72 / 106
Phase:04 動き出した歯車
Side A - Part 6 狙え、撃て
しおりを挟む
Side A "Mio"
* * * * *
両手で構え、狙いを定め、息を整えて「当たれ」と念じる。
引き金は最初こそスカスカと軽かったけど、ある一点で何かが引っかかる感覚がしてから急に重くなった。油断して力を強めたところで、急に右手の人差し指がガクッと手前に吸い込まれる。
汗ばんだ手の中で、電子スターティングピストルの音がした。予想より強い反動が返ってきて、腕が大きく真上に跳ねる。
確かに胸を狙ったのに、相手は髪一本揺れていない。外した。あたしの腕では標的の輪郭すら捉えられないんだ。
「ダメ……りょーちん、当たらない!」
「落ち着け、まだ一発撃っただけだろ。泣き言を言うにはまだ早い。自分で創った法則を思い出せ、当たると思えば当たるんだよ」
知ってるよ、りょーちん。ビギナーズラックなんて、ご都合主義の世界だけ。現実はこれこのとおり、脚色されててもうまくいかない。
そうしてる間にも、子どものシルエットはさらに光の粒を取り込んでいく。足元から伝わる振動もますます強まってるのに、小林くんはまだ逃げようとしない。
「もういい、おれが迎えに行く。二人ともそこで――」
しびれを切らした月代先輩の申し出を、大型新人(物理)は途中で制した。大講堂に背を向けて、あたしのほうにまっすぐ歩み寄る。
「こ、小林くん!?」
「すいません、キャプテン。オレも残って戦います」
そして――あたしの背中越しに一回り大きな手を伸ばし、銃のグリップを握る手を優しくもしっかりと、包み込むように支えてくれた。
平凡なモブ女子がクラスの人気者、高身長スポーツ男子に後ろから密着されるという少女マンガみたいな展開に、ヤジと弾幕コメントと投げ銭が乱れ飛ぶ。
「おおー、コバっちダイターン!」
「大林。あとで殺す」
「なんで逃げないの!? あたしのことはいいから、早く――」
「さっき撃った時、縦にブレたろ? 肩と腕に余計な力が入ってるんだ。銃を握る時の力加減は、生卵を持つ時と同じくらい。握るっていうより、添えるイメージだな」
振り返ると、クラスメイトは真剣な眼差しで前を見据えていた。ゴールまでの道筋を計算し、至高の一発を叩き込むタイミングを計っている目だ。
この人の勝ちへの貪欲さ、真剣さはりょーちんにも負けてない。ギャラリーも異様な雰囲気を感じ取ったのか、徐々に静かになっていく。
「反動は抑えるんじゃなく、受け流すもの。もっと低く構えて、力抜いて」
「う、うんっ」
「オッケー、上手いぞ。そう――そこだ」
重ねた手から、小林くんの脈と体温が伝わってくる。直接触れ合ったことで、彼の見ている世界とあたしの視覚が同期し、ひとつに融けて交わる。
さっきまで影も形もなかった照準が視界に現れ、子どもの腰のあたりに狙いをつけた。これなら……今なら、いけるかもしれない。
「ターゲット、ロック。大丈夫だ、絶対できる!」
「当たる。当てる。当ててみせる――!」
ふたり分の強い意志を乗せて、さっきより慎重に右の人差し指へ力を加える。乾いた電子音がピロティに反響し、女の子の胸に風穴が開いた。
【きたああああああ】
【上達したなミオちゃん】
いくつものテロップが空中をすっ飛んでって、小銭のジャラジャラ跳ねる音が頭の中にこだまする。
そういえばこの投げ銭、誰の財布に入るんだろ。冷静に考えたら、世界観作った原作者への原稿料っていうかさ、あたしにもちょっとくれたってよくない?
『あっ、当たった!』
『小林選手、ナイスアシスト! 見事、敵の胸を撃ち抜きまし……』
でも、そんな冗談を言えたのはここまで。撃たれた敵が声もなく後ろに二、三歩ふらつくと、辺りを飛び交う光が一斉に消えた。
いち早く異変を察知したりょーちんが、ピストルを返せと言ってくる。胸騒ぎを覚えたあたしの前で、小さなシルエットがおもむろに顔を上げた。
目に入ったのは、表情が読み取れないのっぺらぼう。それなのに、そのはずなのに、視聴者を含め居合わせた全員が怒りに満ちた声をはっきり聞いた。
『――許さない』
「え……」
『ゆるさない。許さない。許さない許さなゆるさアアアアア!』
ホバリングしてた中継ドローンの音声が急に途絶える。思ったより大型のメカは白い煙と異音を勢いよく吐き出すと、一直線にあたしのほうへ突っ込んできた。
電子スターティングピストルが立て続けに鳴る。プロペラの軸を狙ったりょーちんの射撃は正確で、しかも速い。AIカメラを騙して故障させ、ぶつかる前に墜落させようとしてくれてるんだ。
(だけど、その「目」が故障したドローンには攻撃を受けてる自覚がない。これって、人間の幻想看破と同じ状態……!)
「チッ――ダメか、小林!」
最推しの舌打ちに目で応え、小林くんはあたしを押しのけるようにしてドローンの軌道上に割り込んだ。迫り来る巨大な鉄の虫を前に、サッカー班の大型新人が立ちはだかる。
「小林くん! 何を――」
「墜ちろ、クソ虫! おらぁあああッ!」
鋭く閃いた右脚が、プロペラを備えた腕の何本かを正確に蹴り砕いた。バランスを崩し、ふらつきながら元の航路へ戻ろうとするドローンに、追撃のボレーシュートが襲いかかる。
鉄くずはピロティを支える柱に激突し、搭載されたリチウムイオン電池の発火によって爆発炎上。これで目先の脅威は排された。あとはこの光る女の子――〈エンプレス〉をどうにかすればいい。
「やった……! りょーちん! オレ、やりましたよ!」
「いや、まだだ。あいつが来る」
「あいつ?」
「目を覚ましたって言われただろ。後半戦の始まりだ」
足元が揺れる。空気が凍る。騒がしいスタジアムでもめったに聞かないような大声で、武器を手にしたストライカーが叫ぶ。
「みんな! かかれ――!」
* * * * *
両手で構え、狙いを定め、息を整えて「当たれ」と念じる。
引き金は最初こそスカスカと軽かったけど、ある一点で何かが引っかかる感覚がしてから急に重くなった。油断して力を強めたところで、急に右手の人差し指がガクッと手前に吸い込まれる。
汗ばんだ手の中で、電子スターティングピストルの音がした。予想より強い反動が返ってきて、腕が大きく真上に跳ねる。
確かに胸を狙ったのに、相手は髪一本揺れていない。外した。あたしの腕では標的の輪郭すら捉えられないんだ。
「ダメ……りょーちん、当たらない!」
「落ち着け、まだ一発撃っただけだろ。泣き言を言うにはまだ早い。自分で創った法則を思い出せ、当たると思えば当たるんだよ」
知ってるよ、りょーちん。ビギナーズラックなんて、ご都合主義の世界だけ。現実はこれこのとおり、脚色されててもうまくいかない。
そうしてる間にも、子どものシルエットはさらに光の粒を取り込んでいく。足元から伝わる振動もますます強まってるのに、小林くんはまだ逃げようとしない。
「もういい、おれが迎えに行く。二人ともそこで――」
しびれを切らした月代先輩の申し出を、大型新人(物理)は途中で制した。大講堂に背を向けて、あたしのほうにまっすぐ歩み寄る。
「こ、小林くん!?」
「すいません、キャプテン。オレも残って戦います」
そして――あたしの背中越しに一回り大きな手を伸ばし、銃のグリップを握る手を優しくもしっかりと、包み込むように支えてくれた。
平凡なモブ女子がクラスの人気者、高身長スポーツ男子に後ろから密着されるという少女マンガみたいな展開に、ヤジと弾幕コメントと投げ銭が乱れ飛ぶ。
「おおー、コバっちダイターン!」
「大林。あとで殺す」
「なんで逃げないの!? あたしのことはいいから、早く――」
「さっき撃った時、縦にブレたろ? 肩と腕に余計な力が入ってるんだ。銃を握る時の力加減は、生卵を持つ時と同じくらい。握るっていうより、添えるイメージだな」
振り返ると、クラスメイトは真剣な眼差しで前を見据えていた。ゴールまでの道筋を計算し、至高の一発を叩き込むタイミングを計っている目だ。
この人の勝ちへの貪欲さ、真剣さはりょーちんにも負けてない。ギャラリーも異様な雰囲気を感じ取ったのか、徐々に静かになっていく。
「反動は抑えるんじゃなく、受け流すもの。もっと低く構えて、力抜いて」
「う、うんっ」
「オッケー、上手いぞ。そう――そこだ」
重ねた手から、小林くんの脈と体温が伝わってくる。直接触れ合ったことで、彼の見ている世界とあたしの視覚が同期し、ひとつに融けて交わる。
さっきまで影も形もなかった照準が視界に現れ、子どもの腰のあたりに狙いをつけた。これなら……今なら、いけるかもしれない。
「ターゲット、ロック。大丈夫だ、絶対できる!」
「当たる。当てる。当ててみせる――!」
ふたり分の強い意志を乗せて、さっきより慎重に右の人差し指へ力を加える。乾いた電子音がピロティに反響し、女の子の胸に風穴が開いた。
【きたああああああ】
【上達したなミオちゃん】
いくつものテロップが空中をすっ飛んでって、小銭のジャラジャラ跳ねる音が頭の中にこだまする。
そういえばこの投げ銭、誰の財布に入るんだろ。冷静に考えたら、世界観作った原作者への原稿料っていうかさ、あたしにもちょっとくれたってよくない?
『あっ、当たった!』
『小林選手、ナイスアシスト! 見事、敵の胸を撃ち抜きまし……』
でも、そんな冗談を言えたのはここまで。撃たれた敵が声もなく後ろに二、三歩ふらつくと、辺りを飛び交う光が一斉に消えた。
いち早く異変を察知したりょーちんが、ピストルを返せと言ってくる。胸騒ぎを覚えたあたしの前で、小さなシルエットがおもむろに顔を上げた。
目に入ったのは、表情が読み取れないのっぺらぼう。それなのに、そのはずなのに、視聴者を含め居合わせた全員が怒りに満ちた声をはっきり聞いた。
『――許さない』
「え……」
『ゆるさない。許さない。許さない許さなゆるさアアアアア!』
ホバリングしてた中継ドローンの音声が急に途絶える。思ったより大型のメカは白い煙と異音を勢いよく吐き出すと、一直線にあたしのほうへ突っ込んできた。
電子スターティングピストルが立て続けに鳴る。プロペラの軸を狙ったりょーちんの射撃は正確で、しかも速い。AIカメラを騙して故障させ、ぶつかる前に墜落させようとしてくれてるんだ。
(だけど、その「目」が故障したドローンには攻撃を受けてる自覚がない。これって、人間の幻想看破と同じ状態……!)
「チッ――ダメか、小林!」
最推しの舌打ちに目で応え、小林くんはあたしを押しのけるようにしてドローンの軌道上に割り込んだ。迫り来る巨大な鉄の虫を前に、サッカー班の大型新人が立ちはだかる。
「小林くん! 何を――」
「墜ちろ、クソ虫! おらぁあああッ!」
鋭く閃いた右脚が、プロペラを備えた腕の何本かを正確に蹴り砕いた。バランスを崩し、ふらつきながら元の航路へ戻ろうとするドローンに、追撃のボレーシュートが襲いかかる。
鉄くずはピロティを支える柱に激突し、搭載されたリチウムイオン電池の発火によって爆発炎上。これで目先の脅威は排された。あとはこの光る女の子――〈エンプレス〉をどうにかすればいい。
「やった……! りょーちん! オレ、やりましたよ!」
「いや、まだだ。あいつが来る」
「あいつ?」
「目を覚ましたって言われただろ。後半戦の始まりだ」
足元が揺れる。空気が凍る。騒がしいスタジアムでもめったに聞かないような大声で、武器を手にしたストライカーが叫ぶ。
「みんな! かかれ――!」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる