姫様を幸せにするために恋愛フラグを回避しまくります!

夕闇蒼馬

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特別短編 悪役令嬢は婚約破棄したいのでヒロインをいびりまくります!(2)

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 なんて茶番はどうでもいいのだが――いや、これは茶番でも何でもなくガチで死にかけたやつなのだが――兎にも角にも、まずはヒロインの姿を拝んでやらねばならない。さぁ、どんなヒロインが出てくるんだろう。どんなストーリー展開が待っているんだろう!
 ……とは言ったものの、私は『もっとドキ夢』まで全キャラの全ルートを回収した人間であるので、当然今後の展開はクッキリと覚えている。だが、ヒロインの姿は顔まではハッキリ出ないのだ。それゆえ、ヒロインの姿を拝むというのは『ドキ夢』シリーズのファンとして重要なことなのだ。
 私が覚えている限りでは、公式サイトにヒロインの立ち絵があって……それはそれなりに可愛かった気がする。絶世の美女、あるいは絶世の美少女という程ではないが、それなりに。

 思い立ったが吉日、私は早速婚約者サマのもとに向かうことにした。
 彼は執務室にいると事前に人から聞いておいたので探す手間が省けた。
 執務室をノックすると「入れ」と短く言われたので「失礼します」と扉を開け、彼にニッコリと笑顔を向けた。――おい、なぜ今思いっきり顔をしかめた。こっちだって嫌な顔のひとつやふたつしたいわ。いや、それだけじゃ足りないか。

「クラジオ様、ごきげんよう」
「あぁ。どうした、お前から俺を訪ねる時は面倒事が持ち込まれること多いから後回しにしたいのだが」

 あら、さりげなくボロクソに言われてるじゃない。失礼な人ね。

「あなたはベルベット……隣国、アステアの第一王女のことをどこまで知っているのでしょうか?」

 ――どこか不自然な探り探りの言い方になってしまうのは致し方がないことだ。私はこの世界の人間ではないと思い出してしまったのに加え、前世の記憶までごっそり思い出したのだ。今まで誰とどのように過ごしたか、あるいは話していたかということに気を配りつつ転生者だとバレないようにするには骨が折れるというものだ。下手に諸々のことまで言ってしまったら後々面倒だろうからね。
 というのも、転生者だとバレたらどうにかなるわけではないだろうが、そうなったらそうなったでまた色々面倒くさそうなので誰にも話さないでおこうと思っているのだ。あくまでこれは個人の感想だが。

「あぁ、知ってるぞ。彼女は結構可愛いらしいな。実際に見たわけではなく、ただ噂としてだがな」
「えぇ、そうなのですよ。ベルベットはかなり可愛く……ではなく、クラジオ様は彼女と婚約だとか、結婚だとかをする気はあるのですか?」

 婚約破棄される未来が見えているのなら、私はそれに耐えうる資金やら何やらを下準備をして、いつ婚約破棄を突きつけられてもいいようにせねば。というか、婚約破棄が目的なのでそういった考えが彼にあるのかを聞きたいと思ったのだ。
 このような考えがあっての発言だったのだが、それを聞いて彼はあからさまに表情をゆがめた。

「……なんだ、俺が浮気をしているとでも言いたいのか」

 そうとられてしまうのか。この偏屈が。

「……いいえ、違いますわ。私はただ、少しばかり気になったことがあっただけですよ」
「ほう?何が気になったんだ?」

 乙女ゲームの今後の展開が気になるので!
 ……とは言えないので私は「まぁ、少し」とお茶を濁しておいた。

「俺はベルベットに興味はない。そもそも俺はベルベットじゃなくて……その、」
「そうですか」

 ……今のところは、だろ!?どうせすぐあなたはベルベットを好きになって私を捨てるんだ。――いや、もちろん捨てられる原因(クラジオと両思いのベルベットをいじめた)は自分にあるのだが。そして私はそれを推進する。「ベルベットとクラジオくっつけ隊」団長として最前列で応援していく所存です。
 そして彼は何か言いかけていた気はするが、きっとどうでもいいことなのだろう。私はその言葉を遮った。

「分かりましたわ。それではまた」
「……おい」
「なんでしょう?」

 私はこれから荷造りを少しでもしておきたいんだ。過去の私は悪役令嬢そのもので、性格はねじ曲がっていた。だから私室はもので溢れかえっているのだ。あれが欲しい、これが欲しいとねだりまくった結果だ。
 自分の――否、アクレシアの荷物を一夜でまとめるのは骨が折れるのだ。特に高く売れそうなものを手荷物として、その他のものは適当に売ろう。だがそれにも荷物の選別が必要だ。しかも大量ときた。だから今のうちからしておきたいのに、なぜ婚約者サマは私を引き止めるんだ。

「……これから時間はあるか?」

 あらあら申し訳ありませんこと、私はこれから荷造りをしますの。あなたに婚約破棄を突きつけられる前にね!
 ――――なんて言ったらどうなるかということくらい私はよく分かっているつもりだ。心の中にしまっておいた方がいいだろう。言いかけた言葉を飲み込み、私は代わりに「えぇ、少しなら」と言っておいた。本当は御遠慮したいところなのだが、拒絶してしまうとしつこく理由を聞かれそうな気がしたので少しならと言ったのだ。

「一緒に茶でもどうだ」

 丁重にお断りします――と言えないのがつらい。

「ありがたくお受けしますわ」

 頑張れ私の表情筋。鉄壁の笑顔を保つんだ。
 婚約者サマは書類とペンを机に置くと、卓上にある小さなベルをチリンチリンと鳴らした。すると、1分も経たずに「失礼します」と一声かけ、侍女が入ってきた。

「なんですか」

 あからさまにイライラした表情を浮かべて侍女。……おい、こんなんでいいのか?侍女ってもっとお淑やかな――なんて言っても仕方ないか。

「茶」

 短くそう告げると、彼女は「はあぁぁぁ……だる」と大きな溜息をついた。それから私の存在に気がついたようで、少しだけ背筋が伸び「……失礼します」と言ってから出て行った。

「…………クラジオ様、彼女は?」

 思わず尋ねると、婚約者サマは困り顔を浮かべた。

「ちょっと色々あってな。剣の腕も立つみたいだからメイド兼護衛ってことで雇った」
「へぇ……」
「アイリスといってな、色々な事情を抱えながらリエールからはるばるやってきたメイドだ。不慣れなことばかりだろうから優しくしてやってくれ」
「えぇ、そのつもりですわ」

 ふむ、彼女はアイリスというのか。リエールからはるばるやってきたのならこちらの作法なども知らないのは仕方ない。

 ――――ってレベルじゃない!何あれ!?本当にメイドとしてこの先やっていけるの!?

 ……いや待てよ、アイリスってどこかで聞いたことのある名前だな。どこで聞いたんだっけ?

「…………あーーーー!思い出した!」
「おぉ、急にどうした。驚かせるな」
「申し訳ありません、私用事を思い出してしまいましたの!今日のところはこれで失礼しますわ!」

 バタバタと忙しく私は執務室を辞した。


 ――アクレシアが執務室を辞した入れ違いでアイリスが執務室に入ってきた。

「すまんな、アイリス。用意してくれたところだが、どうも俺の婚約者は用事を思い出したらしい」
「つまりわたくしの淹れた紅茶がひとつ無駄になったということですね。……はぁ」

 以前、砕けた口調で話していいと言ってしまったがために、かなり生意気なメイドが爆誕してしまった。こちらとしては些か不本意ではあるが、時折それを楽しいと感じてしまう。だから野放しにしてしまうのだ。俺は、こいつを甘やかしてしまうんだ。

 ――――いや、だがそれ以上に。

「……可愛いとこあるよな、アイツ。今まで見たことないくらい目キラッキラだったな」

 忙しく部屋を出て行った彼女を思い浮かべながらポソリと呟かれたそれは、誰にも拾われることなく虚空を漂っただけだった。
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