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「人は死んでも無になるだけ。地獄も天国も存在しない。所詮、昔の人が死ぬことに対する恐怖と和らげるために造った幻想だから。だから死ぬことは怖くない」
そんな誰かの声が頭の中で響く。もし人間が死ぬとして、地獄や天国が本当にあるのなら、人間の多くは間違いなく地獄へ行くのだろう。

 僕の通っていた小学校は人が少なく、一学年10数人、全校生徒は70人ほどだ。僕の学年は19人、クラス全員が男女関係なく仲が良く、休み時間はたまにクラス全員でカードゲームなどをする仲だ。しかしある時に事件は起きた。
 クラスの一人「大村 肇」という男の子が亡くなった。原因は自殺、母親が肇の部屋で首を吊り、冷たくなっていたところを発見した。その翌日当然学校集会が行われた。内容はやはり肇のことだった。校長が長々と話をしていたが、僕は何も聞いていなかった。いや聞けなかった。数少ないクラスメイトの一人が亡くなったのだ。
 肇がいなくなってからのクラスは静かだった。あいつは常にふざけて周囲を楽しませていた。担任も目で見て分かるほどに元気がなくなっていた。当たり前だろう、自分のクラスの児童が死んだのだ。ある時、肇の父が彼の部屋を片付けているとあるものを見つけたという。それは、一冊のノートだった。そのノートはページの半分以上が破られており、20ページほどしかなかった。
ノートの表紙をめくると、「人は死んでも無になるだけ。地獄も天国も存在しない。所詮、昔の人が死ぬことに対する恐怖と和らげるために造った幻想だから。だから死ぬことは怖くない」そう書いてあった。しかもそれがすべてのページに書いてあったわけではなく、数ページ飛ばしで同じ内容が書かれていた。まるで死ぬのは怖くないと自己暗示をかけているように。それを見た警察の人や肇の両親、学校の先生は気味が悪いと口を揃えて言った。
 肇がいなくなってから1年が経った頃だった。新しく担任になった新任の先生が僕たちにこんなことを言った。「去年、クラスメイトが亡くなったんだってね、この話題を出すと皆の傷をえぐってしまうかもしれないけど、決して目を背けてはいけない事実だし、私もこのクラスの担任になったからには聞いて欲しいんだ。他の先生方から聞いたんだけど、このクラスの皆は本当に優しいね。肇君が亡くなってもその原因を誰も推測とか変に探ったりしないで事実を正面から受け入れるなんて、本当にすごいよ。」
「推測とか変に探ったりしない」この言葉は聞きたくなかった。そう皆は思っているだろう。だって、僕たちは知っているから、肇が自ら命を絶った理由を。

 肇はこのクラスでいじめにあっていた。19人全員が仲が良くいつも一緒に遊んでいる。他のクラスや先生からはそう見えていたのだろう。しかし、現実は違う。肇はクラスの数人のからいじめにあっていた。無視をされたり笑われたり、そんな程度では済まない程のいじめを。いや、あれはいじめなんかではない、当たり前に犯罪だ。もちろんいじめをしていない人もいたが、皆見て見ぬふりだった。19人という少人数の中でも「自分はいじめにあいたくない」そんな自分可愛さ故にいじめを放置したのだ。もちろん先生にも相談しただろう。しかし、いじめの授業になっても先生は「このクラスはみんな仲がいいから大丈夫だと思うけど~」なんて言っていた。実際僕もいじめの加害者だった。
 肇がいじめられていた原因は「チック」というものだった。クラスの皆は、チックという症状を患っている肇を、自分とは違うと差別していじめていたのだ。先生も話を聞いていたが、無視していたのだ。「自分の担当しているクラスは仲がいい」そんなことを常に言われ続けていることが嬉しかった彼は、いじめが起こっているという事実から目を背けていた。肇が自ら命を絶ってから、いじめはなくなった。仲のいいクラスなんて所詮、第三者から見た幻想だ。ある小学校のとあるクラスという小さな小さな箱庭で起こっている問題なんて、様々な社会に揉まれた人間からすれば小さな小さな粒子レベル、その程度なのだ。
 新しい担任になってから少しして、肇が亡くなった時の担任があるものを持ってきた。それは例のノートだった。僕含め、クラスの皆は初めてそのノートを目にする。ノートには「人は死んでも無になるだけ。地獄も天国も存在しない。所詮、昔の人が死ぬことに対する恐怖と和らげるために造った幻想だから。だから死ぬことは怖くない」という文章がページを飛ばし飛ばしで並んでいた。その文字の不気味さに僕の手は震えていた。そこで僕の目はあるものを見つける。
 禍々しい文字が並んでいるページの端っこに番号が振られていた。それはすべてのページに書いてあった。1~20までの番号。律儀にページ番号を振る奴だったのかと思っていたが、何か胸騒ぎがする。例の文章が書いてあったのが、1ページ目、6ページ目、7ページ目、12ページ目、18ページ目、そして20ページ目だった。「確か」嫌な考えが頭をよぎる。この文章が書いてあるページの番号が、あいつをいじめていた人たちの出席番号と一致した。しかし、少し気になる点があった。このクラスは19人。このノートは20ページまである。しかも20ページ目にも例の文章が書いてある。この20という数字は何を表しているのだろう。そこで僕は怖くなって考えるのをやめた。
もし僕が、あいつをいじめていた奴らが死ねとして、天国や地獄が本当にあるのなら、間違いなく地獄へ行くのだろう。
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