかった。
それに、特別お気に入りの一冊がある。
「うん。あるよ」
「大切なものがあるのは、とても幸せなことなんだよ」
じいじはメガネの奥の目をふにゃりと緩めて微笑んだ。
「ごめんください」
「いらっしゃいませ」
ばあばが入ってきたお客さんに挨拶をする。
「こちらで壊れたおもちゃを直していただけると、聞いたのですが」
入ってきたおばさんに、ばあばが「どうぞ。こちらに」とお店の奥に招いた。
「アリサ」
おばさんの後ろには、僕と同じ年くらいの女の子が立っていた。
胸の前で大切そうに人形を抱えている。
「ほら、泣いていないで、直るのか聞いてみましょう」
「う……ひくっ……うん」
しゃくり上げながら、女の子はうなずいた。
エアコンの風を店内に行き渡らせるための扇風機の風が当たって、女の子のショートヘアを揺らした。
じいじの修理机の前に座った女の子は、早瀬有紗と名乗った。
アリサさんが抱えていた人形をじいじに渡した。
「腕が……ひっく……取れて……しまいました」
「腕はこれです」
アリサさんの隣に座ったおばさんが、カバンから袋を取り出した。
受け取ったじいじが袋から取り出したのは、円柱形のもの。人形の腕だ。
取れてしまった本体の腕の部分を見たじいじは、優しく頷いた。
「大丈夫ですよ。直せます」
「本当ですか!」
アリサさんが身を乗り出して、じいじに尋ねた。
「ええ。糸がほつれただけです。縫い合わせれば、大丈夫です」
「良かったあ」
涙が消えて、安心した笑顔になった。
「普段から、カバンに入れて持ち歩いているんですか?」
じいじの質問に、アリサさんは「はい」と頷いた。
「それなら他の場所も点検して、補強をしておきましょうか」
「ママ。いい?」
アリサさんに確認をされたおばさんは、頷いた。
「いいわよ。大切な人形だものね」
「ありがとう、ママ。おじさん、お願いします」
アリサさんにお願いされたじいじは、
「任せてください」
と強く頷いた。
「洗濯もしておきましょうか。手洗いをするから、生地は傷まないようにしますよ」
アリサさんは洗濯もお願いした。
三日後に来て下さいと言われ、アリサさんは人形に視線を向ける。
「少しの間、お別れになっちゃうけど、待っててね。迎えに来るからね」
と人形に話しかけ、依頼書にサインをした早瀬親子は帰って行った。
僕はじいじにお願いをして、アリサさんが大切にしていた人形を見せてもらった。
触らないという約束をじいじと交わして。
人形は大人の手を広げたぐらいの大きさ。
布製で、帽子と同じピンク色のワンピースと靴を着て、手足をぶらんと広げている。
髪は黒くて長い。
つぶらな瞳と小さな口がついていて、おっとりした顔がかわいいと思った。
三匹の犬たちも、人形を覗き込んでいた。
(くんくんくん……お祖母ちゃんみたいな匂いがするよ)
ダックスのコタローが、尻尾をふりふりさせている。
(このおもちゃ、すごく大切にされてきたんだね)
ポメのモモタが、右前脚を上げてちょいちょいと人形に触れている。
(強い愛を感じるわ!)
チワワのヒメが、うっとりしながら情熱的な口調で言った。
「すごく大切そうに持ってたね」
「そうだな。お金を払ってでも修理を依頼するということは、大切にしたい思い出がそのオモチャとあるからだろうね。陽向にはそういう物はあるのかな?」
じいじに訊かれて、僕は何かあるかなと自分の持ち物を思い出した。
生活に必要な着替えや文房具は持ってきたけど、ほとんどの荷物はまだ持ってきていない。
持って行くもの、捨てる物を分けておこうね、とお母さんに言われて、段ボールに仕分けした。
持って行くものの段ボールに真っ先に入れたのは、本だった。
どれも何回も読んで、手放したくないものばかりだった。
たぶん学校でも本を読んでいたから、暗いと言われたんだと思うけど、僕は不登校になっても読書はやめなかった。
それに、特別お気に入りの一冊がある。
「うん。あるよ」
「大切なものがあるのは、とても幸せなことなんだよ」
じいじはメガネの奥の目をふにゃりと緩めて微笑んだ。
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